ヘンリー8世:離婚問題からイギリス宗教改革へ
ヘンリー8世はイギリスの国王(1491ー1547)。王妃との離婚問題により、イギリスの宗教改革を引き起こした。この宗教改革が近世イギリスの命運に大きな影響を与えることになる。よって、ヘンリーの生涯と功績をみることで、近世イギリス史の根本部分を理解できるようになる。
ヘンリー8世(Henry VIII)の生涯
ヘンリー8世はヘンリー7世の二男として生まれた。兄のアーサーが夭折した。1509年、父も没したので、ヘンリー8世として即位した。
父はチューダー朝の創始者であり、新たなイギリス王権を基礎づけた人物だった。ヘンリー8世がこれを発展させていく。
ヘンリー8世はイギリスとフランスの敵対関係の中で、イギリスとスペインの友好関係のために、アラゴンのキャサリンと結婚した。
離婚問題
だが、ヘンリーは後継者問題に悩むようになった。上述の王妃キャサリンとの間には、子どもが生まれた。すべて女子だった。当時の王位継承の観点からすれば、男子の誕生が望まれた。
そこで、ヘンリーはキャサリンと離婚して、アン・ブーリンと結婚しようとした。そのために、のローマ教皇から許可を得ようとした。
その背景として、当時のカトリックの教義では、結婚は重要な宗教儀式でもあった。それゆえ、離婚には、カトリック教会のトップである教皇の許可が必要だとされていた。
だが、教皇は当時の国際情勢を考慮して、この離婚の要望を拒否した。ヘンリーは教皇の許可を得ないまま、ブーリンとの結婚を1533年に断行した。そこから、後のエリザベス1世が生まれることになる。
イギリスの宗教改革:トマス・モアの処刑
この離婚問題が引き金となって、ヘンリーはイギリス(イングランド)をカトリック教会から離脱させ、英国教会を樹立した。英国教会はプロテスタントの一つである。
具体的に、まず1533年、上告禁止法が制定された。これはイギリスで行われた裁判結果について教皇に上訴するのを禁止する法律である。よって、それまでとは異なり、教皇をイギリスの司法システムから排除することになった。
次に、1534年、国王至上法が制定された。これにより、イギリス国王をトップとする英国教会が打ち立てられた。かくして、ヘンリーは宗教改革を上から断行した。これは隣国のスコットランドでの下からの宗教改革と対比されることになる。
ほかにも、1539年に、ヘンリーはイギリスのすべての修道院を解散し、その貴金属を没収して売却した。当時のイギリスの修道院の年間収益は当時の国家の経常収入に匹敵した。
英国教会のカトリック的要素
ヘンリーの宗教改革は教会の外的側面に関するものが主だった。結果的には、多くの部分がカトリックと大差ない状態で残された。
たとえば、カトリックの化体説にもとづくミサが依然として支持された。
化体説とは、ミサの儀式でパンがキリストの肉に、ワインがキリストの血に化けるという教義である。 プロテスタントでこの教義を受け入れる宗派は例外的といえるほど、この教義は槍玉に挙げられていた。だが、ヘンリーはそれを否定せず、カトリック的なミサを続けさせたのである。
ただし、1536年と38年の国王宗教指令は、カトリックから離脱するような内容も含んでいた。たとえば、聖画像と巡礼を迷信として非難した。
聖画像や巡礼は中世カトリック教会の中核的要素の一つだった。ルターやカルヴァンなどのプロテスタントはこの聖人崇拝を主要な批判対象にした。よって、ヘンリーの英国教会はこの点で彼らと軌を一にしたといえる。
ヘンリーの宗教改革には反発が生じた。たとえば、トマス・モアはこれに反対した。その結果、処刑された。イギリス北部では反乱が生じたが、鎮圧された。
その他の展開
対外的には、ヘンリーはウェールズとの合同を開始した。スコットランドがイングランドに進軍してきたが大敗し、フランスとの結びつきを強めて対抗することになっていく。
たとえば、スコットランドのメアリー・スチュワートがフランスの王子と結婚する。これに対抗する中で、イギリスは財政が悪化した。
ヘンリー8世の娘エリザベス1世の時代に、スコットランドでは宗教改革が起こり、メアリー・スチュワートがイギリスに亡命するなどして、両国の状況は複雑にからみ合うことになる。その下地はヘンリーの時代に形成されていた。
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おすすめ参考文献
指昭博編『ヘンリ8世の迷宮 : イギリスのルネサンス君主』昭和堂, 2012
川北稔『イギリス史』山川出版社, 2020
Mark Rankin(ed.), Henry VIII and his afterlives : literature, politics, and art, Cambridge University Press, 2012