教育しても成果が出ないのは相手が「人間」であるから
社会人向け教育の世界に携わっていると、次のような「思い込み」に捉われることがあります。(様々な考え方はありますが、あえて「思い込み」と呼びます)
教育を行えば何らかの成果は出るはずだ
成果が出ないのは教育のやり方に問題があるか、本人の学ぶ姿勢に問題があるはずだ(成果が出ないのはどちらかが悪い)
ここで言う成果とは、教育を行う前と後で何らかの変化が起きることを意味しています。
例えば語学のレッスンを受けたらTOEICのスコアが100点アップした、資格試験の講座を受講したら試験に合格できたといった成果はわかりやすいと思います。
他にも、今まで「あざ~す」と言っていた新人がちゃんと「ありがとうございます」と言えるようになった、すぐに「バカヤロー!死ね!」と言っていた管理職が暴言を吐かなくなった、といった行動の変化も立派な成果です。
社会人向けの教育はお金がかかる話(それも決して安くはないお金)なので教育の成果を求めるのは当然ですが、上に書いた「思い込み」に捉われてしまうと教育を提供する側も受ける側も辛い思いをしてしまうことがあります。
というのも人間を相手にしている以上、教育の成果は必ず出るというものではないからです。
万人に通用する教育の方法はあるのか?
私どものような人材育成コンサルタントは基本的に「教育に関する理論」に基づいて企業の教育施策を企画します。
なぜなら、自分たちの持論よりも様々な研究によって科学的に裏付けされた理論に沿って行ったほうが最も成功率が高いからです。
例えば下記の本は15年前に出版されたものですが、教育に関する理論を学ぶうえでは今でも最適な書物だと思います。
一方で理論はあくまで「多くの人に当てはまる」ものであり、物理法則のように万人に当てはまるとは限りません。
対象が人間である以上、仮に99%の人に当てはまっても「例外」の人は必ず存在します。
それゆえに「この研修を受講すれば絶対にできるようになります!」というものは残念ながらありません。もしあったらむしろ怪しいぐらいです。
「合う・合わない」は結構重要
実際に企業さまの社員教育のお手伝いをするとき、理論に基づいた教育手法を軸にしつつ、「その会社の社員に合うかどうか」を考えます。
例えば「問題解決」というテーマで全く同じ研修プログラムを実施したとき、ある企業では「大変役になった」となりますが、別の企業では「こんなの現場で使えない」ということもあります。
合う・合わないを判断するうえで考慮する要因の一部を紹介しますと以下のようなものになります。
企業の規模、業種
企業文化
対象者の仕事内容(総合職か現業職か)
対象者のバックグラウンド(新卒、中途、大卒、高卒)
対象者の気質(例:職人気質)...…など
もし既存のプログラムが合わないと判断すれば、全く別のものを見えるぐらい大幅にカスタマイズすることもあります。
一発で正解にたどり着くのは難しい
ある程度あたりをつけて研修プログラムを設計するにしても、相手のことを完全に理解できるわけではないので、実際にうまくいくかどうかは「やってみないとわからない」ところがあります。
私の経験上、一発で100点満点の教育施策を提供することはほぼ無理です。実際は一度目で70点行けば御の字で、80点以上のものが提供できれば万々歳です。
(もちろん提供する側は最初から120点のものを企画する意識で行います)
やってみて相手の反応を観察し、改善することを繰り返さないと効果的な教育施策にはなりません。
重要なのは一つのやり方に固執にするのではなく、様々なやり方を試すことだと思います。
相手がロボットであれば、正しいコマンドを入れることでスペック通りに作動しますが、相手が人間である以上、その人に合うやり方で教育してその人ができる最大限のことを引き出すことしかできません。
「人間」を教育する以上、そもそも簡単には行かないものとして回り道することを想定したほうが、短期的な結果で一喜一憂するよりもうまくいくと思います。
今回もお読みいただきありがとうございました。