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姫の涙



 今は昔のことですが、あるところに、泣き虫のお姫様がいました。

 とても美しくて、可愛らしい姫が、ある王宮に生まれたのです。

  王宮の人々はみな喜びました。

  そして、宮中の外にも、とても美しい姫が生まれたことは直ぐに広まりました。

 その国はとても貧しく、隣国との戦争が絶えませんでした。

 あくどい隣国の王様たちが、絶えず豊かな資源に恵まれたこの土地を狙って戦争を仕掛けてきていたのです。

 民は喘いでいました。

 自然災害も頻繁に起こり、生活は困窮の一途を辿っていたのです。

  そして、絶えず起こる戦争の影響で若い男たちはどんどんと犠牲になっていき、人口も少なくなってきていました。

  この二十年、この国は冬の時代を迎えていたのです。そこに、とても美しい姫が生まれたのです。


 同じ年に、王子も生まれました。二人はとても仲が良く、いつも宮殿で遊んでいました。

 しかし、姫は王子とは身分が異なるので、少しずつ年齢が上がっていくにつれ、疎遠になっていきました。

 しかし、二人はとても仲が良いのです。

 姫も王子も、お互いに住む場所が変わり会えなくなっていくことを嘆いていました。



 姫は赤子の頃はあまり泣かない、母が喜ぶ子供でした。しかし、物心ついた頃から姫はよく泣くようになってしまいました。

 悲しい、という感情を覚えたのです。

 姫は優しい子でした。ですので、たくさんの人を助ける為の行動を良くしていました。

  そして、人の心を鏡のように感じ取って反映する力を手に入れたのです。

 そして、姫はよく泣くようになりました。

 皆の話を聞いて、良く泣くのです。

「私は何も知らないわ。だから、周りにいる王様や街の長老達がたくさんのことを知っているのが羨ましい。姫は、何も出来ぬのです」

  姫は王様に訴えかけます。

「しかし、姫がたくさんのことを知る頃には、姫はもう永くないでしょう。だから、姫は悲しいのです。私は、困っている人を助けたい。なのに、私は無知なのです」

  王様は少し驚いてしまいました。

「悔しい、歯がゆいのです」

  姫が涙する様子を見た王様は、優しく姫を抱きしめ、頭を撫でてやりました。

「私は不死鳥のようになりたいのです。不死鳥は、永遠に死なない鳥じゃないのよ。何度でも蘇る鳥なの。私は、不死鳥のようになりたい」

  姫はずーっと、泣いています。

「ただ貧しい民を憂いているだけでは何も変わらないの。でも、姫は、それをやるにはあまりにも無力なのです。分かるのは私が実力不足だということだけ。私は歯がゆいのです」


 そして、ある日、姫は王様に呼び出されてしまいます。

「姫よ。余はそちが民を憂い、行動してくれようと頑張っていることはとても嬉しい。しかし、余は姫が悲しそうにしていることが何よりも辛いのじゃ。もう少し、楽しく生きてはくれんかの」

  王様は姫を心配して言いました。

「王様、王様は酷いお方だわ。どうしてこんなにも辛い思いをしている人が多いのに、そんなことが言えるの?」

「姫よ、人の悩みというものは尽きない物じゃ。何か問題を解決してもまた新たな別の問題が出てくるものなのだよ。人の上に立つ者は、そのことを良く分かっていないといけない」

「そんなこと、いけません!」

  そう言って姫は王宮を飛び出しました。

  しかし、姫は王子に止められてしまいました。姫と王子は同い年で、とても仲が良いのです。

「姫、どこに行くんだ」
「悲しんでいる人達のところへ行くの」
「どうして」

「ここにいたら私おかしくなっちゃうわ。自分だけいい服を着てご飯を食べて、民は苦しんでいるのです。そのことを思うと、じっとして何ていられないわ」

 王様は、躍起になっている姫をとても案じていました。正義感の強い人は、稀にひどく傷つくことがあります。

  王様はその事をよく知っていました。

  あんなに飛ばして生きている姫を見ると、幼い頃の自分自身を見ているようで、本当に心配なのです。


「姫よ。そなたは今幸せか?」
「いいえ、そんなことはないわ」
「では、そなたに人助けをすることは難しいのだよ」
「どうして」
「この世で人を幸せにすることが出来るのは、今幸せを感じている人だけだからだよ」

