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語らないことが、物語になる。

――言葉って、世界を制限するものです。だから、この世に同じ感情なんてないのに、「好きです」とか「愛してる」とか、同じような台詞を口にして、想いを伝えます。もちろん、それを真っ向から否定するつもりはありませんが、語らない方が効果的な場面が確かにあると考えています。



人生は物語。
どうも横山黎です。

今回は「言葉はないのに心を揺さぶるMV」というテーマで話していこうと思います。


◆RADWIMPS「そっけない」


最近、めっちゃくちゃ聴いている曲があります。

RADWIMPS「そっけない」

もうね、毎日聴いてるし、毎日口ずさんでしまう。曲自体が最高ってこともあるんですが、僕が今回特に語りたいのは、MV。映像です。


まだご覧になったことのない方は、一度ご視聴ください。ありふれた大学生の日常のワンシーンを切り取ったMVです。

派手に宅呑みした後、酔いつぶれてみんなが眠っているなか、一人の青年(神尾楓珠)が朝の光に目覚めます。青年は床で眠っていました。隣には、少し気にかけている女性(小松菜奈)が横たわっています。まだ眠っているようです。


そのときでした。


左手に何かが触れました。隣で眠っていたはずの女性が、指でつついてきたのです。青年は何かの間違いかと思いましたが、彼女はその後も、何度も何度も自分の手に触れてきたのです。

次第に、2人の手は重なり、つながり、唇の距離は近づいていくのです。誰も起きていない部屋の中で、秘密のやりとりを描く、そんなMVなのです。

もう最高。是非観てほしいです。

それではガンガンねたばれしながら、今後も語っていきます。



◆裾をつかんでくる女性


僕が特に語りたいお気に入りの演出は2点。

1つは、「裾をつかんでくる女性」です。


さっき、唇の距離が近づいていくと話しましたが、そのままキスにいくわけではないんです。青年が顔を近づけていく途中、誰かのスマホがテーブルの上で震え出します。誰かから着信があった模様。その持ち主は一度目を覚まして通信を切断すると、再びソファに沈みこみました。

そのとき、青年の心臓は震えあがっていたことでしょう。今まさにキスを迫っていた瞬間に起きられたわけですから、もしかしたらばれたかもしれない、と気が気じゃなかったと思います。

青年は女性から顔を遠ざけ、スマホの持ち主が自分に気付いていないかどうか確認するため、首を動かそうとします。


そのとき!!!!


女性が青年の服の裾をつかんで、それを止めるのです。止めるだけでなく、自分の顔の近くへ引き寄せるのです。何この誘惑の仕方。そんなことされたら男はもう引き戻せるわけにはいかず、そのまま長いキスシーンが流れていきます。


めちゃくちゃ良い感じで、このままハッピーエンド!……と思いきや、実は、その後、女性は何事もなかったかのように、目を開け、起き上がり、部屋を出ていってしまったのです。タイトルの通り、「そっけない」態度をされて、この物語は終わるのです。


◆一部始終を見ていた女性


もう1つ特筆したいのが、「一部始終を見ていた女性」のこと。

実はこれまで紹介してきた一連の流れを目撃していた女性がいたのです。ソファの上で横になりながら、うっすら目を開けて観察していた女性がいたのです。

憐れんでいるのか、蔑んでいるのか、悲しんでいるのか、女性は微笑みながら、置き去りにされた男性を少し離れた場所から見つめているのです。

彼女の持つ物語はいかなるものか、あれこれ想像するのも、このMVの楽しみ方だと思います。


◆語らないことが、物語になる。


ちょっと口が悪くなりますが、昨今のドラマや映画って語り過ぎちゃう傾向がある気がするんです。


言葉って、世界を制限するものです。

だから、この世に同じ感情なんてないのに、「好きです」とか「愛してる」とか、同じような台詞を口にして、想いを伝えます。

もちろん、それを真っ向から否定するつもりはありませんが、語らない方が効果的な場面が確かにあると考えています。


たとえば、『君の名は』の彗星が降ってくるシーン。とんでもない爆音が響くはずですが、音の表現はありませんでした。音の演出は「無」だったのです。いや、「無」という演出をしたのです。

他の作品でも同様な演出は見られますから珍しいものではありませんが、音を無くすことによって、鑑賞者に想像の余地を与えているんですよね。想像は無限に広げることができますから、爆音よりも大きな音が頭の中で響くことになります。


表現しないことが、物語を支えているんです。


『そっけない』のMVでは、台詞は1つも登場しません。誰もしゃべりません。それでも、そこには胸を打つ物語があります。
#最近の恋愛ドラマとかよりも見ごたえある
#少なくとも僕は


「物語」とは、「物」を「語る」ことですが、「物」を「語らない」ことも「物語」に成り得るよねという話でした。


最後まで読んで下さりありがとうございました。

【#323】20220521 横山黎



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