自己嫌悪 - 古書店の窓に映る自分

雨上がりのロンドンの空気が、いつもより少し重く感じる。窓越しに見える通りは、まだ湿った石畳が薄暗い灰色に輝いている。朝のこの時間、普段なら既に仕事を始めているはずなのに、今日はなぜか机に向かう気になれない。

コーヒーを淹れながら、昨日のことを思い出す。新しく赴任してきた同僚のJamesとの会話が、どうしても頭から離れない。彼の几帳面さと完璧主義的な態度が、妙に気に障った。「なぜあそこまで細かいことにこだわるんだ」と、内心では苛立ちを覚えていた。

しかし、一晩経った今、その感情の正体が少しずつ見えてきた気がする。コーヒーの香りが部屋に広がる中、ふと気づく。Jamesに対する苛立ちは、実は自分自身への投影だったのではないか。

私もまた、誰にも負けないほど几帳面で完璧主義的なところがある。締め切りに追われる日々の中で、その性質が自分を苦しめることもしばしばだった。Jamesの姿に、自分の影を見てしまったのかもしれない。

窓の外では、早朝の静けさを破るように、パン屋の看板が風に揺れる音が聞こえる。その音に導かれるように、私は外に出ることにした。

濡れた歩道を歩きながら、自分の内なる声に耳を傾ける。他人に対して感じる違和感や苛立ちは、往々にして自分自身の影なのだと。それは自分の嫌な部分かもしれないし、あるいは向き合うのを避けてきた側面かもしれない。

ポートベロー・マーケットに差し掛かると、早朝にも関わらず既に活気が漂っている。野菜を並べる店主、コーヒースタンドの前で談笑する常連客。彼らの姿を見ていると、人間関係の複雑さと美しさを感じずにはいられない。

ふと立ち止まり、古書店の窓に映る自分の姿を見つめる。そこに映るのは、完璧を求めすぎる自分。それと同時に、その不完全さを受け入れようともがく自分。

Jamesの姿を通して、私は自分自身のより深い理解へと導かれたのだと気づく。他者との関わりは、まるで鏡のよう。そこに映るのは、他でもない自分自身の姿なのだ。

雨上がりの空気が、少しずつ軽くなっていくのを感じる。マーケットの喧騒を背に、静かに歩を進める。今日という日が、自分自身と、そして他者とより深く向き合うきっかけになるのかもしれない。そう思いながら、私は朝もやの中に溶け込んでいった。

Atogaki

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