AIはインサイドセールスの仕事をどう変えるか?/ AIが影響する業務領域
グローバルインサイトの水嶋です。
AIが世間を賑わせていますね。私も先日書いたChatGPTの記事が、今まで書いたどんな記事よりもビューが伸びており、その影響の大きさを感じています。
ChatGPTを使っていると、既存の多くの仕事のあり方を大きく変えてしまうポテンシャルを感じます。インサイドセールスも例外ではなく、むしろ置き換えられる領域は多い部類の職種かもしれません。
そこで本日は、「AIはインサイドセールスの仕事をどう変えるか?」というテーマを考えてみたいと思います。
AIが影響するインサイドセールスの業務領域
AIが影響するインサイドセールスの領域は、大きく以下の3つに整理できるかと思います。
データ分析と戦略策定
営業実行プロセス
インサイドセールスの質向上
それぞれを詳しく見ていきましょう。
データ分析と戦略策定
データ分析はAIの得意領域の一つです。営業・インサイドセールスの領域においても、顧客データや市場データをAIに取り込み分析させることで、セグメンテーションやターゲティング等の戦略策定プロセスの多くを省力化していくことが予測されます。
具体的には以下のような領域において、AIが自動化・効率化を進めていくでしょう。
顧客セグメンテーション
顧客をセグメントに分類し、セグメント毎に優先度をつけ、アプローチ方法を設計していくことは、営業やマーケティングの戦略策定における基本です。
しかしこのセグメンテーションを「勘」に頼っているケースはかなり多いのではないかと思います。既存の顧客データを分析しようとしても、考慮すべき変数が多く、工数やスキルの観点からやり切れていない企業が多いと考えられます。
一方AIは顧客データを高速で処理し、顧客属性や行動履歴の情報を元に最適なセグメントを作成できる能力を有します。手元の顧客データや市場データ、必要な情報をざっとAIに入力するだけで、最適なセグメントとそれを踏まえた営業・マーケティング戦略案を一瞬で出力してくれるようになる未来も近いでしょう。
ターゲットリスト策定
近年BtoBマーケティングや営業において、ABM(Account Based Marketing)を取り入れる企業が増えているように思います。ターゲット企業をバイネームで明確化し、リスト化した上でマーケティングや営業のアプローチを策定していく手法です。
データ分析に基づいてターゲットリストを作成していくことがポイントになりますが、こちらも工数やスキルの面で勘に頼っているケースは多いようです。
この領域においても、AIに正しくデータや条件をインプットすることにより、適切なターゲットリストを迅速に作成してくれるようになる可能性が高いでしょう。
ユーザベース社が提供する「FORCAS」等のサービスは既にそのような思想に基づいたターゲットリスト作成機能を有していますが、このような技術がAIによってより精度高く洗練されていくのではないでしょうか。
リードスコアリング
営業やマーケティングにおいては、「誰が重要な顧客なのか?」を見極めることが最重要と言っても過言ではありません。そのために近年「スコアリング」の概念が提唱され、いわゆるMAツール等では顧客の属性や行動等からリードごとにスコア付けをし、対応優先度を見える化する機能が提供されています。
しかし私もMAツールを触った経験から言えるのですが、スコアリングのロジック設計の難易度は高く、「スコアリングをしてみたけどあんまり使えなかった」「結局スコアリングを活用していない」という企業も多いようです。
しかしAIの発達により、「本当に使えるスコアリング」が出来る可能性が高まっているのではないかと考えます。
従来のスコアリングは単純なロジックのデータ分析や、担当者が強引に設計したロジックに基づくものでしたが、AIは様々なデータを踏まえた上で「いい感じ」のスコアリングを出してくれることが期待されます。
インサイドセールスとしては、自動で算出されたスコア順に対応さえしていれば、わざわざ自分で対応優先度等を考えなくても良くなり、より重要な業務や顧客対応に集中できるようになるかもしれません。
【参考】Salesforce Einsteinの例
これまで述べた領域をツールとして具現化しようとして先頭を走っているのがSalesforceでしょう。「Salesforce Einstein」はAIを組み込んだCRM/SFAシステムを提供しており、あらゆる顧客データの分析に基づき、リードスコアリングやターゲティングを精度高く自動化できる機能を提供しています。
