ファッション、それは「無意識の偏見」から私たちを解放する|"ROUND TABLE DISCUSSION #02"
ジェンダー課題や社会課題に取り組むさまざまな職業の人と一緒にテーブルを囲む『ROUND TABLE DISCUSSION(ラウンド・テーブル・ディスカッション)』。それぞれの体験や考えを元に、表現、ファッション、美のあり方、コミュニケーション、ソーシャルアクションといったトピックを取り上げ、ジェンダーの観点から共に未来を考えていきます。
第二回目は、ジェンダーに対するイメージを解放するためにファッションというアプローチで活動している3人のアクティビストたちと一緒に、それぞれの考え方に触れていきました。ジェンダーバイアスとどのように向き合い、どんな未来をつくっていきたいのか。力強く、優しさと新たな刺激でいっぱいの話をお届けします!
RIKU / クリエイティブ・ディレクター、アンドロジナスモデル、マスキュリニスト。ボーダレスな世の中について考えるwebマガジンの編集長を務める傍ら、デザイナーやモデルとしても活躍し、2019年に自身がブランドディレクターを務めるファッションレーベル「RIKU MUKAE」を立ち上げ。クィアを自認し、ジェンダーにとらわれない表現や思想を発信し続けている。
Instagram: @kaeri_gram
前川裕奈(Yuna Maekawa) / フィットネスウェアブランド「kelluna.」代表。過食や拒食を経験し、日本社会が押しつける美の概念に苦しんだ過去を持つ。日本人女性のSelf-Loveの促進とスリランカの女性雇用活性化を生み出していきたいという想いで、ブランドを立ち上げ。特定の美の概念にとらわれず、自分を愛し、輝く女性が増えることを願って活動している。
Instagram: @yuna_gymgirl
坂本舞(Mai Sakamoto) / 日本人の母とデンマーク人の父との間に生まれ、中学卒業まで日本で過ごしたのち、デンマーク王立芸術アカデミーにてファッションデザインを専攻。ファッション業界の大量生産・大量消費に疑問を投げかけるプロジェクト「Make Love in Good Fahsion」では自らデザイナー、アーティストとして活動している。
Instagram: @melt_soon
ファッションで活動していこうと思った理由
ー 今日はよろしくお願いします!まず、三人は共通して「ファッション」を活動の軸に置いているけど、どうしてファッションでアプローチしようと思ったの?
Yuna : 私はスリランカに駐在していた経験から「スリランカの女性を雇用して何かやろう」って思った時に、縫製が1番彼女たちに身近なスキルだったことが大きいかな。その中でもフィットネスウェアを作ろうと思ったのは、日本人ってダイエット・ジムを含めて、フィットネスを楽しくない・痩せるための手段にしてる子も結構いるなって思ったから。そういう人たちがジムに行く時って、ダボダボのTシャツで体を隠してることが多くて。ジムでこそ自分を解放できる楽しさ=”Fitness for Fun“ を提示したフィットネスウェアをみんなに着てもらおうと思った。「細いから筋トレしちゃダメ」とか「太ってるのになんでジムにいるの?」とか、そういうのって絶対に無いから。このフィットネスウェアも3S〜3Lの人まで入るサイズになってるんだ。
Riku : 僕は元々服がすごく好きだった。自分で自分のジェンダーを選択して生きていこうって思って、「それって女装なんじゃないの?」なんて言葉をもらう時もあったけど、着る物とかメイクとか、とにかく自分の思うままに突っ切って表現し続けてたら、知らない間にみんなが認識してくれたというか。初めて会う人も自分のことをすぐに分かってくれたし、昔の友達も徐々にそれで理解してくれたなっていう感覚があって、ファッションはコミュニケーションツールの1個だと実感した。社会との距離を守りも解き放ちもするのがファッションという武器。それを通じて自分と向き合えるし、自分の立ち位置とかもわかってくる。だから、ファッションをやっていきたいと思った。広義に捉えれば、自分が話す言葉とか、自分の仕草とか、そういうものも全部ファッションの一環として繋がってくるし、自分は変えられないけど、ファッションは変えることができる。
Mai : ファッションのキャンペーンやメディアのファッションは"偏った美の基準"を元に表現されていることが多くて、「ここに当てはまらない美しさって、たくさんあるじゃん」って思ってた。だから、私がファッションをやるときは、大衆的なファッションの在り方に当てはまらない美しさを祝福するように取り組んで行きたいと思って。それでファッションデザインの学校に進んだんだけど、パターンメイキングを学んでた時、先生がいつも「これは何?あなたは女性のパターンで作りたいの?男性のパターンで作りたいの?」って、デザイン画を見ながら聞いてくるわけ。私は「んー、、Queer」って答えるんだけど、男性と女性で体のつくりが違うから、先生は「駄目」って言うんだよね。テクニカルな部分がすごく難しくなっちゃうから。だけど、それでも、チャレンジすることは出来ると思ってる。
私たちを取り巻くジェンダーギャップについて
ー REINGではいろんなラベルがある中で、生まれた瞬間に男と女に分けられるジェンダーラベルにフォーカスを当てている。3人はそれぞれ異なるバックグラウンドを持ってると思うけど、ジェンダーについて意識するようになったきっかけを教えてもらえますか?
