システム思考で目指すところ
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複雑系科学のものの見方を、より人間科学の分野で使われている用語に変換するとそれは「システム思考」と呼ばれます。
今回はその「システム思考」について、その定義、その活かし方などを深掘っていきます。
システム思考とは
システム思考とは、
①複雑な状況下で変化にもっとも影響を与える構造を見極め、
②さまざまな要因のつながりと相互作用を理解することで、
③真の変化を創り出す
アプローチです。
真の変化とは何か?
長期持続的な変化
「真の変化を創り出すアプローチ」の「真の変化」とはなんでしょうか?
ここで言う「真の変化」とは、対症療法的ではない長期持続的な変化のことを指し示します。
対処療法的な変化とはどういうものを指すか?と言うと、例えば会社や環境問題などで頻発する、目の前の問題は解決したけどその解決策によって別のところで新しい問題が起きるというものです。
もっと日常的な例でいくと、例えば普段から身体の調子が悪いので身の丈に合わない高額なマッサージ器やサプリを買ったとしましょう。それで一時的には問題が解決するかもしれませんが、それによって例えばもっと残業して残業代で稼ぎを増やさないといけなくなったという場合、今度は労働時間が長くなってそれが健康を損なう一因となり、新しい解決策が新しい次の問題を生んでいます。
つまりここで言う「真の変化」とは、上記の例のように、新しい問題を生んでしまう解決策ではなく、できる限り長期間に渡って問題の再発しないインパクトのある解決策を出すということです。こういう変化がシステム思考が目指している「真の変化」だと捉えています。
また「真の変化」は長期持続性を目指す、時間の話だけではありません。「範囲」の話も絡んできます。
広範囲に及ぶ変化
対処療法的な解決ではない「真の変化」には、「長期持続的」であることのほかに、「広範囲」に対しての影響まで考慮していることで、より効果的なインパクトを生み出すということも挙げられます。
対処療法的な解決の1つのよくある結末は、目の前の問題はなんとか助かった(問題が解決した)けれど、実は全然別のところにしわ寄せがいっていたというものです。そこで、持続的な変化を生み出すためにも、1つの問題を、その問題を取り巻く要素の中で位置付けてみて、全体像を俯瞰してみる思考が必要になってきます。
以下、【範囲】についての例を見ていきます。
システム思考の「範囲」の説明1
例えば工場のラインで不具合が発生したとします。
不具合が発生したらそれを即修理するチームを作ろうって言って対処するのは対症療法な感じです。
その不具合が発生する現象をさらにもっと”長く”とか”広く”見るとは、「そもそも不具合が発生しない方がいいよね」と考え、「じゃあ不具合が発生している原因になってる機械を事前に予防・検査するチームを作ってそっちにもっと人を入れて~~~~」などと考えることができます。
さらに広く見ていきますと、「結局不具合が生まれてそれでどこにしわ寄せが行っているのだろう??」と考えることもありえるかと思います。
例えば、「不具合が今まで発生していたから、どこかの顧客に売り込むのに値段設定も”そういう不具合が一定起こるので、そのコストも含めてますよ”っていう前提の値段だったりしたけど、不具合が無くなるなら、もし値段そのままならその分の利益を加算できるよね」などの思考に及ぶかもしれま
せん。
このように影響が連鎖していくことは当たり前なんですが、連鎖していく状況を正確に把握することは大変で、色々ごちゃごちゃに動いていくというのがまさに”複雑系”であるこの現実なわけですが、これらも丁寧に整理していけば、全体像は見えてくるわけで、それを全部俯瞰的に見た上でどこに手をつけるかを考える選択肢がとれるようになっていけることが、システム思考の一個の特徴と思います。
システム思考の「範囲」の説明2
もう一つ、すごく面白いなぁって思った事例があります。
人件費を増やさずに売上を伸ばしたい社長がいました。
そこでは全然手が回ってなくてタスクが滞ってる社員がいました。
そこでその社員に対して社長は「効率化して、タスクを速くこなせ」と言っていました。つまり、社員に対して社長は、自分の仕事を効率化・仕組み化して、今よりも時間を空けて、空いた時間でさらにタスクをこなせるようにしろということを要求しています。
それに対して、現場の社員の方は「いやいやこっちは忙しすぎる。自分の作業の効率化をするっていうタスクでさらに忙しくなってしまうから、そんな時間はとれない。もし自分のタスクを効率化したいんだったら、それを行える人を増やして自分の作業を効率化させてください」と言う。
それに対して、社長の方は、「いや、人を雇えるほどのお金がないんだって。お前が仕事を効率化してタスクを今以上にこなせるように仕組み化できれば全部解決するんだけど。」と。
それに対して、社員は「いやいやタスクをこなす仕組みをつくれるだけの時間がないから人を雇ってって言ってるじゃん。~~」と堂々巡りの状況なります。
こうしたときに何が起きているか?を考えると、これは一連の複雑な因果関係をすごい部分的に切り出したら起こる現象で、実際に会社で起こってる事を詳しく見ると、ほんとはもっと複雑にいろんなものが絡み合っています。
・人件費のお金が足りる足りないという話
・同じ時間リソースだけどその使い方をどのように工夫したら良いか?という話
・そもそも社員のタスク効率化以外に会社の売上を増やす方法がないか?という話
・また、資金を外部からいれるかという話
・個人のタスク処理を仕組み化するっていう話の具体的な中身でも、その人のやっているタスクの内容やシーズン(時季)の話
・売上と連動してタスクの量が売り上げが上がれば上がるほどタスクの量も増えていく状況だと、儲かれば儲かるほど人は苦しい状況になってくよねとか。
このように、パッと挙げただけでも本当に様々な因果関係が絡んでいると考えられます。
そのような状況下では、1つの課題を解決しても他の課題が山積みという事態も考えられます。
そこであらゆる課題を一挙に解決する抜本的な解決策を見出すとどんなにラクだろうと思います。
さすがに全てを解決できる解決策は無いにしても、より広範囲にわたって持続的な変化を生む解決策はあるでしょう。
それを見出すためには、ものごとがどういう因果関係で回っているのかを把握する必要があり、それがシステム思考という考え方であり、また思考を整理するのにシステム思考でよく使われる「ループ図」のような相互作用の可視化と整理ということが、非常に強力な思考の武器、そしてコミュニケーションの共通言語になると僕は解釈しています。
次回は「ループ図」について見ていきます。
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