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「美しさ」にフェイクは必要?わたしらしい美のあり方を考える|"ROUND TABLE DISCUSSION #01"

ジェンダー課題や社会課題に取り組むさまざまな職業の人と一緒にテーブルを囲む『ROUND TABLE DISCUSSION(ラウンド・テーブル・ディスカッション)』。それぞれの体験や考えを元に、表現、ファッション、美のあり方、コミュニケーション、ソーシャルアクションといったトピックを取り上げ、ジェンダーの観点から共に未来を考えていきます。

第一回目は東京〜グローバルで、多方面に活躍する3人のユニークなモデルたちと一緒に、「美のあり方」をテーマに言葉を交わしました。日頃から自らの言葉で考えや体験を発信している彼女たちが、いかにして「わたしらしさ」を紡いできたのか。そして、モデルというキャリアを通して「美のあり方」をどう捉えているのか。バックグラウンドの異なる3人と、それぞれの人生ベースに意見を交わす、濃厚な1時間半となりました。(本記事ではその一部を抜粋してお届けします。)

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イシヅカユウ / 静岡県生まれ。ファッションモデル。ファッションショー、スチール、ムービーなど、さまざまな分野で個性的な顔立ちと身のこなしを武器に活動中。また、体が男性として生まれながら女性のアイデンティティを持っているMtFでもあることから、最近ではテレビやラジオなどで意見や体験を発信するなど、活躍の場を広げている。
Instagram: @yu_ishizuka Twitter: @ishizukayu

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甲斐まりか / タイと日本のルーツを持つファッションモデル。タイ、ドイツ、イギリスと、人生の大半を海外で過ごしたのち、2017年から日本でモデル活動をスタート。Voceなどの雑誌、dejavuや資生堂などのイメージモデルを務める。さまざまなカルチャーに触れながら育った生い立ちから、オープンマインドな心と独特の視点を持つ。旅行と芸術への関心が強い。
Instagram: @mari_ka95 Twitter: @mari_ka95

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MEGUMU / 10代から東京のItガールとして注目され、現在はグローバルに活動するファッションモデル。 Missoniや資生堂など有名ブランドのキャンペーンモデルを務める。自らの考えを臆せずに発し続け、正しいことのためなら規則も破るようなクリエイティブマインドの持ち主。韓国発のストリートウェアブランド WhyNotUsとのコラボレーションで服のプロデュースも手がける。
Instagram: @megumu_offi

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ファッションで解放された自分らしさ

Abo: 3人は現在のスタイルやスタンスに至るまで、どんな幼少期や青春時代を過ごしたの?日本では、 大人になるにつれて「みんなと合わせなきゃ」とか「こういう風に振る舞わなきゃ」とか考えることが増える。子供の時はもっとシンプルに、自分の「好き」に素直だったのかなと思うんだけど…?

Megumu: 私は逆!私はオーストラリアと日本のハーフで地域に同じような子がそんなにいなかったから、子供の頃は「みんなと同じようにしなきゃ」って気持ちがすごくて。髪の毛もウェービーだったし、そばかすも嫌だったし、毎日超ストレートアイロンかけてた。どうすればいいかわかんないから、とりあえずギャル雑誌を買い占めて、メイク法とか髪の毛のセットの方法とかそういうの全部真似しまくって。性格については忘れたけど、見た目的には絶対浮かないように努力する。毎日それだけ考えてた。

私が変わったのは高2でサロンモデルを始めた時。現場にいるお姉さんモデルとかと仲良くなって、みんな大人だから可愛がってくれて。いろんな人、いろんな服装の人がいたし。その人たちと遊んでたら「全然いいじゃん」って思って。今まで箱の中で生きてたのが、一気に広がった感じ。そこから学校の友達とあんまり一緒に遊ばなくなっちゃった(笑)

Yu : 私も子供の時は締め付けられていて、大人になるにつれて解放できたってタイプ。だけど、私は強情な子供だったから、小さい頃から自分のパーソナリティーを根本の部分から変えたり隠したりってことはなかった。

制服ですごく縛られてたとかはあったけど。小学校の頃から制服があって、男の子は青、女の子はえんじ色と、色も決められてた。自分でしまむらとか行って、好きな服を買うようになったのは小学校の高学年くらいから。『GALS!』って漫画がすごい好きだったんだけど「こういうのが着たい!」って思って、ギャルの服とかを着てたなぁ。