Riku : 僕がジェンダーについて意識したのは二十歳くらいだけど、最初の記憶は小学生くらいの頃で、特に家族の影響が大きかった。結構固い家庭だったんですよ。僕が男の子として生まれたから、男の子として育てたい。僕がピアノをしたいって思っても、出来ればスポーツをしてほしいと言われてさせてもらえなかった。当時はそれが普通だと思ってたんですけど、後々あれが自分のジェンダーといわゆる世の中とのギャップを感じる1番のきっかけだったなと思ってますね。ピアノやっている子は「あいつ、女々しいな」みたいなことをクラスで言われていて、ちょっと疎外されるんじゃないかな、みたいな恐怖とかもあって。
Mai:だから、本当にやりたい事とか、好きなことをいつも出来るわけじゃない?
Riku:うん、 “みんながやってる事” から、好きかも?みたいな事を選んでたような気がして… 安全で、誰にも「あいつ、女々しい」とか、マイノリティだねって思われないようなものを頑張ってチョイスしてたな。
Mai : 私が、日本で暮らしていた時にすっごい1番嫌だったのは、「女の子なんだから『デカイ』とか言うな」っていう言葉遣いの指摘。あと、制服もすごい嫌だった。まず “これを着なきゃいけない” っていうのが嫌だったし、それが二極化して男の子と女の子、その間が何にも無いのが嫌だった。自分のことを女の子じゃないと思ってたわけじゃないけど、 “男の子” “女の子”と二極化した箱に入れられるのは嫌だった。女の子だけど、女の子の箱に入れられるのはしっくりこない。でも逆に男の子の箱に入ってもしっくりこないなって。
Yuna : そうだね。「どちらかの箱を選ばなきゃいけない」っていうのがおかしいなと思う。私は、小さい時はヨーロッパの色んな国で過ごしたから、男だからこう、女だからこうって言われる部分はあまり無く育ってきたかなと思ってる。中・高は帰国子女がいっぱいいる日本の女子校に通ってて。女子校は男がいないから、ジェンダーについて考えるきっかけは無かった。
社会に出てからかな、そういう意識をし始めたのは。最初に入った会社は全然女性がいなかったから、ある意味 “男女平等”。残業もすごいするし、夜中の3時に「飲み行くぞ」って言われたら絶対断っちゃいけない。「お前は男と一緒のフィールドでやっていくんだから」って言われてて。これが男女平等なのか、と思いつつも、生理痛で仕事に行くのが辛いなんて当然言えないし、接待の時は「相手のお酒を酌みなさい」とか「その日はワンピース着て来てね」とかがあったりして。 “男女平等” って言ってるわりに、プラスαで女性の振る舞いもしなくちゃいけないから、結局負荷って大きいじゃんって思って。やっぱり日本の社会や会社って、女性に対してフレキシブルじゃないのかなって思ったのがきっかけかな。
Riku : とはいえ日本でも雇用に関しては、「多様性」が公に言われてるよね。女性をもっと採用しようって。気になるのはその目標の設定が毎回 “数字” なところ。多様性を語るのに数字しか語ってなくて、すごい建前上の多様性だなと感じてる。
Yuna : データとして「女性が何%います」みたいな。私は "結果の平等” じゃなくて、"過程の平等” が大事だなと思ってて。50:50で男女の席を平等に用意することを目指すのではなくて、過程の部分で選択の自由を平等にすることが大事だよなって思う。過程のなかで同じようにオリジナリティを尊重されてその結果、男性が80%だったらそれは仕方がないし、もしかしたら女性が100%になるかもしれないよね。
「自分らしく」の最初の一歩とは?
