幻の君 (松平晃・二葉あき子)。
松平晃と二葉あき子の歌う「幻の君」。西條八十作詞、竹岡信幸作曲で、松竹大船作品「新女性連盟」主題歌とあります。一時間余りの短編映画で、監督は原研吉が務め、出演は高峰三枝子、木暮実千代、徳大寺伸、細川俊夫など。当時「愛染かつら」や「純情二重奏」などの一連も松竹メロドラマ映画と、主題歌を提供するコロムビアレコードのタッグによって、日本の流行歌市場は黄金期を謳歌していました。大陸の戦火は止まず欧州の戦雲も漂う中、映画主題歌や戦時歌謡が次々と世に流れて、人々は激動の時代の只中に在りながらも歌や映画と云う娯楽に酔い知れていた訳です。その中には「愛染かつら」の様に後世に語り継がれた作品もあれば、期待した割にパッとせず忘れ去られた作品があるのも世の常。中にはフィルムが失われて、今や観たくても観れない映画もありました🎬。
「幻の君」は、裏面側に組まれた感傷的なメロディですが、往年の名歌手松平晃と、戦前は清純派で売っていた二葉あき子の個性が上手く一致した一曲。四番構成で、サックスなどブラス陣みよる沈んだトーンの音色が夜の帷を思わせます。西條八十の片想いを描いた歌詞には、まだ見ぬ将来の恋人、或いは一度しか合間見えていないのに忘れられない異性への思慕が綴られており、他のラブソングとは違う奥ゆかしさを感じた次第。後半の間奏ではミュート・トランペットがリードして、溢れる様なピアノが良い味を出しておりました。竹岡信幸の楽曲は派手に大ヒットした曲は多くはないものの、印象に残る曲が多く人々に愛唱されたと過去の解説にもありますが、此の歌も間違いなくその一つと言えるでしょう。映画は昭和15年1月公開、レコードは3月新譜として発売されています😀。