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Clair de lune(Moonlight)
ドビュッシーは実際には三つの「月の光」を作曲しているそうで、一番有名なこの「月の光」は元々「感傷的な遊歩道」というタイトルが付いていたのだとか。ドビュッシーが訪れたイタリア北部にあるベルガモ地方には、その地域に伝わる「ベルガマスカ」という舞踊があり、この曲が収められた全4曲構成のベルガマスク組曲の語源だろうという見解がなされている。また、「月の光」はポール・ヴェルレーヌが編んだ詩集『艶なる宴(Fêtes Galantes)』にある一遍の詩に因み、この詩集もまた、ジャン=アントワーヌ・ヴァトー(1684~1721年)の絵画に触発されたものであるとの分析が定着しているようだ。
調べてみたがヴェルレーヌがヴァトーのどの絵画に触発されたのか分からないのでここではヴァトーの「シテール島への巡礼」を載せておく。
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クロード・ジョセフ・ヴェルネという画家の「月の光の港」という絵が個人的には曲の印象とピッタリ重なる絵なのでこれも載せておく。
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『艶なる宴(月の光)』ポール・ヴェルレーヌ
君の心の風景は独創的な絵のようだ
魅惑の仮装行列が行進し
縦笛を吹き踊る人が描かれているが
仮面の下には悲しそうな表情がある
短調の調べに乗せて
愛や命を歌っているが
幸福そうな顔には見えない
歌声は月の光に溶け込むばかりだ
静かな月の光は悲しくも美しい
小鳥たちは木の枝に夢み
噴水は恍惚にむせび泣く
大理石の像の中の繊細な水のほとばしり
さて、個人的に「月の光」、そしてベートーヴェンの「月光」は思い入れの深い曲である。2014年に教材DVDに「静かな音と激しい音を聞き分けてみよう」というチャプターを入れたいので「月の光」と「月光」の3楽章で踊ってもらえないか?と某児童教材会社からオファーを頂き踊ってからというものどちらの曲も大好きになって、その後レッスンで何度か使ってみたりYouTubeで検索して奇想天外な解釈の動画を見つけることに興奮を覚えてきた。
また「月光」はロシアのフィギュアスケートのペアがリレハンメルオリンピックで披露したルーティンで使用していて完璧この上ない演技と曲の調和に嗚咽を漏らしながら観ていた。実生活で伴侶でもあった男性スケーターはその後間も無く若くして他界してしまったというエピソードと曲の悲壮感がシンクロしてそれ以来何度聴いても落涙してしまう曲である。
「月の光」でいつか正式に作品を創りたいと願いつつこんな歳になってしまったが、若いダンサー達から思わぬ依頼を受けて作品を提供することになり、これは絶好のチャンスだと考えて少し気持ち悪いアレンジの「月の光」を探し出して振付することにした。彼らがどのような感性でこの曲に対峙してくれるのか今から楽しみでならない。
彼らにも参考動画として見せるつもりの以下の動画をこの記事を読んでくださった奇特な方々にもお裾分けしておく。
ちなみにこのYoann Bourgeoisというアーティストは僕が世界中で一番尊敬する振付家(という括りでは最早語れない。演出家、というべきなのか)である。