ー みんなそれぞれの環境でいろんなことを思いながら今があると思う。周りに合わせないで行動を起こそうって思った時は、どんなファーストステップだったの?
Mai : 男性・女性、二極化されたジェンダーの中では、異性愛の話が出てくる。お互いにモテるための表現とか、在り方とか生き方が前提で、それが私はしっくりこなかった。それで、17、18歳の頃からブラジャーを着けなくなった。なんでかっていうと、その方が気持ちいいし、しっくりくるし、そんなにおっぱい大きくないからいいなーっていうのもあったんだけど、自分の体には無い方が合ってた。そこから、メイクも、脱毛も、洋服も、「全部自分の為にしてるんだ」って。別に誰かの為にやってるわけじゃないなって思って。ティーンエイジャーの最後の方くらいにそういう考えに転換して、ほんとに自分らしいチョイスが出来るようになった。
Yuna : 私は「何のために痩せるの?」って自分で考え始めたところかな。大学時代、初めての彼氏から「もうちょっと痩せれない?」って言われたり、周りの友達やモデルもみんな細いから「やっぱ私太ってんだ、痩せなきゃ」と思って。10ヶ月炭水化物食べなかったし、ほんと数週間で10kgとか落として。もう痩せるのが楽しくなっちゃって。だけど、友達とご飯に行くときも私はサラダしか食べないから、みんなはお店選びがすごい大変。ある日、親友に「ユナのことが心配。痩せて綺麗になったとは思うけど、行きたいご飯屋さんは選べないし、バーとかに飲みに行きたいのにそういうのも出来なくなって、つまんなくなった」って言われた。私は周りのためにダイエットを頑張ったのに、結局周りにも迷惑かけてて、自分もすごい苦しくって、じゃあ何のために痩せたんだろう?って。そこらへんから段々意識が変わり始めて、好きなものを食べるようになった。一気に体重は増えたけど、精神的にすごい楽になって。自分が目指してる見た目とか健康体って何なんだろうってもう1回考えてみたら、元々食べるのが好きだし、運動も嫌いじゃない。両方バランスした時の健康体が自分の1番ありのままの姿だな、っていうところに10年以上かけて行き着いた。
Riku : 僕、臆病者でシャイなんですよ。だから色んなことを一気に変えられなくて、最初にまず “自分のことに向き合う” ってことをやった。他人の目を気にして生きてきたから、自分が昔出来なかった事とか、何が好きで何が嫌いだったかとかを思い返して、最初はメイクを始めたんですよね。僕は二十歳くらいにそういう事を始めたんですけど、昔の友達に会うとやっぱり最初はみんな驚いて、「女装してるんだ?」とか「ゲイだったんだね」みたいなことを言われて。自分に向き合って自分が好きな格好をやっと見つけたのに、「人ってそう思うんだ」と思ったら、そういう人とどう関わろう?って考えられるようになりました。この自分の為に自分と向き合うっていう時間はすごく必要で、これはもうカレンダーに入れるぐらいの感覚で敢えて時間を取るしかない。
理想と現実とのギャップを埋めていくために
ー 最後に、“多様性” や “男女平等” という言葉の、理想と現実とのギャップを埋めていくために、一人一人がどうアクションをとっていくのが良いと思うか、アイデアを聞かせてくれる?
