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③ループ図とシステム思考

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ループ図とは何か?


世界をシステムだと捉えるとは、ある要素とある要素がお互いに作用しあっていることを暗に示します。その相互作用の内実を見ていくことで、ループ図、というツールの強力な機能が見えてきます。

まず、正のフィードバックループと負のフィードバックループの2種類に相互作用は分類できます。

システム思考の分野では正のフィードバックループを「自己強化型のフィードバック・ループ」、負のフィードバックループは「バランス型のフィードバック・ループ」と言います。前者は、ある行動をとると、さらにその行動が促進されるので、自己強化型。後者は、その状況が変化を嫌い、その状況であり続けるバランスが保たれ続けるので、バランス型と呼ばれます。

この二つのフィードバックの矢印を使って、状況を整理すればいろんな物事に気づけます。

自己強化型のフィードバックループ

https://www.change-agent.jp/systemsthinking/casestudy_id000197.html

システム図の一例

https://gonjitti.com/blog/2019-10-07-quit-person-problem/


フィード”バック”とは?

システムの制御にはまず「フィードフォワード」と「フィードバック」があります。フィードフォワードと言うのは過去の測定結果とそのモデルがあってそこから先を”予測”して希望の値になるように調整するといった仕組みだと解釈しています。例えばエアコンの送風量の調節とかではこれぐらいの送風量にしたらどのくらい変化するというモデルが比較的簡単にできるため、フィードフォワードな調整をします。これはニュートン力学的な、未来を一方向的にすべてを予測できるというモデルです。しかし、複雑なシステムでは未来を”予測する”という行為そのものが現実的ではないため、フィード”バック”という概念が出てきます。複雑なシステムとは、生態系や社会全体、自然などです。

それは、例えばある結果が出てきた時に、それを(あらかじめ設定しておいた)”目標”との差を無くすよう後から調整するというやり方です。もちろん、そうした目標が無くとも、システムは勝手にある方向性を持っていて、その方向へ向かうことがあります。それが自己強化型なのかバランス型なのかという違いです。(この場合、この”方向性”が、あたかもシステムが内在的にもっている”目標”に見えるかもしれません。)


システム思考そのものは、あるシステムの事後的な因果関係のフィードバックを考えることによって、システム全体の規模での今後の予測を試みる考え方とも言えそうです。

またシステム思考と言うのは、前回でてきた会社経営の話とかにももちろん適用できますが、それ以上に本質的なことは異なる現象に同様な概念や法則が適用可能(同型性)であるということだと思います。システム論では個別の現象から始まってその抽象度を上げていくことによって、人工のシステムも、生態系も、社会も、物理系のシステムとかいろんなものの類似点を見つけ、それをもとに高度に効果的な行動をとっていけるようになることがシステム思考だと言えます。


システム思考の何が新しいのか?

これは前回の「世界は複雑系である」という前提に立つと見えてきます。そもそも一般的には世界が複雑系であるという認識に立っている人は少ないように思います。一方で、複雑系的な世界の見方そのものは、世に普及していないだけで、特に新しいわけではありません。それこそ仏教の教典などにも、近しい考え方が書かれています。そこに「システム思考」は、世界を複雑系という前提で見ようという考え方を一般の人でも”分かりやすい状態”で持ち込み、誰もが意識的に使いやすいようにしたことは新しいと思います。

また、システム思考で物事を抽象化して捉えると、様々な分野の共通点が見えてくるという点も、新しいか分かりませんが、少なくとも強力な”利点”だと思います。人によっては”新しい”発想だと思います。僕の言葉で詳しく言い換えると、「複雑系として世界を捉えること」は、たくさんの”個”がそれぞれ連鎖的に相互作用を繰り返して膨大なでかさの「うごめく”全体”」をかたちづくっていて、そこを構成してる要素同士の関係性には必ず正のフィードバックループなのか負のフィードバックループなのかなんらかの相互作用的な関係性が絡んでいるので、そうした「関係性の線」まで抽象化して、俯瞰的に事象を捉えること、と言えます。こうして「関係性の線」まで物事を抽象化してみるといろんな分野の共通点や物事の規則的な動きが見えてきます。



余談:システム思考の役立つ瞬間 ー工学の世界-

工学の世界では、システム思考を行うことの明らかな利点があります。工学の世界では、”システム”は設計する対象です。そこで、システムという言葉は、システム思考の文脈で使う”複雑系”という意味とは別に、”情報処理機構のまとまり”という意味でも使われます。

工学の文脈において、見てるシステムが静的なもの(一定の環境に守られたシステム)から動的システム(ダイナミクスがあるようなシステム)になって、 環境が大きく変化する可能性があるとき、特定の限られた狭い範囲の環境において高い安定性信頼性を誇るようにシステムを設計するのではなく、幅広い環境に対応できる設計を考える(ロバスト設計)ようになります。

あるシステムの変化への対応として、外乱の影響による”変化”を”阻止する”性質を組み込むことも有効ですが、必ずしも事前の予防だけではすべての変化に対応できません。そこで、どんな条件下でもシステムが変化してしまうこともあると見越して、変化した状態から自身で回復できる性質(これはレジリエンスと言います)を付与する考え方があります。これもシステム思考と言って良いと思います。

今言った複雑な環境にはどういう特性があるかと言いますと、例えば崩落現象など、普段はすごく緩慢な変化の中で急に来る変化や、雪崩・地震みたいな自然現象、後は経済だったら株価の大暴落、生態系だったら種の大量絶滅、物理現象でも複雑系によく出てくる”相転移”という現象(これも急激に起こる変化みたいなもの)。こうした環境におけるシステムの設計では、ミクロ要素をブラックボックスとして扱って単純化した相互依存関係の連立方程式(高校物理でやるような)で予測を行うことに閉じるのではなく、要素間の因果関係を基にした複雑なフィードバックを構成する必要があり、それが工学的な文脈でのシステム思考(世界をダイナミックな複雑系と考える)と言えるかもしれません。

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