治療的に”顔を拭く”ということ PT・OTのための動作分析
こんにちは。ReHub林です。
早速ですが、急性期、回復期を経た脳卒中片麻痺患者の生活期でのあるあるを1つ。
サマリーでは麻痺側の機能を細かく書いてあり、その改善に向けてPTは装具歩行練習、OTでは上肢のリーチや把持の練習などなど、エビデンス的には間違ったことをされていませんでした。
そう、エビデンス的には。
しかし初回の介入で分かったことは、背臥位も座位も立位もまともにとれない。
頸部の過剰固定もあり、眼球運動は正中を越えて麻痺側に動かない。
こんな症例が何人も。
そこで、この記事では、頸部と眼球運動へのアプローチについて「顔を拭く」という整容動作の視点から解説します。
この評価・治療視点は、寝返りや起き上がり動作を改善させるヒントになるでしょう。その他のADL動作の改善にもきっと役立つはずです。
顔を拭くということ
顔を拭くという課題の要素は、洗顔動作とかなり近い部分がありますので、こちらも参考にして頂けると嬉しいです。
👉”整容動作「洗顔」PT・OT・STのための動作分析と治療のヒント”
顔を拭くということは、拭く−拭かれる関係性の中で身体反応が生じます。
具体的には、顔を拭く際、拭く角度に拮抗するように頭頸部の反応が生じます。
自分で拭く場合、顔を拭きに向かう手と拭かれに向かう顔面が協調して動きます。
人に拭いてもらう場合も、その接触刺激を探索する反応が生じるため、拭かれる刺激の角度に拮抗するように顔面、頭頸部が反応します。
今回はこの拭かれに向かう反応に焦点をあてて評価・治療を解説します。
簡単な説明は動画でも配信していますのでそちらもご覧ください。
👉「整容動作の反応と治療のヒント」
この世界を捉えられないという障害像
これは“麻痺側もっと頑張れ療法”を過剰に受け続けた患者によく見られる障害像です。
本来動くはずの中枢部などを過剰固定することを繰り返し、頭頸部の探索的な反応が阻害されると、それに伴って眼球運動も阻害されてしまいます。
眼球運動と頭頸部の反応はセットです。
これらの反応が阻害されるということは、健常者と同じようにこの世界を捉えていないということです。
それではまともに動けませんよね。
もちろん、視覚的に捉えられないという問題だけに留まりません。
頭頸部が過剰固定されるということは、支持面からの感覚情報を受け取りにくくなり、胸郭など、体幹の支持面に対する反応も生じにくくなってしまいます。
こうなるともう、力感に頼ってパワフルに動く他なくなりますね。
これはもう、間違いなくセラピストが作り出した障害像です。
顔をどう拭くか
患者の反応と姿勢にもよりますが、横方向からの介入から始めるのがベターでしょう。
なぜなら、上下運動に対して、ヒトは固有の外眼筋を持っていないからです。固有筋が無いということは、複数の筋が協調する必要があり、難易度が高いということです。
眼球運動からアプローチしたい場合は、顎付近よりも目の外側から触れていくとよいでしょう。
そして、横方向から刺激を与える瞬間から丁寧に接触刺激に対する反応を観察していきましょう。
触れた瞬間や、擦る圧を強めた瞬間に、眼球・頸部が接触刺激を探索する反応が生じます。顔面の皮膚も緊張を高めつつ拮抗してくるでしょう。
いきなり麻痺側から行うよりも、非麻痺側を行った後に麻痺側にアプローチするほうが反応を得られやすいこともあります。
何回行えばいいのか?そんなエビデンスはありません。
望んだ反応が出るかどうかが目安です。
一部の外眼筋の緊張が高すぎて反応が得られにくい場合は、温かいおしぼりによる温熱効果なども活用して緊張を緩める方法もあります。
どの姿勢で顔を拭くか
結論から言うと、目的によります。
しかし、基本的には背臥位から行うと良いでしょう。
座位では、空間に頭部を定位させなければなりませんし、背臥位で反応が乏しい患者は座位でも乏しいです。
まずは背臥位で行い、眼球運動や頭頸部の反応を見ます。もちろん、顔面の皮膚の緊張も同時に評価します。
この時の反応は良く覚えておきましょう。
座位や立位などに姿勢変換した後に反応が変わる場合、違う部位の問題が頭頚部のコントロールに悪影響を与えている可能性があります。
+姿勢を評価する視点
顔を拭いた瞬間に、顔面や眼球運動、頭頚部の探索反応を評価することをここまでで述べました。
では、背臥位で顔を拭いた時にこれらの反応が生じた時、全身反応としては何が起こっているでしょう?
例えば右側から顔面に対して清拭した際、頭頚部を右回旋して向かってくる反応が出たとしましょう。
この時に注目すべきは、右肩背面・右胸郭です。支持面を広げるような身体反応が生じる可能性があります。
これは、右から受ける接触刺激に対する探索反応の1つです。右側からの刺激に拮抗して向かっていくために、右側の支持面をコントロールしようとするのです。
こうして、背臥位において視覚としても機能的支持基底面としても右側の世界が広がります。
座位の場合は、肩や胸郭の反応だけでなく、骨盤・股関節の反応も評価しましょう。左右から交互に顔面への接触刺激を与えた時に、両坐骨からの床反力に対して座面をコントロールしようとする反応が生じることがあります。
まとめ
”治療的に「顔を拭く」”いかがでしたか?
ザックリまとめると
・拭くー拭かれる関係性を理解して、眼球運動や顔面、頭頚部の反応を評価・治療すること
・まずは背臥位で横方向からの清拭で顔面に接触刺激を与えること
・接触刺激に対する探索反応は、顔面や頭頚部だけでなく、肩や胸郭・骨盤などその他の部位の姿勢制御に波及しているかどうかを評価する
この3点です。
このように「顔を拭く」という生活動作1つでも、反応を捉え、引き出すことで姿勢コントロールについても評価・治療することが可能です。
是非、普段のリハビリテーションに活用していただければと思います。
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