第36回ファンタジア大賞を振り返って
先日、第37回ファンタジア大賞の結果が発表された。
どの作品もすごく輝いてみえた。
タイトルから、あらすじから、「面白い!」があふれていた。
各作品の印象はどこかで語りたい。
第36回ファンタジア大賞の作品
さて、第36回ファンタジア大賞の作品も、もうじき全て発表される。
どの作品もめっっっっちゃ面白かった。
以下、各作品について感じたところを綴る。
新田漣先生:君と笑顔が見たいだけ
お笑いの求道者であり、人々を楽しませるために、楽でない道も歩む人。
私の目に、新田先生はお笑いの高みを目指す克己の人として映った。
その新田先生の「君と笑顔が見たいだけ」は、お笑いという沼のなかに輝きを求めた高校生たちの、泥まみれの青春を明るい筆致で綴った作品だった。
泥の中に輝きが眠っているかは分からない。
掘り進めて、最後に得るものは徒労感だけかもしれない。
「そんなもののために、青春という貴重な宝を供物にする覚悟はあるか?」
自問し、自答し、前に進む――眩い青春を閉じ込めた大満足の一冊だった。
なにより、漫才がとても面白い。
紙面でこの臨場感を表現するなんて、まったくもって畏れ入る。
可笑林先生:血眼回収紀行(チマナコリコールトラベログ)
趣味の映画を、趣味に止めることなく深堀りし、やがて芸術に昇華させる。
私の目に、可笑林先生は物語の深みを見つめる探求の人として映った。
作品を一言で言い表すなら「お洒落!」――これに尽きる。
そう、本当にお洒落だった。地の文の描写も、主人公のセリフも、魅力的な悪役、小見出しの付け方からデザインまで何もかもが。
趣味であるという洋画を源泉として、お洒落の奔流を生み出している。そして主人公の活躍はハードボイルド。周囲を焼き払うような情熱を深奥に燃やしつつ、それを隠すような煤けた生き様……これが読後感に刺さる。
最初から最後まで、超濃縮のお洒落を存分に堪能できた一冊だった。
(カクヨム版も非常に良かった)
大空大姫先生:ナメてるお嬢を俺がわからせた
会話のひきだしが豊かで、理智深く、若くして才能に溢れる人。
私の目に、大空先生は豊かな言葉の土壌を持った才人として映った。
が、うん。まさかここまで攻撃力の高い作品を生み出す人とは予想外。
本当に面白かった。腹筋にくる笑い……というレベルを通り越えて、もっと体の奥まで……腸腰筋にくる笑いのオンパレード。
腰痛持ちの私にとって、薬効が期待できる作品だった。
それもこれも、大空先生のキャラメイクの素晴らしさゆえ。
特に「妹」は卑怯なほど。あんなもん、どんなシチュエーションに放り込んだって、絶対に面白くなるに決まっている。
選考委員の先生方から、キャラについて大絶賛されていたが、これは納得!
逆巻蝸牛先生:女王陛下に婿入りしたカラス
研究を怠らず、専門性を磨き上げ、作品に惜しみなく知識を投下する。
私の目に、逆巻先生は学問に身を投じた練熟の人として映った。
作中世界のモデルはハンガリーだという。
逆巻先生はハンガリーの歴史について有識であるとうかがっていたが、作品に触れると、本当に通じている方なのだと分からされた。
私はハンガリーの知識に有識ではない。だから逆巻先生をジャッジできる立場に本来ないのだが、そんな私にすら「この先生は凄い人だ」と断言できてしまうくらい、学術資本が惜しみなく投下され、そして分かりやすく語ってくれた一冊だった。
知識を深堀したいと思い、電子辞書を片手に読み終えて、抱いた感想は……「贅沢!」
物語として面白いことはもちろんとして、単なる娯楽以上のものを私に提供してくれる、贅沢な読書体験になった。
作中の言葉を借りるなら『一撃で二匹のハエを撃つ』作品だろう。
そしてトリを飾る作品――
服部大河先生:はじめよう、ヒーロー不在の戦線を。
挑戦を恐れず、笑いを忘れず、確かな一歩を刻み続けることができる人。
私の目に、服部先生は物事に挑戦し続ける情熱の人として映った。
その服部先生の作品が、10月19日に発売される。
熱いロボットものだと聞いている。ワクワク感が早くも満ちている。
個人的に心奪われたのは、搭乗兵器の設定。
「『主人公らしさ』を力に変える」――なんだこの素敵な設定⁉
表現者として、この設定はとても気になっている。
物語を熱くすることも、キャラの過去に厚みを持たせることもできる。
この設定が持つ強みを改めて考えた時、目の付け所が凄いと思った。
その設定を存分に活かした『主人公化計画』とは一体どのようなものか。
その答えをできるだけ多くの方々と共有したい。
「はじめよう、ヒーロー不在の戦線を。」を予約をしてもらえると嬉しい。
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