マッサゲダイはトルコ系かイラン系か?
アケメネス朝ペルシアのキュロス大王が遠征して敗北を喫した民族、マッサゲダイ。
女王トミュリュスは「約束通り、飽くまで血を飲ませてつかわす」と、キュロスの生首を血で満たされた皮袋に入れた───。
そんな強く、苛烈で、謎の多い民族マッサゲダイ。
最近、現地のカザフスタンが映画化してくれた。
でも、最後のキュロスが討ち取られるシーン……、あれはないだろう。キュロスは武人である。もっと激戦の末に死んだと思いたい……。
アゼルバイジャンのニザーミー博物館に行った時のこと、案内してくれた女性の名前がトミュリュスだった。
アゼルバイジャンは現在トルコ系国家である。
じゃあ、トミュリュスも、マッサゲダイも、トルコ系なの?と尋ねたら、「もちろんよ」とのこと。
言われてみれば、トミュリュスの発音は母音調和を起こしていてトルコ語っぽい。
ではなぜイラン系疑惑があるのかというと、マッサゲダイはイラン系言語を話したからだという。
しかし、交易に携わることの多い遊牧民がバイリンガルなのはよくあることである。
昔のウイグル人だって、交易ではトルコ語を駆使しながら、ウイグル人同士で話すときには自らの言語で話していたという。それが、今ではすっかりトルコ系言語を話す民族になっている。
こういうことがあるから、マッサゲダイも、もともとどっちなのかがわからないのだ。
しかし、である。
トルコ人というのは、モンゴル人の先祖とイラン系の民族が混じり合って生まれたという話がある。だから、マッサゲダイがトルコ系かイラン系かという論争の答えは、どっちでもある、かもしれない。
トルコもモンゴルもろくに文書を残してくれないから、後世の研究者たちが困ってしまうのですよ、もう。
ニザーミーは美しいペルシア語の物語詩を残した詩人である。アゼルバイジャンのギャンジャで生まれ育ったが、父親はイランのゴム出身、母親はクルド人と伝えられているのでトルコ人ではなさそうだ。
彼の著作には『ホスローとシーリーン』や『ライラとマジュヌーン』などがある。シュメール時代から受け継がれているであろう同音異義語の言葉遊びが面白い。岡田恵美子さんの日本語訳も万華鏡のように色鮮やかですばらしく美しい。
……ホスローもマジュヌーンもダメ男だけど。