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PT・OT必見!ヒトはロボットじゃない!!ロボット的患者の出来上がり方

こんにちは。ReHub林です。

突然ですが最新鋭のロボットをご覧になったことはありますか?
理学療法士や作業療法士の方であれば、リハビリ場面でのロボットスーツ運用をイメージされたかもしれませんね。
先進国が開発した中には2足歩行で衝撃を受けても倒れず、木々を避けて歩行するという優れた姿勢制御能を備えたものがあります。現在のロボットは、プログラムによって実に多彩な運動を行うことが可能になっています。
ひと昔前と比べると、運動の滑らかさが格段に向上しているように見えます。

各動作において、ロボットとヒトではどのように違うと思いますか?

ひとまず5つだけ相違点を挙げてみます。

ロボットとヒトの相違点

・ロボットはプログラムされたことしかできず、パターンが有限だが、ヒトは無限
・ロボットは故障した時、他が機能を代償することが難しい
・ロボットは完全な静止姿勢をとれるが、ヒトは運動的な静止姿勢をとる
・ロボットには優れた感覚受容器としての皮膚がない
・ロボットは各関節が比較的独立しており、全身性の運動の繋がりがない

この5つから何を思い浮かべますか?

私は、動けなくなっている患者を思い浮かべます。
患者の状態にそのまま置き換えると、以下のように言い換えることができます。

ロボット的動作の患者

・環境が変化しても固定的な動作パターンに陥る
・自分の動作を障害なりに適応させて行為を完遂することが難しい
・動的な静止姿勢は制御が大雑把になる
・支持面や接触刺激の変化に対して皮膚やその深層で繋がる筋の反応が乏しい
・全身性の運動の繋がりや拡がりが途切れやすく、力感を元に運動する

これらは多くの患者が抱える問題ですが、患者本人の障害として生じている場合と、セラピストの関わりによって生じている場合の2パターンが存在します。

今回は動作分析におけるバイオメカニクス視点と神経学的視点をいかに良い塩梅で融合させるかがテーマです。

動作分析に関する書籍で最も取り上げられているのは、バイオメカニクスについてですね。

バイオメカニクス的視点は非常に重要です

動きが停滞したタイミングとその時の姿勢を見れば、どの部位の動きが不十分かが分かります。
また、どんな機能か不十分で停滞しているかも予測できます。

動作分析において、この予測を元に足りない機能を補うなどして運動を誘導すれば、その予測の是非を評価することができます。

もう一度言います。
バイオメカニクス的視点は重要です!

しかし、ヒトの動作を捉えるためにはそれだけでは不十分です。

その穴を埋めるための神経学的視点の+αが重要です。

動作分析における神経学的視点

特に重要なことは、動き出しの直前の「元の運動」です。
ヒトは、次の運動に備えて全身の筋緊張を調節します。
予測的姿勢制御(APA)による反応の1つと捉えられます。

動き出そうとした瞬間に全身の身体機能に合った、次の運動のための準備がなければ、ぎこちなく滑らかな動き出しになりません。ということは全身各部位の運動の繋がりが途切れ途切れになります。
当然、その後の運動は文字通りパワーで完遂することになります。

これ、ロボットっぽいですよね?

ロボット的寝返り動作

ロボット的寝返り

多くの書籍では、寝返り動作は頭頸部の先行した運動から始まり、続いて上になる側の肩甲帯前方突出が起こると記述されています。

本当にそうでしょうか?

体軸内回旋から骨盤回旋、体重移動が起こり、肩甲骨上で
立ち直ると言われています。

本当にそうでしょうか?

あるセラピストがこの順序で口頭指示を与え、運動を誘導しました。
しかしそれぞれの運動は繋がりが乏しく、途切れ途切れに各部位を随意運動によって動かしている様子でした。上で述べたロボットらしい動きです。
そして、試行を重ねるごとに、中枢部の過剰固定が強くなっていき、介入後の方が動きが悪くなっていました。

本来寝返り動作は、よく観察してみると先行する頸部の反応の直前〜同時のタイミングで寝返る側の肩甲帯や体幹の反応が始まっています。
頸部の回旋が中盤に差し掛かる頃には、既に肩甲骨上での立ち直りが始まっています。

この時、胸郭がやや拡がり、皮膚が次なる支持面としての準備を始めています。

相分けすると、運動を理解しやすいですが、実際の運動はそのようにブツ切りにはなっていません。

👉このように、予測的姿勢制御には運動開始時だけでなく、運動に随伴してリアルタイムで動作に先行して調節する制御もあります。

この随伴性予測的姿勢制御も、運動の滑らかさに繫がる重要なポイントです。

特に基本動作では、これらの反応をいかに引き出せるかが、ヒトらしく滑らかに動けるかどうかに大きく関わってきます。

この点はロボットには難しいところです。
感覚受容器としての皮膚を纏っていませんからね

確かな支持面を失った起き上がり動作

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あるセラピストが、
「バイオメカニクス的に動かせばもっと楽に動かせます」と提案し、やって見せたところ、動かす側は確かに楽そうでした。

しかし、起き上がった後の患者の座位が崩れていました。

これは座位の能力が低いのではなく、側臥位への寝返りから起き上がりにかけて、肩甲骨上の立ち直りとセットで生じる頭頸部の反応を引き出せていないためでした。
運動の連続も、重心移動も確かにバイオメカニクス的視点からは悪くありませんでしたが、そこに支持面に対する姿勢反応を捉え、引き出しつつ動きを誘導することができていませんでした。

次に続く支持面の情報をないがしろにした動作の誘導により、動き出すきっかけを失ったのです。
そのため、主体的な中枢部・頭頚部の反応が得られにくくなったのです。

それでもそのセラピストはそれに気づくことができませんでした。

人は正しいと信じることを盲目的に正しいと思える生き物です。
難しいですね。

奇妙な立ち上がり動作

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とある患者は、ブルンストロームステージⅣ程度の片麻痺者です。その患者曰く、毎日立ち上がり・歩行・リーチ動作・バランス練習を頑張っていたそうです。記録まで付けていました。
「麻痺の脚がもっと頑張らないといけないんだ。先生もそう言ってリハビリを頑張ってくれた。」
と言います。

その立ち上がりは、左右対称で見事なパラレルです。よく教え込まれています。
足の位置を細かく調節し、体幹の前傾を深々とし、いざ臀部離床。

しかし、動きは非常にぎこちなく、運動の切り替えに時間がかかりすぎます。
麻痺さえなければ、バイオメカニクス的には素晴らしい動きです。

試しに麻痺側の下肢を動作中に触診してみると
なんということでしょう。
健常者の私以上にバッキバキの四頭筋や殿筋群。

これ以上働かせて何を目指しているのか?という程にバッキバキです。実に奇妙です。

本来の神経系の反応を無視して、大脳皮質で随意運動としてバイオメカニクス的に“正しい”立ち方を練習し続けた結果がこれです。

動画「理学療法士に問う!その立ち上がりで本当にいいの?」は👉コチラ

まとめ

いかがでしたか?
残念ながら、セラピストの介入によってロボットらしい動きをする患者が3名も出来上がってしまいました。

バイオメカニクスは素晴らしい知識です。
しかし、そのベースには支持面や重力に対するヒトならではの自然な神経系の反応があってこそです。
患者の障害なりに、残存機能なりに上手に動けるためのバイオメカニクス的視点と神経学的視点の良い塩梅なバランスが動作分析には必要なのです。

この記事によって、臨床思考のバランス感覚が良い方向に向かうことを切に願っています。

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