将棋初段になるための具体的な方法を考える
息子が将棋に取り組む姿を身近で観察してきました。
これは完全な初心者から有段者に至るまでの過程をトレーナー目線で記録し、それを可能な限り再現性のある”将棋初段への道”としてまとめたものです。
タイトル写真は将棋の練習をしている長男を邪魔する次男です。
はじめに
将棋初段と言っても、いろいろな方法で棋力認定がされ難易度も様々です。ここでいう将棋初段は将棋ウォーズ10分初段としておきます。
将棋は局面の進み具合によって「序盤」「中盤」「終盤」に分けられます。それぞれについて求められる棋力とそれを養うための練習法をまとめます。
なお「序盤」は駒組から開戦(駒がぶつかる)まで、「中盤」は開戦から「終盤」まで、「終盤」は相手陣に駒が侵入して相手玉や囲いに攻撃できるようになったら、としておきます。
練習の優先度は、終盤 >序盤 >中盤と考えています。
その理由は、
①終盤は最低限到達しておきたいレベルがある。(逆に言えばそのレベルには到達しているならとりあえず後回しにしてもいいと思います。)
②序盤は練習すればするほど上達しやすく練習の効果が出やすい。
③中盤は最も練習しにくく、練習の効果がわかりにくい。
と考えているためです。
1 終盤
息子の成長を観察して感じた終盤力の印象はだいたい以下のとおりです。
まずは、流れで指していて生じた詰みは逃さないということ、次の段階は”狙って"詰みをつくりにいくこと、最後は自分の玉も気にすることができるようになると、だいたい初段くらいの終盤力ではないかと思っています。
さらに初段の先となると、これらの深さと精度を高めていくイメージです。
さて、具体的にどのような練習で上記の課題がクリアできるか考えてみます。
詰め将棋
落ちてる詰みを拾えるようになるためには「なんとなく詰んでる気がする…」という嗅覚を身につける必要があります。
そのために詰め将棋を解いて詰む形を覚えます。
教材は有名な『ハンドブックシリーズ』で良いでしょう。
取組み方としてはまずハンドブックの前半40問の答えを覚えます。そして日を変えてその40問が解けるか試します。繰り返し行ってその40問が完璧になったら次の40問で同じことをします。
ポイントは2つ
①いきなり200問やろうとすると途中でダレてしまって続かない可能性があるので、区切って取り組むこと。
②”解く”のではなく”覚える”ということ。あくまで詰む形を覚えるために取り組んでいるということを意識します。解けるかどうかという視点で取り組むと解けない時に嫌になってしまう可能性があります。
詰めろや必至
5手詰めハンドブックが終わる頃になると、3級くらいの終盤力はついていると思います。ただ、このまま7手詰め、9手詰め…と取り組んでいけば簡単に初段になれるのかというと、やや遠回りだと思います。
実は息子は4歳で将棋を覚えて、すぐに7手詰めまでは解けるようになっており、5歳の時には詰め将棋の達人という本で二桁以上の詰め将棋を解いていました。
しかし、それでも2級で少し足踏みしました。
それは7手詰めが解けても、たまたま生じた7手詰めを拾えるようになるだけで、それよりも狙って作った5手詰めの方が価値が高いということがあります。
詰んでいるものをちゃんと詰ます力と詰む形を意図的に作る力は似ているようで違うみたいです。
初段を目指す練習ということなら詰め将棋の手数を伸ばすより、詰めろや必至を作る練習をしたほうが効率的だと思います。
教材は、これも有名な『寄せの手筋200』が良いでしょうか。取組み方は詰め将棋の時と同じで、ある程度で区切ったり基本問題に絞るなどしてダレないように気を付けながら答えを覚えるところから始めます。
速度計算
「相手の玉を詰ますことばかり考えていたら自分の玉が詰んでいた。」
ありがちなことだと思います。
自分の玉の耐久力をちゃんと計算しながら、攻めるのか守るのか考えるのは基本のようで、かなり難しいと思います。
練習教材は『中終盤の力をつける次の一手(羽生善治監修)』の第2章終盤編がオススメです。
内容は本第2章の冒頭にも解くコツとして書かれていますが、まず自玉の状況を確認してから攻める手段を考える問題集になっています。
回答が3択なので、自玉の状況をちゃんと考えれば正答できるようになっています。2周目以降は付箋で3択を隠して解いていきます。
実戦
結論から話します。
例えば、将棋ウォーズ3級で昇級がストップした人が、そのまま将棋ウォーズのみで対局を繰り返して2級、1級、初段・・・と昇級昇段しようとするのは効率が悪いと思われます。一旦、将棋ウォーズから離れたほうがいいです。
2級以上の将棋では”狙って詰めろをつくる”など意図した局面をつくる能力が必要になってきますが、3級以下の人が将棋ウォーズの実戦でその練習をしようとするには持ち時間が短すぎるのです。
つまり・・・
