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緑仙『イタダキマスノススメ』を聞いて (序)ーーメニューを決めながら飲む食前酒はうまい
初めに ーーこの文章は前菜である
『イタダキマスノススメ』は2024年6月26日に発売されたバーチャルユーチューバー緑仙の2ndアルバムである。さっそくアルバムを聴いてきたので、感じたことを書いてみる。
――とはじめたかったのだが、最初にひとつ。
実はこのnoteは大いに書くのを迷っていた。前回のアルバム『パラグラム』について書いた時、私は『パラグラム』を「すごく良いアルバム」と評しながら、若干アルバムの企画としての統一性のなさが気になっていた(緑仙本人は「僕じゃなくて音楽を聴け」と言ってるのに、ジャケットに緑仙がいっぱいいたりした)。
そこでDavid Bowieやプロのベーシストのミートたけしさんの言葉を引用しながら、次のようなことを書いた。
・プロの場合、自分のやりたいことの方向性を言葉やビジュアルで伝えることが重要である。もちろん音楽としてのクオリティを上げるのは大事だが、それを聞きやすいストーリーと共に提供したほうがいい(ミートたけしさん談)そのために必要なのは音楽的技術の前に、じぶんのやりたいストーリーを言葉にしておくことだ。
・そして、音楽の場合、コンセプトアルバムという方法があるように、アルバムごとに明確にヴィジュアルを変えるなどして、自分のやりたいことを伝えることができる。これは実はVtuberなら『企画』と同じものだ。そして、企画の方向が決まれば、呼ぶアーティストもおのずと決まってくるはずである。
ちょっと我ながら書いていて不遜すぎるが、本人が全肯定を嫌がっているというのを知っていたからであり許してほしい。
その一年後、こういうことを書いた報いのように恐ろしいことが起こった。
今回のアルバム『イタダキマスノススメ』はコンセプトアルバムになっていた。
このアルバムの曲を闇と光に分けてみると
闇 = 独善食/なんでですか?/Reject it now! ⇒通常版
光=友達代表宣言/Blowin' Wind is blowin'/しあわせクッキー/リコネクト
⇒初回限定版
このように分かれる。これは綺麗にアルバムのジャケットの光と闇に対応している。さらに、タイトルの『イタダキマスノススメ』に対応するように3曲も食に関する曲が入ってきている。
さらにこのアルバムで採用されたサウンドはことごとく90年代~00年代のロックに統一されている。方向性をバチバチに明確にしてきたのだ。
そして、これは今回のnoteを書く時に非常に困った。
あまりに自分のnoteで書いてたことの通りになっているからだ。
あまり考えないことだが、実は自分のnoteが参考になっているとなれば、実は私は口をここから口を慎むべきなのだろうと感じた。なぜならDavid Bowieを引用して私が書いたのは「自分の心の中を大事に」だったからである。
すれば、私がこれ以上noteを書き続けるのは罪を重ねるようなものである。
でもこのnoteを私は書いてしまっている。バカなやつである。
そこで、このようにしたいと思う。
まずこのnoteでは、さっくりアルバム全体をレビューする。
そのあと、2つのnoteを投稿しようと思う。
一つは(早速全力で本人の意向を逆張りするのだが)にじさんじのアルバムとして聞いた時の気持ちを書こうと思う。特に『リコネクト』やご本人の様子、そしてにじさんじの様子を見てちょっと思考を整理しなくてはいけないように感じたからだ。
※下のnoteは、このアルバムと歌謡ロックの曲を聴いて思わず書きたくなってしまったものである。ただ、この時点で少し何を言いたいか感じられると思う。
二つ目はいち音楽リスナーの欲望を爆発させたものである。
このアルバム『イタダキマスノススメ』で感じたものを、音楽をよく聴いていた人間として考える。そして、そちらが本気を出すというなら、こちらも本音を書こうと思う。そして本音を書く分、ゾーニングもしておこう。
考えながら書いている部分がこのnote含め相当多いため、投稿後に修正する可能性も高いことをご理解いただきたい。
改めて初めに
というわけで、『イタダキマスノススメ』は2024年6月26日に発売された歌手・緑仙の2ndアルバムである。さっそくアルバムを聴いてきたので、感じたことを書いてみる。
01.独善食
作詞:緑仙
作曲:加藤冴人
編曲:加藤冴人
『独善食』はこのアルバムのリードトラックである。
すべてを食らいつくすという気合の入った歌である。
PVでは綺麗なお化粧をした女性が、ぎっとぎとの油ものとカロリーMAXな食べ物を次々食べるにつれ、お化粧がめちゃくちゃになっていくやけっぱちさを表現したものになっている。
この曲の歌詞を聞いたとき、最初はこの女性――つまり食事を食べる人が緑仙(歌い手)に仮託されているのかと考えていたが、どうもよくよく聞きなおしていると、「並べるな」と言っているのは「他の料理」に対してなので、実は食べられる方が緑仙(歌い手)と重ねられている可能性がある。
おそらくこの曲で語られている「独善的」な存在なのは、みんなと見比べて誰かを品評したり食べるものを選ぼうとしている「あなた」の方である。
そして食べるときに選ばれない「僕」の、胸やけがしそうなほどギトギトな心の内を、わななくギターサウンドは包んでいくのである。
特にこの曲で光っているのは、GLIM SPANKYの亀本さんのきしむようなギタープレイである。GLIM SPANKYはボーカルの松本レミさんの強烈なディストーションのかかった声に対して、亀本さんのレスポールから繰り出すファズとオーバードライブをかけまくった、いい意味で60~70年代的なロックサウンドが特徴だ。(インタビューを読む限り、この曲で使ったのはES-345かレス・ポール・カスタムあたりか?)
