拝啓、10年後のあなたへ。
ーー遠い未来の話ができるほどに、僕らは自分たちの今に確かな信頼を置いているんです。だからです。だからこそ僕らは、10年後の相手に贈る手紙を書くことにしたんです。
人生は物語。
どうも横山黎です。
作家、木の家ゲストハウスマネージャー、FMぱるるんのラジオ番組「Dream Dream Dream」のパーソナリティーとして活動しています。
今日は7月23日。僕とパートナーのふたりの物語を始めた日から1年が経った日。後にも先にもないたった一度だけの1年記念日を、僕らは僕ららしく彩ることに決めました。
そもそもふたりの間に絆が生まれたのは、両者の感性が似ているからでした。僕がいいと思うものを良いと思ってくれることが多いし、パートナーがいいと思うものを良いと思えるということです。
それは付き合う以前から分かっていたことでもありました。僕らはよくインスタのDMでやりとりをしていたんですが、そのときのお互いの言葉選びが独特で魅惑的だったんです。まるで手紙を書くように、メッセージを送り合っていたんです。
次第に想い合うようになって、付き合っているも同然の関係性を築いていたんですが、いわゆる友達以上恋人未満の関係、名前のない関係が続いていました。そろそろ記念日決めたいよね、という話になって、僕らが選んだのが、2023年7月23日でした。
日本郵政いわく、毎月23日は「文の日」です。23を「ふみ」と読めるから。また、7月は文月ともいい、2023年は下二桁が23ですから「ふみの年」といえる。
ふみの年の、ふみの月の、ふみの日に、僕らはふたりの物語を始めたんです。
さて、あれから1年が経ち、1周年を記念して本や手紙をベースにして考えたプランで場所を巡った結果、案の定、忘れられない1日になったので、ここに残しておこうと思います。
①BOOK HOTEL 神保町
ふたりとも茨城を拠点に活動していますが、今回の舞台は東京。22日の夜に東京で落ち合いました。僕は前々日に東京で用事があったのでそこから実家に滞在していたんですね。パートナーは普通に茨城で仕事だったので、22日の夜に合流したというわけです。
その夜、僕らが向かったのは、「BOOK HOTEL 神保町」。「『わたしの本』をみつける」がコンセプトの宿泊施設です。本が好きだし、ゲストハウスで働き始めて宿泊施設に感度が高くなったし、以前からずっと気になっていた場所でした。せっかくの機会ですから、1周年記念のこの日にふたりで泊まることにしたんです。
エントランスを通った時点で、本好きにはたまらない光景が目に飛び込んできました。本棚に本がずらっと並んでいたんです。ホテルのスタッフさんが書かれたのでしょう、あらすじや紹介文の書かれたポップが添えられている本もありました。
ブックホテルは12階まであるんですが、各階に本棚があって、部屋に3冊まで持ち込めるようになっているんです。この階は恋愛もの、この階はミステリー、この階はエッセイ......という風に階ごとにジャンルが分かれてるんですよね。
また、僕らの宿泊プランでは本が1冊プレゼントされる「BOOK PAIRING」というサービスがついていました。本が袋のなかに入っている状態で選ぶので、どんな本が入っているんだろうという期待が膨らむし、開封する楽しみもあります。
部屋にはその部屋ならではの本が用意されているし、本好きにはたまらない景色や演出がいくつも存在していたんです。
BOOK HOTEL 神保町に関しては、また改めて記事を書くことになると思います。それだけ心動かされる場面が多かったし、僕がいつかつくりたい本のゲストハウスに通じるものがありました。
どこでも本を読めるし、ホテルに本を持ち込めばどこのホテルでも読書はできるけれど、ちゃんと本の場所として創造することで、こんなにも付加価値が高まるんだなと気付くことができました。
明くる日、23日の朝も、ゆったりとした時間を過ごすことができました。パートナーも「また泊まりたいね」とこぼしていました。
②ほんまる
神保町で有名なカレーを食べてから向かったのは、「ほんまる」という本屋さんです。ここは直木賞作家の方今村翔吾さんがプロデュースした本屋さんで一箱本棚制度を取り入れています。
月額数千円で本棚を貸し出す本棚精度。独立系書店をはじめ、最近では様々な本屋さんや図書館で取り入れられています。本屋さんの新しい在り方として注目を集めている制度です。
作家さんが本の場所作りをしているということもあり、オープンした当初から話題になっていた場所で、僕もなるべく早く立ち寄っておきたいと思っていました。せっかく神保町に来たし、次の予定まで少し時間があったこともあり、ほんまるに立ち寄ることにしたんです。
僕もいつかは自分の場所を持ちたいと思っているので、機会があれば今日のように本のある場所を訪れています。ほんまるで得た知見に関しても、また別の記事にすると思いますが、とりあえずいろんな意味で刺激になったことは確かです。
個人的に印象的だったのは、地下室の存在。地下に続く螺旋階段、その果てに並ぶ本棚。あの設計に個人的には惹かれていました。階を跨ぐって結構大事なことだと思っていて、階が違うだけで見える景色が違うので体験としての価値が少なからず高まるんですよね。
極端な話をすれば、東京スカイツリーの麓で見える景色と、展望台から見える景色はちがうじゃないですか。「高さ」は価値の変動を生む要素だと考えるので、自分が場所づくりをする上でも追求してみたいです。
③郵政博物館で謎解き