「困っている人を助ければ、人を幸せにすることができるわ」

「してもらっている方も、姫が幸せかどうかは分かるものだ。相手が満たされていないのに、自分が施されると、申し訳なさを感じるものさ」

  姫は納得がいっていない様子でした。





 あるとき、戦争が起きました。
  姫は恐怖に怯えました。

  私が男の子だったら、戦って民を守ることが出来るのに。しかし、それでは良い解決策ではないと考えました。

 どうすれば、戦争は止められるのだろう。
  姫はずーっと、考えました。

  けれど、考えても、考えても、いい案は浮かびませんでした。姫はまた泣きました。

  するとある日、諜報員からの情報が入ってきました。明日、隣国の軍が宮殿から南に遠く離れた市民の住む町に放火攻撃を仕掛けてくるというのです。それを、姫は偶然聞いてしまいました。



 姫は悲しみました。
  夜も眠れず、危険な目に遭う民を思いました。

  するとその夜に、姫は神の啓示を受けました。

 光と共に大天使が現れ、姫に何をすればよいのか、教えてくれました。

 この神は明日、隣国が攻めてくるとき、雪を降らせると言いました。

  敵国は食料が少なくなってきており、暖を取るための薪もあまり持っていないというのです。

 そこで、姫は翌日猛吹雪に見舞われてピンチに陥った敵国の軍の元へと単身乗り込んでいって、敵国が攻めてくるはずだった街へ敵国の兵士たちを招き入れます。

 そして、姫はそこで弱った敵の軍に温かい食べ物を恵みました。

 そこで、吹雪の日に、戦争を長くしていた二つの国の人達が、一緒に温かい食卓を囲むことになったのです。

 それは、奇跡のような一日でした。その翌日から、その軍が攻めてくることはありませんでした。


 そして、また姫のところに今度は夢の中で大天使が話しかけてきます。


「王を隣国の将軍に謁見させなさい」というお告げを受けたのです。そして、姫は王様のところへ直ぐに行きました。

「王様、敵国の将軍に会ってくださいな」
「姫、どうしてそう思うのだ」
「夢の中でお告げを受けたの」

 実際、国の重臣たちには猛烈な反対を受けました。しかし、王様は先日の姫が起こした奇跡を信じることにしました。

「姫よ、余はどこへ向かえばよいのだ」
「私が案内するわ」

 そう言って、姫は大天使が導く通りに王様と少数の護衛を引き連れて向かいました。

 王様は民を愛しています。ですので、戦争をすることは本望ではありません。


 しかし、姫の願いとは裏腹に、敵国は王様を処刑する代わりに、戦争は止めると言いました。

 姫は、酷く泣きました。

「そんなの酷い!」
と泣いて抗議しましたが、姫は王様に止められ、王様は処刑されてしまうことになりました。

「王様、私のせいで死んじゃうの」

  姫は王様と2人きりになるなり、大泣きして謝りました。すると、王様は穏やかな声で姫を諭しました。

「姫よ、泣くでない。余が一人いなくなれば民が死なずに済むのだ。安いもんであろう。余一人の命くらい」

 姫は王様が誰よりも優しいことを知っていました。


「姫よ、そなたは良くやってくれた。実際、この国はもう隣国に攻め入られることは無いし、民を救ってやるという約束も取り付けることが出来た。もう十分であろう。次の王は控えておるし、王子には優秀な信頼のおける摂政も就いておる。案ずるな」

 姫は泣きました。

「でも、私は王様がいなくなるのは嫌なのです。寂しいのです」

「姫よ、一つ頼みがある」

 姫は驚きました。

「私は、何をすればいいの?」

「あと十数年すればそなたは大人になる。そうしたら、王子の正妻になってほしい。そして、王宮の中で力をつけて、民を救ってほしいのだ」

「王様、私に務まるかしら」

「何を言うておる。そなたはもう何度もこの国を救ってくれたではないか。民もみな喜ぶであろう


姫は、王宮へと嫁ぐことになりました。

  13年後、姫はとても美しい人になりました。しかし、民は姫が傾国の美女となるのではないかと案じることはありませんでした。

  姫がどんな人であるのか、民は知っていたからです。姫は国のために王様や政治を支えてくれる人です。

  それから、姫は王宮の中でたくさんの仕事をしました。隣国とも上手く貿易を行い、平和な世の中を築くことに成功したのです。


  姫が亡くなった後、その国には必ず王宮に泣き虫の女の子が生まれるようになりました。

  姫がきっと、不死鳥のように、この国に何度もやって来ては人助けをしているのでしょう。

  それから、その国では王宮に姫が生まれると、国民全員で祝うことになりました。







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