この後で言及するが、やはりこのアルバムで注目するべき点のひとつは歌謡曲(J-POP)とロックの融合である。
02.なんでですか?
Associated Performer, Recording Arranger, Programming: Saeto Kato Producer: Masaru Kaneko
Associated Performer, Vocals: Ryushen
Associated Performer, Guitar: Hiroki Kamemoto
Associated Performer, Bass: Souhei Mishima
Associated Performer, Drums: Yumao
Author: Ryushen Composer: Saeto Kato
2曲目の「なんでですか?」は本人の口癖から生まれた曲だという。
この曲では、1曲目の『独善食』と逆向きに歌い手(緑仙)が食べる人として描かれているが、ここで描かれているのはまるで、刺激物を過剰に摂取した結果、五感がぶっこわれてしまった人の姿である。
が、2番に入ってからは、(歌詞だからいいのだが)誰が食べ手なのか輪からないくらい、内容が混濁していく。
ただ、ぼんやりとわかるのは緑仙が飲み干した何かが、体の中で炎症を起こし、もがきくるしんでいる様子である。吐しゃ物のように吐かれた言葉は、
怒りと愚痴と、予定調和からくる退屈(どうせうまくいかない!)で論理的な整合性もなく、ぐちゃぐちゃになっている。
ただ、この曲のある種悲しいことは、それでもこの曲の主人公(緑仙)は、どうせ・・・という言葉を繰り返しながらも、ティンカーベル(子どもの頃の純粋な気持ち)へと手を伸ばし続けていることだ。
この曲でクローズアップされるのは、イントロから曲全体の薄暗い感じを引っ張っていくベースである。
03.友達代表宣言
Associated Performer, Recording Arranger, Programming: Saehito Kato Producer: Masaru Kaneko Associated Performer, Vocals: Ryushen Associated Performer, Guitar: Yuki Nara Associated Performer, Bass: Souhei Mishima Associated Performer, Drums: Yumao
Author: Ryushen, BotchiBoromaru
Composer: Saeto Kato
3曲目の『友達代表宣言』は、友達の結婚式(多分)に向けて書かれた曲である。が、中身で描かれている友情は、なかなかにヘビーボンバーである。
何故か、相手の旦那さん(お嫁さん)への弱い敵対心のようなものすら感じる。
何故か友達の関係なのに、きみのいいところ100個いえるとかいうのは吹っ飛んでなかろうか。そのちょっと痛々しい感じも、ぼっちぼろまろさんの跳ねるようなギターフレーズに乗って愉快な曲としてつくりかえられている。
若干この曲に負けヒロインみを感じるのは――まぁ気のせいということにしておこう。
作詞のサポートはおなじみぼっちぼろまるさん。
04.しあわせクッキー
Associated Performer, Recording Arranger, Guitar: eba
Producer: Masaru Kaneko
Associated Performer, Vocals: Ryushen
Associated Performer, Bass: Souhei Mishima
Associated Performer, Drums: Yumao
Associated Performer, Programming: Saehito Kato
Author: Ryushen, BotchiBoromaru
Composer: eba
4曲目のしあわせクッキーは、無限にクッキーをこねている曲である。
この曲は歌詞に繰り返し(「ちょっと」「こねこねる」「ハッピーラッキークッキー」)が非常に多い関係で、曲自体もクリシェの繰り返しの多いものになっており、そのしつこさが曲全体の強いアクセントになっている。
この曲の主人公は、最初「ちょっとだけ幸せ」な場所を目指してひたすらこね始めるところから始めるのだが、そこに練りこまれているものは「くやしさ」「さびしさ」「バター」「砂糖」「卵」「小麦粉」「涙」と結構カオスである。
この曲も(歌詞だからいいのだが)少しずつ矛盾している。例えば最初のクッキーは自分だけのために作ったものだったにも拘らず、それは「私の事を好きな人」のためのものになっている。
しかも何故か曲が進むにつれ、ちょっとだけ幸せを届けるだけだったクッキーは何千回(なんでや)もこねられ尽くし、涙を混ぜた結果、「家が欲しい」とか嫌なことの何倍もうれしいことがあるはずと言う気持ちに生まれ変わっている。そうした、かわいらしい執念を歌った曲である。
ebaさんは、前作に引き続き参加した作曲家のひとり。
05. Blowin’ Wind is blowin’
Associated Performer, Recording Arranger, Guitar, Programming: eba Producer: Masaru Kaneko
Associated Performer, Vocals: Ryushen
Associated Performer, Bass: Souhei Mishima