神保町を後にして僕らが向かったのは押上駅。東京スカイツリーの麓を目指しました。目的は、東京ソラマチの9階にある郵政博物館で開催されている謎解きイベントに参加することです。その名も「郵政博物館と時を超えた手紙の謎」。
冒頭に触れたように、僕らのなかでいちばん大切にしている要素は「手紙」。ふみの年のふみの月のふみの日に始めた関係ですから、1周年記念に必要な要素は言うまでもなく「手紙」です。いろいろプランを考えているなか、先月見つけたのがこの謎解きイベントでした。
実はパートナーも謎解き好きで、ふたりで謎解きをすることも何度かありました。さらに、僕は今、職場の木の家ゲストハウスを舞台にした謎解きイベントの運営に携わっていることもあり、謎解きのモチベーションが高まっています。そんな時期に、手紙がモチーフの謎解きイベントがあることを知り、これを選ばないわけにはいきませんでした。
したがって、「郵政博物館と時を超えた手紙の謎」に参加することにしたんです。
ネタバレになってしまうからあまり詳しくは語れないんですが、とにかく満足度が高かったということだけは伝えておきます。周遊謎のなかでは1番といっていいほど、今回の謎解きは解きごたえがあり、演出面にもこだわっていました。
「手紙」や「郵便」といった要素を上手くつかっていて、本当にクオリティが高かったんです。パートナーは最後の演出に胸を打たれて涙するほどでした。もちろん手紙に対する感度が高いから、その影響は少なからずあると思いますが、誰が解いても驚きとときめきと感動を味わうことができるんじゃないかなと思っています。
来年の7月まで開催しているそうなので、是非一度足を運んでみてください。手紙や郵便の歴史を知りながら謎を解き明かしていくとっておきの体験に心掴まれるはずです。
④文具店「カキモリ」
東京ソラマチの後に向かったのは、東京蔵前にある文具店「カキモリ」。なぜここに来たかったかというと、オーダーメイドのノートをつくりたかったからです。
僕とパートナーは元々交換日記をしていました。「レターブック」と称して、毎日のように1冊のノートのページに思いの丈を綴って、贈り合っていたんです。
半年くらい続けていたんですが、お互い忙しくて結局回らなくなっちゃって、書き溜めが多くなっていったんですね。これはみつめ直したい方がいいなと思い、もう少し頻度を減らして、かつ価値のある仕組みにしようとしたのです。
結果、1年に1度、レターブックを書くことにしたのです。1年を振り返るように思いを綴り、それを毎年繰り返して、未来へ残していこうと決めたのです。そのレターブックとなり得るノートを、僕らは手に入れにいったというわけです。
ふたりでお互いのこだわりを共有しながら擦り合わせていく過程も含めて、楽しい時間を過ごすことができました。
表紙を選び、なかに綴じる用紙を選び、封かんを選び......さらに、箔押しのオプションもあったので、「LetterBook 01」の文字を刻み込みました。こうして、世界にたった1冊だけのノートを仕上げることができました。
ここにこの1年間の思い出と感情を言葉にして閉じ込めていくというわけです。それは今夜、できる限りの思いの丈を並べていくつもりです。
⑤時を超える手紙
さて、「カキモリ」でノートを受け取った後は、上野にある肉バル「しおり」でディナーを楽しみました。1年間を振り返り、今を確かめて、遥か遠くの未来の話をして......そんな時間があっという間に過ぎていきました。
僕とパートナーで揃って頷いたのは、「まだまだ1年」ってこと。もちろん物語を始めてから1年が経ったことに対する祝福の気持ちはあるんだけど、それ以上に僕らは先のことを見ているんです。
ここから3年後はこうで、5年後はどんなことをしていて、10年後はきっと新しいことを始めていて......なんてことを語り合っていました。夢物語に終わるかもしれないけれど、大事なのは、そんな話を真剣に、かつ現実味を帯びて話せていること。
遠い未来の話ができるほどに、僕らは自分たちの今に確かな信頼を置いているんです。
だからです。だからこそ僕らは、10年後の相手に贈る手紙を書くことにしたんです。
10年後の自分たちに手紙を書く。そんな予定、元々はありませんでした。ただ、郵政博物館の謎解きが時を超える手紙の物語だったこともあり、それをなぞるように急遽やることにしたのです。
未来の指定した日付に配達してもらうサービスがあるので、そこに手紙を預けます。10年後、指定した日付、住所に、過去からの手紙が届くというわけです。
10年なんて未来を気安く語るのは気が引けるものです。自分はどんな姿で、何をしているのか。そんな想像すら及ばないのに、ひとつだけ確かなことがあるんです。
それは、パートナーのそばにいること。
10年後も変わらず、今と同じようなふたりでいる。その自信だけを頼りに、僕らは10年後のふたりに手紙を書くことにしたのです。
もちろん順風満帆な日々というわけではないはず。10年もあればそのうちにぶつかることも、離れ離れになることもあることでしょう。ただ、どんな道を選んだって、ふたりの物語はどうせ続いているんじゃないかと本気で思うことができているんです。
この願いのような言葉が実を結ぶのかどうかは、10年後に答え合わせしたときに分かるはずです。きっとまだnoteをやっているだろうから、そのときしれっと共有することにしますわ。
とにもかくにも、あなたと出逢えてよかったと、変わらず人生を共にしたいと、永遠をつくりたいという願いの膨らみに気付かされた1日でした。最後まで読んでくださりありがとうございました。
20240723 横山黎