Marika : 私はギャル、通ってないなあ(笑)
私はタイ、ドイツ、マレーシアとか海外を転々としていて、ずっとインターナショナルスクールだったからいろんな国のいろんな人がいる場所で育った。お母さんはタイ人で、お父さんは日本人。お母さんがFree Spiritな、ちょっとヒッピーみたいな感じの人で小さい時から影響を受けてた。「マリカはそのままで美しいから。そのままで大丈夫だから」ってずっと言われてきて、子供の頃から洋服も好きなものを選ばせてくれた。あんまり二人が言うような抑圧された環境にはいなかったな。

だから逆に、大学で一年日本に帰ってきた時にカルチャーショックを受けた。通ってた大学では、女の子の90%くらいがスカートにヒールなの。ハイブランドのカバンを持ってたり。「なんでみんなヒール履いてんだろ」って、逆にショックだった。イギリスの大学はフーディーとかみんな超楽な格好でいて。パーティーのときにおしゃれして、って感じだったから。東南アジアにいた時はその時で「正しい美しさ」があったし、ヨーロッパにいた時も「正しい美しさ」のカルチャーショックがあって。で、また日本に戻ってきて…。一回りしてなんでもアリになったのかも。

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「美しさ」の定義に、変化は感じる?

Edo : マリカはヨーロッパにいた時、金髪の子とか、モデルみたいな子が美しいと思った?

Marika : ドイツにいた中高時代は周りにヨーロッパ人が多かった。高校にイケてるグループみたいなのがあって、まさに「白人の美」が集まってる感じ。みんな背も高くて鼻もちっちゃくて。そのイケイケグループを見ては「ああいうのがいいのかなあ」って思ったりしてた。高校生って一番そういうものの影響を受ける時期だったかなあ。だから、最初スカウトで声かけてもらった時は「私やれないと思う」って言って断ってた。表に出ることに興味がないってのがあったけど、モデルとか芸能人とかを見てる側だったから、自分とは違う世界って思ってたのかも。みんな、今私がモデルやってるなんて思ってないだろうし、びっくりしてると思う。

Edo : その当時と今で、美しいと思うことって変わってきた?

Marika : 変わったかも…?当時は「芸能界とかモデルはこう」っていう型があると思って始めてみた。こういうのがいいのかな、こういうメイクがいいのかなって伺ってたけど、結局は個性を出してくれる仕事とかの方が反応がいい。みんなのリアクションがいいってことに気づいて、ママが言ってた「自分のままでいい」ってそこなんだなって!

Edo : ユウちゃんは男性の体に生まれたけど、昔と今で自分が抱く女性像とか変わった?女性の美しさとか。

Yu : 仕事の中でいろんな中性的なことを求められることもあるのかもしれないけど、自分の中の「美しさの性差」がなくなってる感じがする。前は女性らしい美しさ、oldなハリウッドスタイル、フェミニンなスタイルが好きだったんだけど、年を経るうちに自分でもメンズライクな服を着たくなってきた。

Abo : 最近、あのヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA'S SECRET)が多様な人種やプラスサイズモデルを起用して大きな話題になって、「過去描かれてきた、画一的な美のあり方はダメだよね」っていうムーブメントが起こったよね。それについてはどう思ってる?

Megumu : 私はムーブメント=トレンドだと考えていて。海外のそういうムーブメントが「流行り扱い」になっているのが気になる。一時期は全てのことにいろんなサイズ、いろんな人種、いろんな人が出てきて、「やっと変わる!」って期待したのに、2シーズン終えたらまた元に戻ってきてるのが現実…。

日本はもちろん遅れてるけど、だからと言って海外が「多様性イエイ!」ってわけじゃない。「日本はまだこうだけど、海外はこう」みたいなメンタリティもなくしたい。海外がやってることが正しいってわけでもないと思う。ムーブメントが何かを変えることはないけど、ムーブメントがあったから受け入れられた部分はある。ただ、美に対しての動きっていうのはムーブメントであってほしくないとも思う。今ちょっとずつ踏み出すか踏み出さないかくらいのとこだから、作る側、演者がどんどんいろんなものを作っていかないといけないとは思う。

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「リアル」でも「フェイク」でもある美しさ

Edo : 今までも”ムーブメント”や”トレンド”とかあったけど、これから日本や世界で何が起きる、何が起きてほしいと思う?

