見出し画像

隠蔽される17世紀の大洪水

 破局的な大洪水は、世界的に見れば過去に何度も起きている。ノアの洪水として記録された滅亡レベルの洪水はただ一度だけかもしれないが、局所的に準滅亡レベルならば何度か起きていたようだ。

 シュメール時代には高潮なのか海面が上昇したのか、広い範囲が海水につかる被害が発生したようだ。
 紀元前2千年紀には、ギリシャ世界で有名なデウカリオンの洪水が起きている。
 その後もエーゲ海で大津波が起きた記録があり、ギリシャでは多数の死者を出している。
 
 その後も高潮や嵐による洪水はあちらこちらで記録されているが、最も謎めいているのが、17世紀に起きた北半球の大洪水だ。


 16世紀の中ごろから世界的に寒冷化がはじまり、北アメリカのミシシッピ文化が途絶。
 17世紀に入ると、1601年から1603年にかけて夏のない年が続き、スカンジナビアでは農地が放棄され、ロシアでは大飢饉が発生する。
 メルカトルの北極地図は、北極周辺の陸地が徐々に海に浸食されているかのように修正された。
 その後、1655年から1660年にかけてポーランド・リトアニア大洪水という事件が起り、人口の3分の1が亡くなったという。一応、主流の見解としてはスウェーデンとロシアによる侵略のことを大洪水と呼んだとしているが、ほかにそのような例はない

 まるで恐怖の14世紀の再来を思わせる。⇒⇒天罰くらいひどい14世紀


 これらの原因は何だったのか?
 わかっているのは、極端に寒冷化した、ということくらいだ。

 水は液体から個体に変化すると体積が増す。だから、北極海が凍ったとき、海の体積が増して洪水となりシベリアやポーランドに押し寄せたのかもしれない。

 このように、寒冷化により北半球では未曽有の大災害が起きていた…はずなのだ。
 はず、と言うのは、そのころ、ユーラシア大陸の大半を支配していたのはモンゴルとトルコであり、彼らは記録を残すことをほとんどしなかった。シベリアからカムチャッカにかけてモンゴル系人種とツングース系の諸民族が住み着いていたはずだが、気が付いたらあっさりロシアが領有していた。モンゴル・トルコとの大合戦もなしに、だ。

 それより南のイランでも、ひそかに大事件が起きている。
 もともとカスピ海の南西の端は現アゼルバイジャンのバクーあたりだったはずだが、17世紀後半の地図ではカスピ海が縦長になり、バクーはカスピ海西部の中ほどに位置するように変化している。
 カスピ海南端の緯度が明らかに南下しているのだ。
 沈んだ地域にはたくさんの町があったはずで、普通に考えて大事件である。なのに、このことに関する資料が出てこない。昔の人がカスピ海の形を間違えたというわけでもなさそうだ。なぜなら、地図に記されている主要都市は位置も名前も現代地図とほぼ同じだからだ。


 国土地理院の色別標高図を見ると、北極海からカスピ海北部、または昔はカスピ海とつながっていたアラル海北部にかけて低地が続いているのがわかる。ここまで北極海の海水が押し寄せたのかもしれない。というのも、カスピ海のアザラシは、北極にいるキタアザラシ亜科のワモンアザラシの近縁種であるそうだ。洪水に乗ってカスピ海に移り住んだのだろうか。

 となると、シベリアで見つかった冷凍マンモスや冷凍ライオンは、そのときの洪水で土砂に埋められて急速冷凍されたものかもしれない。


 そもそもシベリアはずっと凍っていたわけではない

 温暖期の地図では北極海近くまで町が描かれている。ということは、町を形成できる人数を養えるだけの資源があったことになる。狩猟採集だけで町を維持することはできない。交易していたと言っても、車や飛行機がある現代でさえ北極海沿岸地域は人もまばらで輸送には時間とコストがかかる。だから、今では無人の土地にも集落があったということは、北極海周辺でも作物を育てられるような気候の時期があったと考えていいだろう。

 このような事情があって、ちょっと前に流行ったマッドフラッド説が現れたようだ。たしかに大規模な泥の洪水は過去に起きている。洪水は水だけが押し寄せるのではなく、土砂も一緒に押し流す。土砂に埋もれた町々は世界中にある。地中から発掘される古代遺跡のうちにも、洪水の土砂で埋もれたものは多々あるはずだ。なぜ遺跡を発掘しなければならないのか?土砂に埋もれてしまっているからだ。


 中世の温暖期には農業可能な北限のラインが現在よりもずっと北にあり、そこにはつい数百年前までマンモスがいたかもしれないのだ。


 ……しかし、それでは困るのが進化論、と言われている。進化論者にとって、マンモスは古代に絶滅していなければならないようだ。でも、マンモスってゾウさんだよ?ゾウなんて今でもいっぱいいるのに、毛が生えただけで古代生物確定とはいったいどういうことなのか?
 そんなわけで、17世紀の寒冷化と大洪水に関する研究には、あまりスポットライトが当たらないのかもしれない。文字資料も少ないし。


 ここ何年か、世界中でやたらと大規模な洪水が頻発している。甚大な被害を受けた地域の人々が、寒くなる前に温かい避難場所に収容されることを祈るしかないが…。


《もくじページへ移動》

《歴史バカの大冒険 トップぺージ》


 



いいなと思ったら応援しよう!

歴史バカ
 もし記事を気に入ってくださいましたらサポートいただけますと励みになります。いただきましたものは資料の入手に使わせていただきます。

この記事が参加している募集