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ヒエロニムス・ボスの作品を巡って 2

聖アントニウスの誘惑


次は、やはり、リスボンの聖アントニウスの誘惑ですよ。

中央画面131.5 x 119 cm , 両翼131.5 x 53 cm リスボンのサイトではあまり良いイメージが無いので、wikimediaのURLをあげておきます。
The Temptation of Saint Anthony, left panel (23ファイル)

The Temptation of Saint Anthony, central panel (25ファイル)

The Temptation of Saint Anthony, right panel (16ファイル)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Jheronimus_Bosch_001_exterior_01.jpg

聖アントニウスの誘惑左翼下

 この郵便屋さんなんかフィギアになって親しまれているもんなあ。若い男女が多い「快楽の園」と違って、主人公が髭のじいさんなんだけど、主人公はあまり出張らず、周囲の妖怪変化悪魔どもが、それは大盛りてんこ盛り状態なんで、文句なく楽しめますね。保存状態も良く、確かな巨匠の本物、完成作なんで、よけいな不安はありません。サインまで中央画面左下にあります。2001年の研究では、基底材の推定伐採年は1493年です。科学検査でも問題なしだから、代表作の一つといっていいでしょう。それに、「快楽の園」の中央画面と違って、何を描いているのかわからないという不安感はゼロ。ある意味わかりやすい絵画です。細部にはいろいろ解釈が分かれるところはあるでしょうが、まあ「聖アントニウスが悪魔に誘惑されたり虐められたりするが、その試練に打ち勝つ」というので良いので、納得し易いのです。 大きさは「快楽の園」よりだいぶ小さく、高さ131.5cm。まあ当時の標準サイズでしょうか。

中央 左下

みどころの多いこの作品ですが、、中央画面左下、この割れた果物のなかから進軍してくる魔物たちの描写、なんか色んなところで使われているんじゃないでしょうか?名場面です。

梯子をもって飛行する魔物

また、中央上部、燃え上がる村の上空に、なぜか長い梯子をもって飛行する魔物がとても印象的です。ここは2016年ボス展で双眼鏡でしげしげと鑑賞しました。

左翼上部

左翼上部、この空中で魔物に囲まれている聖アントニウスですけど、ショーンガウワーの銅版画をベースにした図像だといわれています。この版画、上野の国立西洋美術館で開催された
 マルティン・ショーンガウアーと15世紀ドイツ銅版画(1991年6月25日~8月18日)No.76
で実見しました。サイズ:314mmX210mm。ショーンガウアーの刷りの良い銅版画は銀で描いたような重厚な感じのもので、鑑賞価値も高いものです。
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/336142(メトロポリタン美術館)
ただ、この銅版画をもとにミケランジェロが制作した絵画というのが21世紀になってオークションにでてきました。
The Torment of Saint Anthony

https://kimbellart.org/collection/ap-200901

ヴァザーリのミケランジェロ伝にショーンガウアーのこの版画をミケランジェロが模写して素描や二次創作した絵画をつくったという記録があるので、これがそれだと主張している人もいるのですが、多数意見ではないようです。実物はみておらず写真画像だけですが、ミケランジェロとは信じがたい代物ですね。現在:米国のKimbell Museumにあります。
おなじような絵画が、スペイン・バスクのビルバオ美術館にも似たようなものがあるので、そういうもののOne of Themだと思います。
Temptation Anthony 
https://bilbaomuseoa.eus/obra-de-arte/las-tentaciones-de-san-antonio-82-1/

 このリスボンの作品にひとつだけ、疑問に思うことがあるとしたら、扉裏とが外側というか観音開きを閉じたときにみえる2面のグリザイユのキリスト受難図です。絵の質はよいのですが、その形が内面と全く違って、尖塔アーチのような形になっています。これ不思議なんですよね。たいていの場合は内側と同じ形ですからね。
  この「聖アントニウスの誘惑」、16世紀当時も人気だったみたいです。「快楽の園」のように、宮殿の奥深くにあったというわけではなかったのか、あるいは、良いコピーが多くの人が出入りする教会にあったのか、部分コピー、部分コピーを組み合わせた改作模倣作などが非常に多いのです。なお、全部精密にコピーしたものと思われるものが、ベルギー、ブリュッセルの王立美術館にあります。ベルリンにもあるようですね。プラドには右翼左翼だけですが、これまた精密なコピーがあります。ブリュッセルのコピーは非常にできが良く、とくに外扉のグリザイユは本物と甲乙つけがたいぐらいです。

http://www.fine-arts-museum.be/uploads/vubisartworks/images/bosch-3032dig-l.jpg
http://www.fine-arts-museum.be/uploads/vubisartworks/images/bosch-3032gldig-l.jpg
http://www.fine-arts-museum.be/uploads/vubisartworks/images/bosch-3032grdig-l.jpg

  これは相当忠実な模写なのですが、表も裏も上部がアーチ状の形をしている。そのために内部画面の聖アントニウスの誘惑3画面の上部の一部が切りとられたように存在しないのです。裏というか閉じた面のグリザイユの下の方には、紋章や銘文をいれる枠が描いてあるところがリスボンのものとは違うのですが、15世紀の祭壇画なら、こっちのほうが自然な感じがいたします。
 ちなみに、私が初めて実物を観たボス派の作品が、このリスボンの「聖アントニウスの誘惑」の模倣作で、ブラジルのサンパウロ美術館にあるものです。これは原作の中央画面に左翼の空中戦場面を組み合わせたキメラのような作品ですが、それなりにまとまっていますね。
https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:The_Temptation_of_Saint_Anthony_by_Hieronymus_Bosch_(São_Paulo)

#ヒエロニムス・ボス #初期ネーデルランド絵画 #西洋絵画 #西洋美術史 #ヒエロニムス・ボッシュ #ヒエロニムス・ボッス


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