「また会おう」はエール。
ーーきっと大丈夫。また会える。
人生は物語。
どうも横山黎です。
作家として本を書いたり、木の家ゲストハウスのマネージャーをしたり、「Dream Dream Dream」という番組でラジオパーソナリティーとして活動したりしています。
今回は「『また会おう』はエール。」というテーマで話していこうと思います。
僕は今、木の家ゲストハウスのマネージャーの仕事をしています。茨城県水戸市に8棟ある宿泊施設を管理運営しているんです。清掃もチェックイン対応も経費精算も全部仕事。そのなかには、お客さんと話したり、お酒を飲んだりすることも含まれます。
お客さんに満足してもらう。
日々そんなことを考えながら向き合っているんです。
昨日は土曜日ということもあり、たくさんのゲストに迎えられました。もちろんゲストひとりひとりと深く丁寧に向き合うことはできないけれど、自分たちのできることはとことんやります。
今日綴るのは、昨日宿泊してくれたとあるゲストの話。茨城大学の受験のために泊まってくれた高校生の物語です。
「また別館のシャワーのお湯が出ないので、4号館に移動してもらいますか」
「そうだね。そしようか」
木の家ゲストハウス本館の向かいに、別館があります。その別館のシャワーから温水が出なくなるという事態が起きてしまいました(今は直ってる)。
昨日は本館に貸切予約が入っていたので、本館のシャワーを利用してもらうわけにもいきません。ということで、同じタイプの部屋のある木の家ゲストハウス4号館に移動のお願いをすることにしたのです。
オーナーの宮田さんとそんなことを話していると、ひとりの若い女性がチェックインに来ました。別館の個室の和室に宿泊の方でした。
移動のことを告げると、彼女は一旦渋りました。
「そこってここから遠いですか?」
「南に徒歩7分くらいです」
「南かぁ。明日、茨城大学で受験があるので、遠くなるのはちょっと......」
「茨城大学からは近くなるので大丈夫ですよ」
行きは僕が車で送迎することも伝えると、彼女は4号館移動を承諾してくれました。
チェックインを終えて、4号館まで車で送迎しているさなか、茨城大学の話になりました。かくいう僕もこの前までは茨城大学の学生でした。それを伝えると、彼女は親近感を持ってくれたみたいです。
彼女が受験するのは、「地域未来共創学環」でした。
ビジネスとデータサイエンスを中心とした分野・文理横断の学びから、 地域課題の解決や、新たな価値創出に挑戦する実践的な人材を育てる学士課程です。去年誕生したばかりでした。
地域づくりに関心のあるようで、この学環を受験することにしたとのこと。昨日はグループディスカッション、そして今日の昼、面接があるそうです。
それを聞いて、僕が思ったのは、「migiwaに連れていこうかな」でした。
シェアベースmigiwaは、木の家ゲストハウス本館から2分のところにある地域に開かれた「みんなのリビング」です。子どもから大人までたくさんの人が日々やってきます。
案内人の隼さんとはもう1年半以上前から知り合っていて、今でもたくさんお世話になっています。
隼さんがたくさんの人とつながって、たくさんの人と人とをつなげる人ということもあり、migiwaには主婦の方から大学生、旅人、クリエイターなど、多種多様な人たちが集まるんです。それこそ「地域未来共創学環」の学生が来ることも。
面接の話のネタが見つかるかもしれないなと思って、彼女に紹介したんです。そしたら興味を示してくれました。1度4号館に荷物を置いてから、migiwaに向かいました。
昨夜もなんだかんだ人がいて賑やかでした。
僕は彼女にmigiwaがどういう場所なのかを伝えました。私設図書館、イベントスペース、コワーキングスペースの機能があることを説明しました。
migiwaを後にして、僕らはそれぞれの場所へと帰りました。僕はまだ仕事が残っていたから本館へ、彼女は食べ物を買いに近くのドンキへ。