①終盤に時間がないので読み切ってないが、なんとなくで寄せになっていそうな手を指す。
②流れで持ち駒が溜まってきたので、そろそろ詰んでいるかもしれないと詰みを探し始める。
という将棋を繰り返すことになり、2級以上で求められる”狙って詰めろをつくる”練習にはなっていないのです。
もし、そうだと感じたなら一旦、将棋ウォーズから離れて時間制限のない将棋(ぴよ将棋など)で練習するのがいいでしょう。また、機会があるなら高段者を相手にした駒落ち対局で勉強させてもらうのもいいと思います。
時間制限のない将棋で”狙って詰めろをつくる”意識がついてきたと思ったら、将棋ウォーズの持ち時間でそれが実行できるか試していきます。
まとめ
初段に必要な終盤力は、
①5手詰めが解ける。
②詰めろや必至を実戦でも意識することができる。
③自玉の安全度を意識した初歩的な速度計算ができる。
④上記①~③を限られた終盤の時間内(3分くらい?)でも実行できる。
だと考えています。
こぼれ話
①「詰将棋なんて解いたことないけど初段にはなれたよ?」という方。
おそらく、自然と2級以上の将棋(狙って詰めろをつくる)ができていた方だと思います。つまり、最初から狙って詰めろをかけにいく意識があるので、詰めろの状態になれば当然気が付いており、手番がくれば詰ませることができます。その場合たまたま生じた意図しない詰みを解くというプロセスはありません。短期間で成長できるいわゆる”センスの良い方”でしょう。
②ぴよ将棋を使った練習について。
息子がぴよ将棋で練習する場合は、初段~二段くらいに設定することが多いです。序盤中盤で圧倒して勝ってしまう場合もありますが、苦しい状況で終盤になった時にこそ最も良い練習ができるレベルだからです。
我が家調べでは「ぴよ将棋の二段程度は少し複雑な二桁以上の詰めろが読めていないことがある」となっています。(機器の性能によるかもしれません)
そのため、終盤で苦しい時に、逆転の「なるべく複雑で長い詰めろ」をつくることができないか頭をフル回転させることになります。
2 序盤
戦法選択
100局対局したときに70局(7割)以上はカバー(採用)できる戦法の組み合わせを考えて本を購入します。なお、最初に戦法選択を誤るとこの後説明する練習方法ではだいぶ労力を無駄にするため、過去の対局記録等を参考によく考える必要があります。
戦法選択は振り飛車のほうが固定しやすく、居飛車のほうがやや難易度が高いように思います。例えば、横歩取りは相手の同意が必要な戦法なので、ここでの戦法選択には適しません。居飛車の場合はとりあえず「なんでも○○」のような感じでもいいと思います。
一例は、
振り飛車なら、○○飛車+相振り飛車
居飛車なら、なんでも○○+対振り飛車
など・・・
練習方法
戦法の組み合わせが決まって本を用意したら、まずその本のメインの流れと主要な変化を以下の写真のように書き出していきます。
級位者がいきなり本を読み進めようとしても、途中の解説を読んでいるうちに局面がわからなくなったり、「第2図に戻り・・・」などと前のページに戻ったりしているうちにわけがわからなくなってしまうことがあるからです。
あと、うちの場合は未就学児だったので、そもそも本が読めないためにこのような工夫をしました。
写真のように本1冊のメインの流れを書き出すと、だいたい30枚くらいになることが多いと思います。とりあえずメインの流れを棋譜並べの要領で並べて感覚をつかむと共に、その戦法の成功形を頭に入れます。1日3枚でも10日で1周できる量です。
一通り周回したら、今度は将棋ウォーズに課金して10秒将棋を指しまくります。終盤と違って序盤の戦法を身につけるにはとにかく対局数をこなすことが近道だと思います。
これで驚くほど勝てるようになっている!・・・ならそれでいいのですが、大抵、そんなにうまくいかないと思います。理由は後述しますが、とりあえず10秒将棋は勝つことが目的ではなく、戦法に慣れることが目的なので勝敗は二の次です。むしろ1つの戦法で20敗するくらいが次のステップに進む目安です。
もし20敗するのが難しい場合は、もう勝てるようになっているか、そもそも戦法選択が正しくない(戦法の採用率が低い、戦法の組み合わせが悪い)可能性があります。
こぼれ話
B級戦法の存在。
プロでは対策されており採用されないが、対策を知らないアマチュア(特に級位者)には非常に有効なB級戦法というものが存在します。
正直、初段を目指すだけなら「B級戦法+初段の終盤力」の組み合わせが最も効率いいかもしれません。
しかし、「ちゃんと対策されたらちょっと苦しいのかな」と頭の片隅にチラつくこと、またプロでの採用がほとんどないことから、練習するのが辛くなってしまう可能性があると思います。
例えば、自分が練習中の戦法を藤井五冠や羽生九段が採用していると、なんだかうれしくなるし、より興味が深まる気がします。B級戦法ではそういった体験が得られません。
