『私という魔法をかけて。』

黒猫を飼い始めたという本を読んだので、僕も「黒猫を飼い始めた。」という文から始まる物語を書いてみました。

黒猫を飼い始めた。
これでまた私は本来の姿に近づくことができた。でも、まだ満足はいかない。
私は、自分を魔女だと自覚している。もう何歳かは忘れたが、幼い頃絵本で見た魔女の姿を見て、本来の私はこれなのだと気づいたのだ。
その魔女は金髪で、ギラっとした青い目をしていて、ガリガリで。そして、黒猫を飼っていた。
私の親は比較的寛容な方だが、理解はしてくれていない。呆れたような目で私を見る。でも、それでいいのだ。私は私だから。
早く私は本来の姿になりたくて、校則が緩いらしい市内の進学校に進学した。そして、髪を金髪に染め、青いカラーコンタクトを嵌め、わざと顔色が悪くなるようにメイクをした。そのせいか、友達は極端に少なかった、てかいなかったかも。周りからはどうも「死神」と呼ばれていたらしい。あーあ、死神とはちょっと違うけどなぁ。
その魔女は頭がよかった。人を騙したり、たくさんの呪文を暗記していたり。数学の公式が解ける、英単語を暗記するとは違う次元のものかもしれないが私の中では「頭がいい」と思えた。だから、私は勉強を頑張った。
そして、都内有数の名門大学に合格して、今に至る。
念願の一人暮らし。私の母が猫アレルギーのため、猫が飼えなかった。ようやく猫が飼えるようになった。
でも、庭がない。庭がないのは痛い。
手先が器用になった中学生くらいかな、実家でよく留守番をしているとき、裏庭に現れたカナヘビやネズミを捕まえて、果物ナイフでズタズタに切り裂いていた。だって、その魔女は爬虫類やネズミを切り裂いて、スープにしていたから。流石に、スープを作ることはできなかった。切り裂くだけなら、埋めれば済む。だが、料理をすれば、キッチンに臭いが残ってしまう。私は馬鹿ではない。そんなバレるようなことはしたくないのだ。
その魔女は人殺しもしていた。話術で騙し、おびき寄せ、そして魔法で殺す。
でも、私は魔法は使えない。そして、この現実世界は、どうやら人を殺すと「罪」となってしまうのだ。魔女と条件が合わない。
頭の中で自分の理想を膨らませるのはこれくらいにして、私は飼い猫を見つめる。
絵本に出てきた通り、青い首輪を付けさせている。もちろん、そのまま鈴付きのやつ。
ふと、この猫を切り裂いたらどうなるだろうと思う。これで何回目か分からない。
そう、私は魔女の「見た目」に感銘を受けたわけではない。それは幼少期だけの話だ。
私は魔女の「悪さをしても主役でいられる」ところに惹かれたのだ。人殺しをしても、「罪」にはならないのだ。それで、私は「悪さをしても許容される魔女」を「本来の姿」と捉えたのだ。
でも、私は猫を切り裂いたりはしない。
だって、絵本では切り裂いていないから。幸せに暮らしていたから。
私は、人殺しなんてしない。
だって、魔法が使えないのだから。


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