直近では「ChatGPT」を組み込み、あらゆる分析や顧客コミュニケーションまでもチャットUIベースで完結できるような仕組みも提供しはじめているようです。
データ分析・戦略策定まとめ
この領域はインサイドセールスに限らず、営業・マーケティング、ないしは事業戦略全体にも関わる部分ですが、インサイドセールスの業務にも大きく影響するでしょう。
具体的には、インサイドセールスがこれまで「勘と経験」でやっていた領域(対応リードの優先度付けや顧客ごとのアプローチ方針策定等)がかなり簡略化され、純粋な顧客対応に集中できるようになることが考えられます。(後述のように、その顧客対応領域も多くがAIに影響を受けることになりますが)
まだデータ連携やセキュリティ面で課題が残るため事例は少ない領域ですが、近い将来そういったボトルネックを解消したサービスやツールも続々現れてくることが期待できるでしょう。
営業実行プロセス
AIは、営業実行におけるプロセスそのものも大きく変化させていくでしょう。顧客コミュニケーションの自動化から、レポーティングを含む様々なタスクが自動化・省力化されていくことが予想されます。
顧客コミュニケーション自動化
ChatGPTを使っていると、今のAIは人間に遜色ないレベルでコミュニケーションが出来るようになっていることを実感します。
営業プロセスにおけるコミュニケーションも、多くの部分をAIが担うようになる未来は遠くないでしょう。具体的には以下のような変化が考えられます。
メール作成
こちらの記事でも示したように、ChatGPTは人間なみ、いやそれ以上のクオリティのメールを自動で書けるようになっています。今後は顧客の属性や過去のコミュニケーション履歴等を踏まえた、パーソナライズされたメールを短時間で作成できるようになるでしょう。
MAやCRMとの連携により、「最適なメールを最適なタイミングで自動生成し、送信や返信まで自動で行う」ことも可能になっていくと考えられます。
チャットボット/Web接客
既にWebサイトにチャットボットツールなどを導入し、Web上での接客を自動化する取り組みは一般的になりつつあります。
しかし従来のチャットボットやWeb接客ツールは、予め人力でシナリオを設計し、大量の回答内容を予め入力しておくなどの手動運用が必要でした。また複雑な問い合わせには結局人間が個別対応する必要もありました。
今後は、基本的な情報や条件を最初にざっと入力しておくだけで、まるで人間が対応しているかのような、高精度で柔軟なチャットボット/Web接客が実現できるようになる可能性があります。
ある意味、365日24時間対応可能な営業マンやカスタマーサポート担当が、大量にチームにジョインしてくれるようなイメージに近いでしょう。
リード獲得・ナーチャリング・クロージング・カスタマーサクセスまで
上記のメールやチャットボットによるAIコミュニケーションを応用することで、Web接客からのリード獲得やそのクオリフィケーション、ナーチャリング、しまいにはクロージングやその後のカスタマーサクセスまで一貫してAIが担えるようになる可能性もあります。
人間としては、ベースとなるAIコミュニケーションシナリオの設計や、AIでは拾いきれない細やかなヒューマンタッチの対応などに業務の軸足を変えていくことになるのではないでしょうか。
その他タスクの自動化
顧客コミュニケーションプロセス以外の様々なタスクも自動化・省力化が進みます。
レポ―ティング
レポーティングはデータの収集・整理・分析・可視化・考察・報告などの一連の業務群であり、それぞれにスキルと工数を要するものです。
しかしそれらのほとんどがAIの得意分野です。人間が目的や意図を適切にインプットするだけで、一連のレポーティングが自動でできるようになる日も近いでしょう。
また、AIは商談やコールの議事録なども自動でまとめ、要約を作成することも可能です。インサイドセールスや営業担当者が、顧客コミュニケーション以外のレポート・報告タスクに煩わされることは減っていくでしょう。
タスクマネジメントやスケジューリング
タスクマネジメントやスケジューリングは地味ながらも仕事の成果を左右する重要な業務ですが、こちらもAIが助けになるでしょう。
実際、ChatGPTに「●●の業務を遂行にするにあたってのタスクリストとスケジュール例を出して」等と指示すると、指示次第でかなり適切なタスクリスト・スケジュールをアウトプットしてくれます。
今後、SFAやCRM、カレンダーツールやタスク管理システム等とAIが連携することより、タスク化とスケジューリング、適切なリマインドやアラート等も含めて多くが自動化されていくでしょう。
