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型の美学

少しだけダンスの話を。

僕はダンスに過剰な表現を持ち込まない主義である。感情的、技術的、両面からそう考えている。そもそも身体を動かして踊るという時点で過剰さは演出されているのでそれ以上の余計な装飾は要らないし、かと言ってあまりに生々しい自然な佇まいは観客の立場に立った時に照れ臭く感じてしまうので鑑賞に耐え得る凛々しい表現にするために綺麗な姿勢だったり美しい四肢の軌道を加筆して必要最低限の誇張を行う。

これがどうしてなかなか伝わらない。ダンスに精通した人でさえ未だ思春期真っ只中かと目を疑うような大袈裟な表現を用いて己を誇示する。

エネルギーに満ち溢れ感情の蓋を全開にして自己を解き放つ快感を一度覚えてしまうとなかなか「秘めた想い」だったり「ダンスである必要が無いほど抑制された動き」には嗜好が向かないのもよく分かる。しかしながら僕はのべつまくなしスローガンを絶叫し続ける街頭演説のようにインパクトはあるが内容が全く頭に入ってこない状況と同じで、ダンスも振り切った感情そのままの表現ばかりでは「なんかすごかった…」以外の感想が残らないのではないか、とずっと思っている。

色々あった今年の締め括りには抑制されたミニマルな表現がDNAに組み込まれている日本民族ならではの「型の美学」を受講者に伝承しようと決めた。

コンテンポラリーはベートーヴェンの「月光ソナタ」、ジャズダンスはアギレラの「F.U.S.S.」。どちらもずっと好きだったけど手を付けてこなかった曲。

年末だから浮き足だってついついはしゃぎたくなる気持ちをグッと抑えて知恩院の除夜の鐘が気持ちを鎮めるように巻き上がった感情の塵を心身の奥底に降り積もらせて欲しい。

写真はアギレラの曲のイメージとして受講者に見せたら皆さんパアアアッと顔が明るくなってその後踊り方が激変したというエピソードを生んだ往年のスーパーモデル、リンダ・エヴァンジェリスタ。

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