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カイカダル~消えた巨大都市~

 『カイカダル』という街の名前を聞いたことがあるだろうか?


 『タバリーの年代記』に記されている、古代においてアーリア人の王カイ・カーウース悪魔に命じて造らせた超巨大都市のことである。

 どれくらい巨大かというと、街の長さが8百パラサングに達した、というのだ。

 パラサングとは古代イランで使用された単位であり、1パラサングは約 5.35 kmであるという。
 ということは、

 5.35 × 800=4280km

4280キロメートル??



 
これは1辺の長さなのだろうか?それとも、周囲の長さなのだろうか?


 1辺の長さだとすると、もはやとんでもないことになる。

 北海道の最北端から九州の最南端まで直線距離にして2000km弱なのだから、その2倍以上長いことになる。
 東京からカンボジアまでの距離がちょうどそれくらいだ。
 アメリカ合衆国の西海岸から東海岸までの距離もだいたいそれくらいだ。

 これはもう街じゃない。である。

 周囲の長さだとしても、正方形にすると1辺が1000km以上になるわけで、やはり国である。

 四角い国代表としてエジプトで測ってみたら、近かった。


 やはり国である。どう考えても街のサイズじゃない。

 そんな非常識なまでに超巨大であるというのに、カイカダルの街は、金、銀、銅や真鍮にレンガなどでできた城壁で囲まれていたという。

 悪魔たちはその中に人と動物に財宝などを運び入れた。

 空っぽの町を造ってから人をよそから運び込むという……、
 これは、完全なる計画都市である。



 街を建設した悪魔たちというのは、敵対していて征服された民のことだろう。

 イランの悪魔はダエーワ。インドのデーヴァに相当する。インドでデーヴァは神のことである。

 ということは、カイカダルを建設した悪魔たちというのは、インド人のことなのだろうか?
 


 興味深いことに、サンスクリット語のkadarthaには「役に立たないもの」「無意味な」という意味がある。

 また、インドにはKadurという名の町がいくつか存在する。
   そのうちのカルナータカ州にあるkadurは「ヘラジカの町」という意味であるというが真偽は不明だ。地名の由来の伝承が怪しいのはどこも一緒である。

カルナータカ州のkadur


  カイカダルは「カイカドゥル」とも言う。

 カイはカイ王朝のカイだとしても、その下につづくのが「ヘラジカの町」というのはなんか違う気がする。

 それなら、『年代記』はアラビア語で書かれたことだし、アラビア語の「贈り物」を意味するhadir、アッカド語ではkadrûとして、「カイ王朝の贈り物」や「カイの置き土産」としたほうがしっくりとくる。

 要するに、街の名前は残っていないので、「カイ王朝の遺産」みたいな感じで呼ばれていたよ、ということなのかな、と。

 いずれにせよ、タイムスリップでもしなければ確かめようのない話ではある。


 それに、もし、インドにカイカダルの町があったとするのなら、大きさ的にデカン高原のほとんどがカイカダルの町になってしまう。
 イラン方面にあったとするなら、アフガニスタンはすっぽり入ってしまう。


 そもそもの話、こんな超巨大な計画都市がこの世に存在し得るのだろうか?



Yes, we can!




 ─────え⁉



 『カイカダル』の規模には及ばないものの、最近、サウジアラビアが

『ネオム』


という、とんでもない巨大計画都市の建設を計画しているようだ。

 海面も含めた予定地の面積が26500平方kmということで、国土面積22072平方kmのイスラエルよりも大きいことになる。

 街でも県でもなく国レベルの大きさ!

 一部はもう建設がはじまっているという。

 ネオムに関しては計画段階からしてすでに伝説の域なので、これからの動向を注視していきたい。そして、いつか遊びに行きたい💛

 
 あと、ちょっと気になるのが、ネオムの領域に『出エジプト記』で神が現れたシナイ山と推定されるラウズ山が入っていることだ。

 ここには手を付けずに保護区にするのか、それとも、切り崩して何かを造るのか。

 シナイ山は別名ホレブ山とも言い、ヤハウェの神の山である。

 今のところ、ラウズ山の位置に大きなものを建設する計画はないようだが、これを更地にした場合、ムハンマド・ビン・サルマーンが無事でいられるのかどうか、ちょこっと興味がある。




 ───さて、

 『カイカダル』の街は、神が遣わした破壊者によって破壊されることになる。
 
 破壊者から街を守ることのできなかった悪魔の頭領たちは、カイ・カーウースによって殺されてしまう。


 神が遣わした破壊者とは、天使であったのか、それとも軍勢を引き連れた人間の王であったのか?

 あるいは、『カイカダル』の話自体が根も葉もない作り話なのか───。



 まだ知名度の低いこういった伝説にこそ、多くのロマンが詰め込まれている。



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