ChatSpotの例
MA/CRMツールを提供するHubspotが発表した「ChatSpot」では、Hubspot内で行えるあらゆる業務(メール作成、レポート作成、データ入力・出力、分析etc...)をチャットUIで指示するだけで可能にしていると言います。
これまでは複雑なツールの使い方を覚えないといけなかったとタスクが、言葉のみの簡単な指示で出来るようになり、より営業におけるAI活用が身近になることを示す好例でしょう。
営業プロセスまとめ
AIは営業プロセス全般にわたって様々なタスクを省力化・自動化していくことが予想されます。
営業コミュニケーションにおいては、多くの部分がAIに置き換わっていくことも考えられるので、「人間だからこそできるコミュニケーションは何か?」を改めて考え、AIとの役割分担を真剣に考えていくことが求められるでしょう。
営業活動に付随する雑務も減っていき、本質的な業務に集中できる環境にもなるため、本質的な価値を追求できる営業担当にとっては有利な状況となっていくとも言えるのではないでしょうか。
インサイドセールスの質向上
AIは効率化や自動化だけでなく、インサイドセールスや営業活動の「質」自体の改善にも貢献するでしょう。これまで述べてきたような、そもそもの顧客タッチポイントがAIに切り替わることによる質向上以外にも、以下のような変化が考えられます。
トレーニングとスキル向上
AIはインサイドセールス担当者のトレーニングやスキル向上にも大きな役割を果たします。
例えば個人に合わせた適切なトレーニングカリキュラムを用意するのはAIの得意分野です。既に現在、ChatGPTで「インサイドセールスの新人向けの研修プログラムを用意してください」等の指示を出すと、適切なカリキュラムを提案してくれます。
後述するような会話分析等から、個人の強みや弱みを分析し、パーソナライズされたトレーニングプログラムも提案することも可能になるでしょう。
また、営業ロールプレイングや、顧客対応の電話やメール添削などもAIを相手に行うことができます。既にChatGPTを用いてテキストベースのロールプレイングや添削等は出来るようになっていますが、音声でそれらが出来るようになるサービスも増えてくるでしょう。
スクリプトの作成
商材や状況に応じた適切な営業やインサイドセールスのスクリプト(台本)を用意することは、教育の面でも営業の生産性向上においても重要です。
これまでは経験のある営業担当が中心にスクリプトを組んでいくことが多かったかと思いますが、今後はスクリプトのベースをAIに作ってもらうケースも増えていくはずです。
また、AIは過去の営業活動や顧客データを分析し、パーソナライズされたスクリプトを生成することも可能です。
そのような様々なパターンのスクリプトをAIに用意してもらうことにより、きめ細やかなヒューマンタッチの対応が出来るようになることも期待できます。AIが人間のポテンシャルを引き出す一例と言えるでしょう。
会話分析とフィードバック
今のAIは商談やコールの音声内容を正しく認識し、分析できるようになっています。分析結果に応じて、適切なフィードバックを与えることも技術的には既に可能です。
これまでは上司が同席したり録音を聞いたりしてフィードバックを行っていたところ、上司の工数を割くことなくすぐに改善点を指摘してくれるようになります。新人の教育にはもちろん、フィードバックを受ける機会がなくなったシニア担当者のスキル向上にも役立つでしょう。
株式会社ACESが提供するACES Meetは、既にそのような商談分析・フィードバック機能を備えたツールになっています。
インサイドセールスの質向上まとめ
このように、AIはトレーニングやフィードバックを通じ、人間のポテンシャルを高めることにも寄与します。適切な使い方をすることで、人材育成や顧客体験の改善にも繋がり、インサイドセールスの質そのものの向上にも役立てられるはずです。
AIにより組織がどのように変わるか、インサイドセールス従事者はどのようにスキルセットやマインドセットを変えていくべきかについても別の記事で解説する予定です。
この機会にフォローをいただけますと幸いです!
【お知らせ】営業戦略やデジタル化に課題を抱える方は是非ご相談ください
弊社グローバルインサイトでは、営業やインサイドセールスの組織課題解決のコンサルティングや、教育プログラムを提供しています。
最近、「営業DX Boot Camp」というトレーニングプログラムの提供を開始しまして、絶賛好評提供中ですので、営業やインサイドセールスの組織改善に興味のある方は是非こちらからお気軽にご相談ください。