B級戦法は初段を目指すうえでは有力だと思いますが、練習し続けるにはそれなりの胆力を要すると思います。
3 中盤
勝てない理由
ここまでで、初段の終盤力を確保しつつ、7割採用できる戦法の組み合わせを用いて10秒将棋の練習を繰り返していると思います。
これを10分将棋に戻すと、序盤がかなりスピードUPしているはずなので、終盤に残せる時間も増えており、すでに結構勝てるようになっていることもあると思います。その場合は、おめでとうございます。
ここからは、終盤と序盤の練習が煮詰まってきた段階でも、あまり勝てていない時の話をします。
勝てない最大の理由は、本で「これにて先手良し!」という局面が級位者が思っているほど良くないためです。
序盤編で作成した本の棋譜をAIで調べると、結果図(成功例)が「先手優勢」のような局面でも評価値+400~600点程度であることも多く、「先手指しやすい」などはほぼ互角であることも珍しくありません。
プロ的には差がついているのでしょうが、級位者にとっては微差なので、仮に本のとおりに進んだとしてもまだまだ難しいです。
局面を過大評価していると思わね落とし穴にはまることになります。一通り結果図や気になる局面の点数をAIで調べて書き込んでおくといいと思います。
練習方法
本の結果図(成功例)から優勢を拡大して終盤につなぐ練習が必要です。
練習方法は、ぴよ将棋で本の棋譜並べを行い結果図から指し次いで勝ち切る練習が良いと思います。これは、あくまで練習なので待ったやヒントを使用して良い手を勉強すると良いと思います。
当然、実戦では本と同じになることはないのですが、その戦法の成功例の考え方は共通していますし、その戦法に頻出する寄せ形の練習にはなると思います。
・・・ただ正直、中盤の練習は効果が表れにくく一番難しい部分だと思っています。
こぼれ話
ぴよ将棋のコメント。
ぴよ将棋のひよこは対局中に形成判断をコメントしてくれます。
「互角ぴよ」とか「よしぴよ」とか「もうダメぴよ」とか・・・
このコメントは非表示にもできるのですが、あえて表示させて練習しています。対面での対局であれば相手の様子や息遣いなどから、相手が局面をどのように評価しているか感じとれる場合があります。ネット将棋だとそのような感覚が養われにくいと思います。
相手が局面をどう評価しているか感じるというのも大事だと思うので、あえてコメントを表示させているのです。(本当に意味があるのかはわかりません・・・)
4 総括
練習の優先度は、終盤 >序盤 >中盤、としてその順番にまとめてみました。簡単に振り返ります。
終盤
①5手詰めが解けるようになること。
②詰めろや必至を意識的に作れるようになること。
③簡単な速度計算ができるようになること。
④上記①~③を限られた時間内で実行できるようになること。
以上①~④が既にできているようなら終盤は後回しでも良さそう。
序盤
①7割採用できる戦法の組み合わせを考えること。
②戦法の本を解読しやすいようにシンプルに棋譜化して並べること。
③10秒将棋でひたすら戦法の練習をすること。
中盤
①本の結果図の評価値を知ること。
②結果図~終盤までのつなぎ方と戦法特有の寄せの感覚を身につけること。
もちろん、7手詰め以上が解けるに越したことはありませんし、戦法もたくさん知っていて柔軟に対応できるほうが良いのですが、とりあえず初段を目指すうえではこのレベルでよいかと思っています。
さいごに
息子が4歳2か月で将棋を覚えた時に「やるからには最低でも初段までは続けよう」と話しました。それから1年間は毎日欠かさず練習内容を記録していました。私の記録は1年取り続けたところで満足して、そこからは断片的になっていくのですが、息子は今日まで3年半以上1日も練習を欠かしていません。
彼が将棋を始めた当初から初段に到達したらその道筋をまとめてみたいと思っていました。実は将棋ウォーズの初段はけっこう前に到達していたのですが、このタイミングで一応まとめておくことができて良かったです。
これまで今回まとめた以外にもいろいろな練習を考えて試してきました。
今思うとあまり意味がなかった練習もあり遠回りしたような気もするのですが、どこかで遅れて効果がでてくるかもしれないので、今回の記事の評判をみつつ需要が有りそうならいつか再編集して御紹介するかもしれません。
また息子をみて今回のまとめを作成しているので実際のサンプルは1人ということになります。そのため再現性がどの程度あるのか不明な部分があります。高段者の方からみると的外れだったり、幼稚な内容になっているかもしれません。素人が自己満足でまとめたものです。どうかご容赦いただけると幸いです。
さいごまで読んでいただきありがとうございました。
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