思うこと △誉れは浜で死にました
こんにちは。駆け出しゲーム翻訳者のReimondです。今回は英日ゲーム翻訳者のいはらさんの「ゲームとことば Advent Calendar 2021」という企画に参加しました。錚々たる顔ぶれの中、ひよっ子の私が寄稿するのはたいへんおこがましいですが、「こんなローカライズを目指したい!」というあこがれと、それにまつわる思い出を書き連ねていきます。
ちなみに、見出し画像は母親と壱岐対馬旅行で訪れたリアル対馬市の小茂田浜に佇んでいる私です。ツアーだったので、あまり時間が取れない中でお母さんが私のiPhone 11 proを使って撮ってくれました。「ゲーム本編では地獄のような風景だったなぁ」などと物思いにふける暇もなく、ただただ夕日を眺めるだけでした。その様子は、以下のTogetterをご覧ください。
理想のローカライズ
誉れといえば。
…ツイート文のテンションはさておき、この台詞はPS4・PS5で体感できる大ヒット時代劇アクションアドベンチャー、『Ghost Of Tsushima』(以下ゲームを指す場合はツシマ)をひと言で表す名台詞です。未プレイの皆さんも、風の噂で耳にしたことがあるかと思います。
七五調のリズムで語感が良く、仁の「誉れだけでは民を守れぬ」という諦めと「どれだけ卑劣な手段を使おうと民を守る」という決意が力強く語られております。ここにたどり着くまで、仁は散々それを思い知らされてきたからです。ここで言われる「誉れ」とは仁の伯父である志村殿が唱える「武士としての規律を守り、栄えある死を迎える」ことであり、仁が幼き頃から抱いていた「民を守る」という誉れとは異なります。
私にとって、この台詞は「声に出して言いたい日本語・流行語大賞2020第1位」と言えるほど大好きで、「こんな言葉を書けるような翻訳者になりたい!」と身の丈に合わない目標を抱くきっかけとなった言葉です。ツシマは口に出して言いたくなるような名言ばかりで、家で日本語と英語の台詞を真似して言っておりました。
ところで、私は長崎県長崎市出身なので、発売前はツシマに方言は出てくるのかが一番気になっていました。しかし、時代劇の話し方に慣れた今となっては、もし主人公たちが対馬弁で喋っていたら方言話者以外なにを言っているのか全く分からず、翻訳に対する調べものや役者さん達の演技の負担が大きくなるだけだったので、今のスタイルが一番だと思っています。ツシマは史実ノンフィクションではなく時代劇、そして「チーズバーガー・サムライ」なのです。
また、ファンの間では日本版と英語版の台詞の意味が違うことを好意的に捉える人もいれば、ネガティブな意味でも言われているのを何度も目にしています。あまり大した翻訳実績も持たない私が偉そうに言うべきではないかもしれませんが、それは当たり前だと考えています。果たして、辞書に掲載されている意味をそのまま置き換えるだけで人の心を揺さぶる台詞に変わるでしょうか?ツシマの翻訳は感情を動かすことを第一に考え抜かれた言葉選びをされているので、直訳的な意味は違って当然だと思います。
それに踏み切る勇気があったからこそ、英語版だけでなく日本語版も多くの日本のゲーム賞に輝いたのです。
他にも、台詞で表現される中世日本の修羅の時代の世界観、考え抜かれた言葉遣い、表示されるテキストの文体、時代劇ゲームらしいフォント、何から何までツシマのローカライズは私にとって理想なのです。そして、もし万が一続編が出るなら、私もいち翻訳者として参加できれば恐悦至極です。
また、役者さん、開発スタッフ、ローカライズスタッフ全員がツシマを愛しているのが大好きです。自分の作品を好きでなければ、良いものを作れないと思うからです。
ツシマの思ひ出
初めて『Ghost of Tsushima』というタイトルを聞いた時は「なんで対馬ね?そこに何のあっと?」(なぜ対馬?そこに何があるの?)という疑問が浮かんだのを今でも覚えています。私の出身大学では長崎県内のしまの観光業を盛り上げるためのアイディアを考え、提案するフィールドワークをしていたんですが、対馬のチームが宣伝に苦労していたのを今でも覚えています。ちなみに私は小値賀町と隣接する無人島の野崎島に行きました。どっちも良か島ばい。時代劇に全く興味がなかったので、検索してゲームプレイ映像を見てもあまりピンと来なかったんですよね…。それでも、対馬市は同じ長崎県内なので、その頃から注目するようになりました。
2020年7月17日の発売後、SNSでの高い評判を目にし、1か月以上遅れでプレイを開始しました。
最初はのめり込めなかったんですが、中盤のとある場面があまりにもカッコ良すぎたので沼落ちし、ファンアートを検索してどハマりし、いつの間にか大好きになっていました。そして最後は個人的な経験(リンク先ネタバレ)と重なり、声を上げて泣きじゃくってしまいました…。物語を通してこんな風に泣いたのはたぶん初めてだと思います。その後ツシマを3周しながら役者さんの配信にハマり、オンラインマルチプレイのLegendsに夢中になり、追加コンテンツの壹岐之譚を死ぬほど心待ちにしてプレイを楽しみ、公式グッズを買いあさり、ツシマがきっかけでお母さんと壱岐対馬に旅行し、そんなこんなで今に至ります。私は幸せでした。
まさかこのような形で地元のひとつである壱岐と対馬が取り上げられ、大人気になるとは思いもしなかったので、長崎県出身者としてものすごくありがたいです。まさに誉れです。
最後に、私にとっての誉れとは謙虚でいることでした。それにまつわる思い出話を書くとなると、クリスマスまでの日にちを数えるアドベントカレンダーの企画のポジティブさに反するので、詳しくは言いません。ただし、これだけは言わせてください。誉れは高校時代に死にました。そして未だに蘇っていません。来年は私自身の誉れを取り戻せるよう、努力してまいります。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。皆様の記事も楽しみにしております。