シェア
並木 一史
2021年12月10日 07:00
せまいアパートの一室で。瞳から成って、頬を伝い、顎の先から、透きとおったようなその一粒が、落ちる。あの時、瑞葉が言ったとおりの方法で、いま、ぼくは精神と生活から解き放たれようとしている。神さまなんて信じていなかった、あの時。***「辛いことがあった時はね、自分のためではなくて他人のために哀しんで、他人の幸せを祈るようにして涙を流すの」「なんで、そんなことを?」瑞葉は、こうして不意に