Associated Performer, Drums: Yumao
Author: Shoko Fujibayashi
Author: Ryushen Composer: eba
「Blowin’ Wind is blowin’」は、1stアルバム所収の楽曲「WE ARE YOU」に引き続き、ベガルタ仙台応援ソングとして作られた曲である。前作よりも激しく英語が使われている。
この曲で歌われたあの年は、おそらく東日本大震災以降、ベガルタ仙台が優勝に限りなく近づいた2011年-2012年ごろを指していると思われる。
前作の「WE ARE YOU」が高音で歌いあげる、BPMも応援歌にしては早めなナンバーだったのに対して、今作はBPMを落とし雄大さと冷静さを感じさせる、落ち着いたナンバーになっている。
「WE ARE YOU」であればCメロ、この曲であれば各サビは複数人での合唱の形になっているが、これはやはりユアテックスタジアム仙台でみんなで合唱することを狙って作られたものである。
その意味でこの曲は緑仙の曲というよりも、ベガルタ仙台の曲である。
杜の都仙台の夏の風物詩である「七夕まつり」は、天の川を挟んで光り輝く織り姫(ベガ)と彦星(アルタイル)が、年に一度七夕の日にだけ出会うことができるという伝説から生まれました。「ベガルタ」という名称は、この2つの星の合体名で、これには「県民・市民と融合し、ともに夢を実現する」という願いが込められています。
2023年、ベガルタ仙台はJ2で12勝12分18敗と、非常に振るわない年となった。18年間チームに在籍し、最高の時も苦しいときも見てきた梁勇基が引退。蜂須賀孝治選手もブラウブリッツ秋田へ移籍となった。
6月現在でベガルタ仙台はJ1昇格圏内に入ってきた。
この曲は、仙台の地に新しい風を吹き込むことができるだろうか。
藤林聖子さんは、前作『WE ARE YOU』に引き続き、作詞を担当。
06.Reject it now!
Associated Performer, Recording Arranger, Programming: Saeto Kato Producer: Masaru Kaneko
Associated Performer, Vocals: Ryushen
Associated Performer, Guitar: Hiroki Kamemoto
Associated Performer, Bass: Souhei Mishima
Associated Performer, Drums: Yumao
Author: Ryushen
Composer: Saeto Kato
Acid Black Cherryを思わせるギターソロ⇒ドラムインの形をとる、英語混じりのナンバー。他の曲以上にコーラスワークが強調して使われている曲である。
この曲はいらないことを言ってくる相手に対しての反抗を歌うものだが、
この曲自体は相当に不安の影が濃い。自由を求めることはその先に何が起こるかわからない不安を同時に引き受けることだからだ。
このアルバムを通して描かれているのは、自分の中に立ち入ってくるものへの怒りと同時に――実は踏み出せない自分へのいら立ちのようにも思える。
Spotifyにまとめてみました。ヒトリエの曲とかはたくさんありすぎるのでお気に入りテイクの曲を選曲しました。
— ゆーまお (@_Yumao_) July 27, 2020
Yumao drum works https://t.co/y7edDH4TaP #NowPlaying
このアルバムのドラムはヒトリエのゆーまおさんが担当している。
07.リコネクト
作詞:緑仙
作曲:加藤冴人
編曲:加藤冴人
アルバム最後の曲『リコネクト』は、JFN系列 全国33局ネット『AuDee CONNECT』の、火曜日テーマソングである。あまり頻繁に聞くことはできていないが、この深夜ラジオで緑仙は多くのミュージシャンたちと次々に出会っている(さすがに南こうせつさんがいらっしゃったときはビビった)。
この曲は、ポップなシンセサイザーの音で入る軽いポップロックチューンになっている。何故か繰り返し英語が使われているのが特徴だ。
でもこの曲を聴いてておやと思ったことがある。
この曲の1番で歌い手は、「想いを粧す」、つまり自分の言葉はちょっと演出をしていることをほのめかしている。一方で、2番では実は自分が全く他の人のことを知らないことに気づく。
そしてCメロ、英語でまさにカッコつけられた歌詞で、次のように歌われる。
ねえ!僕を見守っていてよ
僕はここでは飾らずにしゃべることができるんだ
キミからのお便りをお待ちしています
ラジオというのは不思議な空間である。
対面では時間の都合上言えないことも、ちゃんとラジオDJはちゃんと聞く。
それに対して時間を使ってみんなで考えてみる。
そんなときに、ふと新しい自分を人は見つけることがある。この曲は、宇多田ヒカルの『letters』よろしく、自分の本音を英語の中に隠し持っていた。
この曲は、
『イタダキマスノススメ』を聞いた最初感想 ――主菜に続く
『イタダキマスノススメ』の感想については、冒頭に書いたように
あと2点noteを書いてみる。だから、短めにこのアルバムを最初に通して聞いた時の気持ちを書いておこう。
ごちそうさまでした。
おいしかったよ。
でも、足りないぜ。
~Je prépare le plat principal, alors attendez un peu s'il vous plaît.~