Megumu : 今はリアルとリアルじゃないことの境目がわからない。仮に、SNSに”リアル”を載せたとしても、見る人にはそれがリアルかどうかはわかんないわけじゃん。これから、InstagramがPhotoshop(フォトショップ)で加工した写真や画像に警告メッセージの表示を開始するみたいだし。フィルターが見る人に悪い影響をもたらしてること、フェイクビューティーで苦しむ人が増えてきたから、それをやめようとしてること。やりたいことはわかる。もちろん、いろんなコンプレックスを愛せるようになるのが一番いいんだけど、そうなるにはプロセスが必要で。だから、一旦コンプレックスを隠した自分の姿を撮って「いい」って思う段階も私は必要だと思う。単に加工された美を否定すると、加工をしないでも自分に自信があって「それでも私は綺麗です」っていって残って、逆に変な感じがする。別にそれが悪いことでもないけど、加工をすることを取り上げてしまうと、悩む人が増えるきっかけになるんじゃないかとも思うんだよね。

Yu : Instagramに限らずメディアには必ずフェイクの部分があって、極端な例でいえばファッション広告とかって実際にはありえないようなシチュエーションを撮ったりしてる。けれど、私たちはそれをフェイクだと理解して「面白い、綺麗、楽しい」って思うことができる。つまり、見る側の目を養うことも必要だと思う。私の地元は東京から離れたところなんだけど、テレビやSNSの情報が本当で、本当であるべきだって思ってる人がたくさんいて。戦後、テレビが出てきてメディアが出てきて、少なくとも日本ではメディアに対してずっとそういう価値観が残ったままであることに問題があると私は思ってて。見る側の視点を「これはフェイクなんだ。でも楽しいから楽しめる」ってシフトしていく必要があるんじゃないかな。

Marika :前はテレビを見てたけど、 今はNetflixとかYouTubeとかいろんなメディアがある。見る人が見たいものを見るよう選べる時代。それをいい風にとって、読みたいメディア、自分が信じてるメディアとかをうまく選んでいくと、フェイクメディアのパワーも弱まるんじゃないかなと思う。

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わたしだからこそ、いま伝えられること

Abo:REINGでは「#formepositive(自分が自分で良かったと思うこと)」をムーブメントとして発信しているんだけど、最後に、3人にとっての「自分が自分で良かったと思えるようになった瞬間」を聞かせて欲しいな。

Marika : 私はずっとバレエ踊ってたから基本筋肉質。身長もそんなに高くないし、みんなが思ってるようなファッションモデルって感じじゃない。だけど、顔のアップとかビューティーの仕事に恵まれた。元々そういうフィールドがあるって知らなかったんだけど、この世界に入って、みんながいいって思ってくれてる自分の部分に気づいた。それは自分が知らなかっただけで、みんなが引き出してくれたことかな。

Yu : 私は自分の体がコンプレックスだったし、早く性別適合手術を受けたいと思ってたし、本当だったら今もう受けてるくらいの気持ちでいた。けれど、この仕事を始めて、私の"今のこの身体"でしか似合わないスタイルがあることに気づいた。それを褒めてもらったり、この体でないと表現できないことがすごくあって、もうちょっとこの体のままで色々やってみようかなって思った。持って生まれたものが絶対正しいとは思っていないけど、それも面白いと思って楽しめてるのはいいことだなって。

Megumu : なんだろうなあ…。私もそんなに身長はないし、いわゆる"モデル"みたいな体つきでもない。モデルをする前から髪の毛とか、白人なのが嫌で日本人っぽくなりたいとか、いろんなコンプレックスを抱えて今に至る。だけど、ある時「MEGUMUちゃんを見て、こういう自分も愛せるようになった。自分はモデルをやってて摂食障害で苦しんでた。MEGUMUちゃんを見てたら細い=美じゃないって思えるようになった」と言われてグッときた。コンプレックスを受け入れて、誰かのインスピレーションになりたい。みんないいところがあるんだよって言いたい。

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「美しさ」を形作る表現者として、まっすぐな声を聞かせてくれた3人。お会いするまでは遠い存在に感じていたのだけれど、非常に内省的で、自分なりの美しさや個性を信じながら挑戦を続ける彼女たちは、はちゃめちゃにクールでした。

3人の魅力は、それぞれ生まれ持った性別・容姿・環境を、時に抗い、時に受け入れながら、"自分”を紡いできた過程があるからこそのもの。MEGUMUさんが「いろんなコンプレックスを愛せるようになるのが一番いいんだけど、そうなるにはプロセスが必要」と言っていたけれど、自分を受け入れ愛する難しさを知る人こそ、この言葉をリアルに感じたのではないでしょうか。

コンプレックスを隠す時があったっていいじゃん。ありたい自分を目指して、自分が思う好きを貫く時、その美しさを語る時、「フェイク」もわたしの味方でいてくれる。そして、努力ではどうにもならないコンプレックスも、誰かの一言や思いがけぬ出会いで受け止められるようになる。彼女たちの言葉は、そんなエールにも聞こえました。

皆さんはどの言葉が響きましたか?


Writing : Yuri Abo
Editing:Maki Kinoshita
Photo:Edo Oliver / Asuka Otani




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