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Meshell Ndegeocello『Bitter』

どうでも良い話だが、大学卒業後名の知れた広告代理店に入社するも3年で挫折し本当に目指していた(と当時は言い訳がましく周囲に吹聴していた)ダンスの道に進むことにした。ふわふわとした人生設計の軌道修正をするかと思えばその後数年間は死に物狂いで頑張っていたかと聞かれたら胸を張ってハイとは言えない時期だったように思う。

そんな時に出逢ったアルバムがMeshell Ndegeocelloの『Bitter』だった。

それまで好んで聴いていたノリが良いのにちょっぴり切なくてカッコいい音楽とは正反対、というか異次元過ぎて理解不能な世界観に文字通り心を鷲掴みにされた。出会いから20年経った今聴いても当時の騒めいた感情をそのまま再現出来る。不思議なことに同じような第一印象のアーティストはその後頻繁に現れるのだがここまで同じ恋心でいられるアーティストは少ない。

今回レビューを書こうと思い立って改めて彼女の出自を色々調べてみた。

西ベルリンで生まれ幼少期を過ごした後にアメリカに渡り10代で既に音楽活動を始めその頃から現在のアーティスト名ミシェル•ンデゲオチェロ(鳥のように自由な、を意味するスワヒリ語だそうだ)を名乗っていたようだ。

Madonnaに見出され(マドンナの音楽性はあまり好みでは無いがこうやって隠れた才能を発掘する才能にはいつも驚かされる)、彼女の設立したレーベル第一弾契約アーティストとしてデビュー。それから3枚目のアルバムが『Bitter』。デビューアルバムも続くセカンドアルバムもゴリゴリのベースにタイトなドラムが印象的な「男前」な作品で、まさかサードでそんなことになるとはデビューからの大ファンは腰を抜かしたのではないだろうか。幸い僕とミシェルの出会いはそのサードからだったので衝撃こそ受けたが自然に受け入れられたのだろう。数年経って前作2作を聴いた時は呆然としたのは言うまでもない。

とにかく、根無草のように地に足つかず生きていた僕は彼女に出逢って己の不甲斐なさにやっと気付いた。こんなに包容力のあるカッコいい女性が世の中にいるのか、それに引き換えお前は何をやってるんだ?と言われているようでいたたまれないのに彼女の骨太のベースとヴォーカルとラップの狭間を軽やかに揺蕩う低音ヴォイスに包まれたくて仕方なくて毎日狂ったように聴き続けた。

20年経ったある日、収録曲の中でも一番好きだった『Beautiful 』を流して気の向くまま踊ってみた。意外なことに当時の縋るような気持ちは湧き上がって来ずひたすら心地好い時空間が其処には在った。

これも今になって調べて分かった事だがミシェルは一つ年下。長年妹に頭が上がらなかった不出来な兄、と言ったところか。いやいや、世は常に女性の方が強いし成熟してるものなのだ。またしても爽快な完敗。

余談にして本質になるかも知れない。デビューから『Bitter』までの道程で彼女が残した偉業を最後に残しておく。

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