Yuna : 人って色んな要素が組み合って出来上がってるから、人間である以上その component(構成要素)みたいなものは死ぬまで一生持ち続ける。だから、自分のそれに触れないでいようみたいなスタンスでいると苦しいかなと思ってる。いろんなcomponentを持って生まれた素晴らしさはembrace(祝福)しつつ、ネガティブなところを大きいところに紐付けるのはやめようっていう普及活動はしていきたいかな。例えば、私は女性で、日本人で、この背丈は一生変わらないから、それはembraceしていきたい。その反面、女性やジェンダー、国籍だとかに紐付けられるネガティブなところは、やっぱり違うよって言って、ちょっとずつ社会を変えていきたい。
Riku : 僕の周りだけかもしれないけど、意識的にこの人を迫害しようっていうのはそんな見受けなくなってきた。けれど、無意識の差別とか、無意識の偏見って、気付きづらいじゃないですか。だから、一つにはまず「男ってバカだよね」みたいな、すごく広義な主語を使うとこから止めていきたいなと思ってる。それってその人を見つめることを放棄してるなと思うから。
もう一つは「こういうことは、しない」って決めること。多様性のアプローチって結構「こういうことを、していこう」的なのが多いなと思うんですけど、僕はしないことを決めるの大事だなと思って。自分が今まで嫌だった事・辛かった事があったからこそ、「こういうことは止めよう」って思えるわけじゃないですか。さっき言った「大きい主語を止めよう」も、そうやって括られるのが辛かったっていう過去があったからこそ。それを決めることで、自分にも向き合うし、相手との関係性にも向き合えるなと思うんで、することも大事だけど、しないことも結構大事だなと思っています。
Mai : なんかすごい、全部共感出来る。私はothering(アザーリング※)しないこと、他の人を自分と違うカテゴリーに入れないことが大事だと思う。出会う人とか会う人全てを、柔軟に一人一人の人間として理解しようとすることが大事。そのためにもまず最初に自分と向き合って、自分らしい生き方をする。どんな小さな事でも、小さな選択からでもしていくことが大事だと思うし。
※othering=他人化。心理学において、ある物や人を未知のものや自分とは異なるものとみなす過程
Riku : 僕も小さな選択を大事にしていきたいなと思ってます。人工知能や友達のおすすめに流される機会が多くなるから、小さな選択を大事にしないと本当に固定化するなと思っていて。人間ってやっぱり流動的なんですよ。今僕が自分がこういう人間だって思ってても、明日は違うかもしれないし。そういう流動性って確実にあるのが人間だから、そういう小さな選択を “何か” に委ねないっていう余裕を持ってほしいし、そういう余裕こそが他人を認められるような人になっていく過程でもあるなと思う。
Mai:今言ったことにも関連するけど、最初は自分の心に耳を傾けて、自分がありたい在り方とか生き方とか装い方であること。それって周りに伝わるし、周りの人も自分らしく生きてる人を見ると結構勇気をもらえると思う。自分がやりたい事をやって、自分の本質的な声に耳を傾けていると、他の人の多様な在り方も許容しやすくなると思う。だからみんなが本当に自分の好きな事をしていれば、お互いをinclude(包含)しやすい世界になっていくんじゃないかな。
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3人はそれぞれジェンダーイメージに対する考えの深め方も、それに対するアプローチの仕方もそれぞれに異なっていました。けれど3人とも自分の好きなことや嫌なことを大切にして、いつだって目の前の人がどんな気持ちになっているのかを考えていた。彼らはそうやって他者に勇気を与え、そんな他者からまた勇気をもらいながら、Yunaさんが言うような「自分のcomponentを大きなものに紐づけず、自分で自分を祝福すること」を拡げてきたのかもしれません。
いつだって私じゃない誰かの言葉は素敵で、それを改めて自身の言葉で拡げようと思うと途端に心が縮こまる。それでも私は無責任ながら、自分の言葉を発することを提案したい。少なくともREINGに集う私たちは、それぞれの一言が小さくとも確実な変化を生むと信じているから。
「アクティビスト」は肩書きや職種だけを指しているわけじゃない。自らが経験した苦痛や違和感を解放しようと、行動や挑戦を日々の生き方のなかで起こしている人は皆、誰しもがアクティビストなのではないでしょうか。
Writer : Maki Kinoshita
Editer:Yuri Abo(@abozon_jp)
Interviewer : Yuri Abo / Edo Oliver
Photographer:Edo Oliver(@yumeboi)
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