もう少し話していたい気持ちはあったけれど、migiwaを紹介できたし、明日の面接のネタのひとつにはなったかなと捉えて、前を向くことにしました。
さて、その後もチェックイン対応をはじめ仕事を続けていたのですが、問い合わせの電話が来ました。彼女からです。
どうやら部屋のエアコンのリモコンが電池切れになってしまい、暖房がつかないとのこと。すぐさま電池を手に、4号館へ向かいました。あまり望ましくない再会でしたが、問題を無事に解決できたのでよかったです。
時はさらに巡り、22:00を過ぎた頃、また彼女から連絡がありました。また何か問題が発生したのかなと恐る恐る電話を手に取りました。
「面接の練習をしてもらえませんか?」
ゲストハウスのマネージャーを始めて以来、初めての種類の問い合わせでした。まさかすぎて思わず笑っちゃったんですが、僕らの仕事はお客さんに満足して帰ってもらうこと。せっかくの機会ですから、引き受けることにしました。
「えっと、今からですか??」
「そうですね。今から......」
「明日のために今日はゆっくり休まれた方がいいのではありませんか? 明日の朝はどうでしょう?」
「そうします。ありがとうございます。すみません、こんなわがまま言って」
そんなこんなで僕らは明日の朝10:00に、木の家ゲストハウス別館で落ち合うことになったのです。昨日は泊まれなかった部屋で、面接の練習をすることにしたんです。
朝の光が溜まる和室で、面接練習が始まりました。
僕はセンター試験と面接で受かったので、一応面接を受けた経験はありますが、面接をする側にはなったことがないので、探り探りだったんですが、あくまで僕なりの視点で伝えられることを伝えていきました。
「抽象的な話はどうしても似たり寄ったりになっちゃうから自分の言葉で話すときは具体性を持たせた方がいいよ」とか「返答の締めは未来志向の言葉がいいよ」とか。
あと、彼女には他の人には絶対にない強みがあることも伝えました。
木の家ゲストハウスに泊まって、migiwaに寄って、空き家を再生して地域を盛り上げている場所、人と出逢えたことです。県外から初めて茨城来た彼女にとって、この上ない経験であり、強みであると、僕は伝えました。
別館の前で別れのときが来ました。
お節介かもしれないけど、僕は最後に自分の話をしました。「試験日を間違えた大学受験」の話です。
僕は東京の大学に進学するつもりで受験勉強に励んでいたんですが、なんと僕は第一志望校の二次試験の試験日を間違えたんです。結局、受けられず仕舞い。あのときは人生の底にいました。
保険で出願していた茨城大学の後期が無事に合格できたからよかったけれど、進学した当初は初めての街で、初めての一人暮らしで、鬱々とした生活が回っていたものです。
しかし、僕の人生を変えてくれる人に何人も出逢えたし、自分のやりたいことをやり続けた先で、夢想だにしていなかった未来に辿り着くことができました。
「茨城大学に入学するのかぁ......」と不安と後悔で胸がいっぱいだった僕は、「茨城大学に入学してよかった」と噛み締めながら卒業することができました。
そんな可能性を秘めた場所が、茨城大学であり、水戸であり、茨城であると、最後に彼女に伝えました。
「また会おうね」
最後に交わした約束は、僕からのエールでした。
もちろん来年も僕は水戸にいるだろうから、水戸に来てくれれば再会はできます。でも、そうじゃない。
無事に茨城大学の学生になって、新しい自分に着替えた彼女とまた会いたい。拳にそんな願いを込めて、彼女の拳に当てました。
キャリーケースをコロコロ転がしながら道を行く彼女の背中が、大きく見えました。
きっと大丈夫。また会える。
彼女の背中が見えなくなるまで、そんなエールを送っていました。
もはやどこまでがゲストハウスのサービスで、どこからが個人的なお節介なのかは分からないけれど、昨日から今日にかけて紡がれた彼女の物語のように、誰かの心を動かすような仕事をしていきたいし、人生を送りたいなと再認識しました。最後まで読んでくださりありがとうございました。
20241124 横山黎