寝返り動作のバイオメカと治療のヒント PT・OTのための動作分析
こんにちは。ReHub林です。
先日、動画「ゼロベース思考でリハビリの闇を回避せよ!」で触れたのですが、急性期・回復期でひたすら歩く練習をしてきた割に、寝返りや起き上がりがまともにできない患者を多く見てきました。
寝返りなどの床上動作で生じている問題は、立ち上がりや歩行などより上位の動作にも必ず影響を与えます。
ここでは、改めて寝返り動作についてカンタンに解説したいと思います。
寝返り動作のおおまかな流れ
構えの反応
頭頚部の先行する反応
肩甲帯の前方突出
体軸内回旋
骨盤回旋
肩甲骨上の立ち直りの完結
これは、石井慎一郎先生が紹介されている、寝返り動作におけるクリニカルイベントを一部改変しています。
構えの反応
これは、寝返ろうとした瞬間に生じる、全身性の協調的な姿勢反応です。
ヒトは寝返る時に構えの反応から始まり、この時すでに寝返る側の肩甲骨上での立ち直り反応が始まっています。
構えの反応が生じていなければ、後に続く全ての反応が障害されます。非常に重要な反応なので、前回の記事をご参照ください。
👉「寝返り動作で最初に見るべきポイントと治療のヒント PT・OT動作分析」
頭頚部の先行する反応
文字通り、寝返る側に頭頚部の回旋と軽度屈曲が生じます。
上の「構え」とほぼ同時に起こるため、「構え」とセットで観察するのがよいと思います。
なぜかというと、頭頚部から起こる回旋の運動は、本来分節的で連続的であるからです。頭頚部の回旋だけに囚われると、後に続く体幹の回旋などの反応が協調して繋がっているかどうかを見落としがちです。
👉もう一つ、この時のポイントとして、「眼球運動」があります。
中枢神経系に障害を抱えている人の多くは、眼球運動に少なからず障害を抱えています。眼球運動を円滑に行えない人は、この頭頚部の反応が拙劣になります。
肩甲帯の前方突出
両側の肩甲帯の前方突出が起こります。
主には反対側のことが記述されていますね。
反対側の上肢内転ではなく、肩甲帯を前方突出です。肩甲帯の前方突出によって、反対側の支持面を狭くし、不安定にすると同時に寝返る側に僅かに重心を移動します。
このように体重の移動というのは最初から連続的に起こっているのです。
片麻痺患者の場合、痙性や連合反応によってここで動きが停滞することがありますね。この肩甲帯の前方突出は、次に続く体軸内回旋とセットになっており、体幹の反応と合わせて生じることが重要です。
👉肩甲帯の前方突出を誘導する時、構えなど体幹の反応もセットで引き出すように誘導することが非常に大切なポイントです。
体軸内回旋
個人的に不思議なのが、この時だけ「体軸内回旋」と表現する文化です。
”回旋”は元々内側に軸を持って捻じれることですから、体幹回旋で良いのでは?と思います。
この体幹回旋は肩甲帯の運動とセットで生じます。そのため肩甲帯の前方突出の際に、肩関節内転だけが行われている場合は、この体幹回旋は生じにくいでしょう。
体幹回旋によって、寝返る側の肩甲帯の前方突出が大きくなり、いよいよ体重移動の要素が大きくなってきます。
体幹回旋時に重要なのは、もちろん体幹を回旋することなのですが、もう一つポイントがあります。
それは、寝返る側の肩甲骨上で胸郭が動くということです。「構え」から始まる寝返る側の肩甲骨上での立ち直りが十分に生じていないと、この反応が出ません。
👉よって、この体幹回旋を寝返りらしく引き出すためには、最初に戻って「構え」の反応から動きを繋げられているかを確認すべきです。
骨盤回旋
体幹の回旋に引き続き骨盤の回旋が起こります。
しかし、この反応もまた「構え」の段階で寝返る側の股関節外転・外旋も含めた支持面の広がりがなければ努力性の運動になりがちです。
ここで問題となりやすいのは、上部体幹と下部体幹の連結が不十分な場合です。体幹の回旋だけが過剰に生じて、骨盤がついてきません。
逆に体幹を過剰固定している場合、分節的な運動が行えず、丸太様に寝返るため、転がるために必要なエネルギーが大きくなってしまいます。
骨盤が回旋するためには、骨盤を挟んでいる下肢と体幹双方の連動が不可欠であるということです。
👉大腿骨頸部骨折術後患者や寝たきり患者など、臀部を支持面に合わせていく反応が乏しい方はこの点で苦労しているかもしれません。また、片麻痺患者の場合、麻痺側股関節の部分で上下の連結が乏しくなっており、下肢の重量をテンタクルによって補償することができず、骨盤の回旋を阻害していることもあります。
肩甲骨上の立ち直りの完結
さて、「構え」の反応から既に紹介していた、肩甲骨上の立ち直り反応です。最終的に、機能的な側臥位になれるかどうかは、この反応が非常に重要なポイントとなっています。
機能的な側臥位とは、支持面のコントロールから独立してその他の部位を活用できる状態であり、動ける側臥位です。
上になる上肢が機能するには、肩甲骨が体幹に過剰固定されていては難しいでしょう。また、体幹の制御が支持面になっている肩甲骨とへばりついている状態では土台となる体幹もまた、強い影響を受けてしまいます。
👉この立ち直り反応が重要な意味を成すのは、機能的側臥位であるということと、この後に繋がる起き上がり動作において、オンショルダー➡オンエルボーへの運動を行う上で不可欠だからです。
起き上がり動作が上手くいかない患者の多くは寝返り動作の時点で起き上がれないパターンに囚われていることが多くあります。
まとめ
今回は、寝返り動作の全体的な流れをザックリと解説してみました。
バイオメカニクス的に捉えると、それぞれのクリニカルイベントがはっきりしていて分かりやすいかもしれません。
しかし、それは甘い罠です。
セラピスト、特に理学療法士は動作を相に分けてブツ切りにしがちです。それは学校教育でも臨床現場でもしばしば認められる現象です。
しかし、ヒトの動作は流れゆくものです。ここまでで解説した通り、全てのクリニカルイベントはその他全てとつながっており、どこかで生じるエラーは、また別のタイミングで別のエラーを引き起こします。
ゆえに、何がその動作障害の本質的な問題であるかを捉える技術が必要なのです。
いかがでしたか?
この記事が患者がベッドから離れられる一つのきっかけになれることを切に願っています。
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