「多様性」という残酷な言葉
――2020年、アカデミー賞を取った映画に、「オクトパスの神秘―海の賢者は語る―」というドキュメンタリー映画があります。これどんな話かといえば、人間の男とタコのメスが愛を育む物語です。
人生は物語。
どうも横山黎です。
今回は「多様性という残酷な言葉」というテーマで話していこうと思います。
◆いろんなマイノリティ
前回、マイノリティが当たり前になってきたよね、という話をしました。そこに対する抵抗やストレスが軽減されています。
しかし、生きやすくなったのはマイノリティの中のマジョリティーで、大衆に認知されていないマイノリティの人たちにとっては何も変わっていないどころか、むしろさらに窮屈になってしまっているのではないか、そんな考察をして前回の記事は終わりました。
今回はその続きです。よく知られているLGBTQだけじゃなくって、世の中にはいろんなマイノリティがあるよね、という話です。
◆ヒトとタコの恋物語
2020年、アカデミー賞を取った映画に、「オクトパスの神秘―海の賢者は語る―」というドキュメンタリー映画があります。これどんな話かといえば、人間の男とタコのメスが愛を育む物語です。
僕はまだ作品自体を観ていないので下手なこといえないのですが、口コミをさらッと見てみると「感動した」の声が多くありました。そりゃあ、アカデミー賞とっているわけですから当たり前ではありますがね。
それにしても驚きですよね。タコと人間が海を舞台にラブストーリーを繰り広げるのですから。
一応、誤解をほどくために言っておくと、派手に「恋愛ドキュメンタリー!」と売り出しているわけではなく、あくまでタコの神秘を美しく切り取る映画のようです。観た人はこぞって、これは「タコと人間の恋物語だ」と口にしている感じですね。
タコの魅力にとりつかれて、毎日“彼女”に会いにいく。
そんな人、まわりにいらっしゃいますか?(笑)これも立派なマイノリティだと考えます。
今回の記事を書くにあたってさらっと調べていたら、動物に対して(一線を越えた)愛情を持つ物語を他にも見つけました。『聖なるズー』という本。動物性愛者の物語のようです。
こんな風に、動物に対して愛情を持つマイノリティが存在しているのです。
人によっては、認知していたかもしれません。しかし、次のマイノリティはどうでしょう?
◆『正欲』の描くマイノリティ
今、朝井リョウさんの『正欲』という小説を読んでいます。2022年本屋大賞にもノミネートされた話題作です。
そんなフレーズがこの本の紹介文に見られます。まだ読み切っていませんが、良い意味で「えっぐい!」です。
この先、物語中盤のネタバレになりますので、ご容赦ください。
タイトルをまず考察します。「正」しい「欲」と書いて、『正欲』。音だけ聞けば「性欲」と変換できます。この物語は、「性欲」の話であり、「正しさ」について問う話なのです。
時代は令和前後。つまり、現代です。
多様性多様性と、耳にタコがができるほど聞いてきたそのフレーズに悩まされるキャラクターたちの物語です。何人かの視点で交互に語られていくんですが、読み進めてく度に、それぞれの物語が交差していくんです。
でね、本題に入りますが、この物語には、「蛇口から吹き出る水に性的興奮を覚える人物」が登場します。
蛇口から吹き出る水に性的興奮を覚える人物、です。
そんな人、周りにいますか? 少なくとも、僕はこの本を読んで初めて出会いました。初めて耳にしました。
異性に性的興奮を覚えず、蛇口から吹き出る水に性的興奮を覚えるのです。そんなこと、誰にも言えません。誰にも相談できません。マイノリティの中のマイノリティだと自覚しているから、窮屈な世界を生きてきたし、その先も生きていかなければいけないのです。
そんな葛藤を、描いているのです。
◆「多様性」という残酷な言葉
動物を愛する人を、
水を愛する人を、
あなたは想像できましたか?
正直、僕はできませんでした。
その事実を知った今でもなお、その感情がいかなるものなのか、その輪郭をとらえることができずにいます。
「多様性」という言葉の登場により、救われた人は多くいると思います。しかし、冒頭でも触れた通り、より窮屈な生き方を強いられる人も数知れないのです。
世の中には自分の想像の及ばない生き方、感じ方、愛し方をしている人がいることを、僕らは意識のうちにとどめておく必要があると思いました。
そしていざ、自分のイメージの外を生きている人と出逢ったとき、どれだけの時間をかけても理解したいです。ちゃんと、友達になりたいです。
最後まで読んで下さりありがとうございました。
【#303】20220429 横山黎