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人生で一番の暗黒【2000文字のホラー】

夜の井戸底の暗さは、どんな漆黒だか知っていますか?
私が小学4年生の時に身に起きた出来事は、今に至るまで謎が解明できないままのでいる一夜の出来事がある。
友人宅に初めてお泊りすることになった日は、真っ青な空に入道雲の夏のある日だった。初めていくその家は歴史のあるとある場所。
そこには、いくつもの「やぐら」があって、これらは納骨堂または供養堂として利用されていたらしい。
そんなやぐらが近くにある場所で、私はそこで2つの怖い体験をした。
もうこの話をしても、時効だと思うので話したいと思う。

昼間に、やぐらに見学に連れて行ってもらったあと、夕飯の買い物にでかけたその家族は、私を母屋のおばあさんに預けた。縁側でラジオを聴きながら皆の帰りを待つうちに、無性に一人でやぐらに行きたくなったので、おばあさんに断りもせずに行動を起こした。行ってみると、先ほどまで気づかなかった洞窟の一部に壁が崩れ、ちょうど子供一人が入れるくらいの穴が開いていることに気が付く。そこを覗くと、金色に光る明かりが満ちている不思議な空間で思わず潜ろうとした瞬間、異次元の世界に入り込むような独特の音楽が流れだし全身に鳥肌がたった。瞬間的に「入ってはいけない場所」と察知した私は、急いで足を抜き洞窟を飛び出し母屋に戻った。このことはあまりの怖さに、誰にも話すことが出来なかった。あとで確認したのだが、そのような壁の穴はなかったことが最大の恐怖の1つ目である。
その日の夜、あんなに快晴だったのに夜は嵐になった。
雨戸が閉められた子供部屋に、二段ベッドと勉強机。その隙間に布団を敷き寝かせてもらったのだが、襖を閉めると嵐の音といくら目を凝らしても見えない自分の手を見つめて、あまりの漆黒になかなな眠りにつけない。しかし友人と妹は、死んだように眠っていて起きる様子もない。寝返りひとつしない二人と共にいる部屋で一睡もできないまま、ただ時間だけが過ぎていく。
恐怖でトイレが近い。頭は襖側。起き上がってくるりと向きを変えれば2歩ほどで襖につくはずだ。中二階にあるこの部屋は、襖を出たらすぐに階段がある。1階まで行ってトイレに行こうとした。くるりと向きを変え、1歩2歩。たどり着かいない。3歩4歩。頭をぶつけた。手で探ると反対側の窓側にきた。おかしい。もう一度向きを変え、四つん這いで襖に向かう。
今度は、「ガチャーンガチャーン!」と激しい物音をさせてしまい、おばさんが慌てて見に来た。
四つん這いで進んだ私が、なぜか勉強机に上っている。立った覚えなどないのに、廊下の明かりで無様な姿を自分でも確認できた。
「あら、寝ぼけちゃったの?おトイレ?連れて行ってあげるわ」
そうおばさんに言われて、用を足す。
部屋に戻ってお休みと言われて布団に入る。襖を閉めるとまた暗黒の世界。
手のひらを凝視しても、見えてこないほどの漆黒の闇。
かつてこれほどの闇を感じたことがあっただろうかと、自分でも恐怖心が増強していく。この部屋から出たい。その一心で「冷静になれ」と小声で勇気づける。枕から頭を離し起き上がる。くるりと向きを変え、四つん這いになる。襖まで2歩だ。ひとつひとつの行動を確認しながら、行動する。やはり襖がない。3歩4歩5歩6歩・・・
今度も、壁に激突した。その音でまたおばさんが起きてきた。
「どうしたのいったい。そんなに寝ぼけて。お泊りは嫌いかな?」
そんなんじゃない。私はこの部屋から出られないだけなのだ。
朝までどんなに頑張っても、結局襖にたどり着くことはなかった。一睡もしないまま、朝を迎えおばさんが起こしに来て、雨戸が開いた。
外はまた気持ちの良いほど晴れ晴れとした朝だった。
あれから、その暗黒と部屋から出られない恐怖が脳裏に焼き付いた。狭い範囲の空間をぐるぐる回るだけで、私はその場に拘束され続けた恐怖だ。

それから、大人になるまで毎年見る夢があった。暗い夜の境内で、松明(夢では提灯かと思っていたが)の中追ってから足早に逃げる自分。行ったことがないお寺の境内の夢をずっと見続けた。
数年前に、あるきっかけで知り合った人を家まで送ることになった。家は境内内になるという。車で境内を走らせて驚いた。夢に出てくる境内とまったく同じなのだ。始めていくお寺のはずが、夢で知っていた。衝撃的だった。
しかし、それは幼いころの恐怖の記憶をかき消していたのだ。泊まった友人宅は、このお寺の裏にあったのだ。そしてこの寺では大昔に大きな事件が起きている。友人宅の先には井戸があり、そこに一族の姫が追ってから逃れ身を投じたという記事をみた。私はそれと同じ行動を夢の中でやり続け、小学4年生の時に井戸の底に閉じ込められた一夜を過ごしたのだろうと推測する。きっと幼い私に、何かを伝えたかったのかもしれない。
なぜならば、私は一族を皆殺しを命じた者の家臣の末裔だからである。

#2000字のホラー

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