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自転車の唄 その2 

 こんなウイルスが流行る前から、自転車の後部座席は私の定位置だった。彼が小学生の二年生の時に、初めて自転車の後ろに荷台をつけたのを覚えている。『お前、漕ぐの遅いから、公園行くときは後ろな!』と、日焼けした真っ黒な顔で微笑まれて以来、私は彼の虜だ。今は、あのほっそりした姿はすっかり広い背中になって、私の目の前で相変わらずペダルを漕いでくれている。彼の低い声は、もうあの日の少年のものではなかった。

 「あのさ」なあに?ソウスケ。「当たってんだけど。」当ててんのよ、と定番の応え。彼の広い背中に、彼の制服のシャツに顔を埋めると、逞しい筋肉の躍動と、呼吸と、汗の匂いが感じられた。男の汗の匂い。今までそんなことはないのだけれど、彼に抱きしめられているようで、昂ぶった。「そういうの、やめてくれないかな。誤解されるから。それに、恥ずかしいし。」

 彼が何を恥ずかしがっているか、私にはわからない。男同士じゃないか。一方通行の小路を、何の躊躇いもなく、今日も自転車が駆け抜けてゆく。


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