PT・OTのための動作分析「更衣動作の本質と要素」
こんにちは。ReHubの林です。
服を着るって難しいですね。
今朝服を着る時、ポケットチーフはすぐに決まりましたが、シャツ・ネクタイの合わせに違和感を覚えて2回もネクタイを締め直してしまいました。
服というのは体温をコントロールするという動物的な側面と、所属社会に適応するための社会的な側面があります。
一般的な「更衣動作」という意味では、動物的側面が強いでしょう。
一方で服を選択するところからの活動レベルに焦点を当てると、社会的側面が強くなりますね。
理学療法士・作業療法士は更衣動作に関わる際、動物的側面に関わることの方が多いように見受けられます。
その中でも、「どう着るか」という点に関わっていることが多いのではないでしょうか?
ここで一つ、どう着るかの前に知るべき「更衣動作の本質」についてご紹介します。
更衣動作の本質
更衣動作に関して、柏木正好先生は以下のように述べています。
更衣動作の本質は、“衣服という新しい皮膚を身に着ける(または剥ぎ取る)ことである”
“動作の主体は布が覆いつつある身体部位そのものであり、更衣に動員されるその他の身体反応はそれに追随する。上肢の活動は決して主役ではない。”
ヒトが服を着るという動作をよく観察してみると、この柏木正好先生の言葉をいつも思い出します。
今回のメインテーマは「更衣動作の要素」です。
更衣動作の要素
・衣服の形状・大きさ・素材感の認識
・衣服の形状と自己身体のマッチング(着用イメージ)
・衣服の剛性や弾性を利用して離れた部位をコントロールする
・衣服の摩擦刺激、皮膚との接触・通過
・衣服の素材や形状変化に合わせた手の形状の変化
・フィッティングの度合いの検出(過剰な重なりなど不協和の検出)
・上肢と該当部位との「着るー着せられる」という協力関係
・上肢による衣服の操作
・体幹による衣服の操作
・両手動作による協調性
・上肢・体幹の協調性
こんなところでしょうか。盛りだくさんですね。
今回は、この中でも太字の3つを主に紹介致します。
最初に挙げた2つについての詳細や、評価のポイントは前回の記事で解説しています。
まだご覧になっていない方はどうぞ👉「PT・OTのための更衣動作3つプロセス」
離れた部位をコントロールする
ヒトは服を着る際、身体にまとわせる部分を操作することは滅多にありません。袖を通す時、その袖には触れていないのです。
後ろ身頃や反対側の襟元を引っ張ることが多いです。
この時、衣服の剛性や弾性を利用して、アームホールなどからの抵抗を受けて探索的に体幹や肩甲帯が反応し、袖に対して着せられに向かうのです。
これは動画で確認する方が分かりやすいので動画をご覧ください。👉「更衣動作におけるヒト本来の反応」
動画の中では、一方の袖を最初に通す時と、一方の袖を通した後に反対側の袖を通す時の固定や抵抗部位の違いも紹介しています。
ぜひ、ご自身でも繰り返し着替えてみて確認してください。
衣服の摩擦刺激、皮膚との接触・通過
これは、下衣の更衣などでも同様ですが、服を着るということは、服の摩擦刺激がありますね。
ヒトはこの時、どのように反応するでしょう?
ヒトは、皮膚の上を擦れて通過させる時、表層の皮膚・筋は緊張を高めます。緊張を高めることで、衣服が生じる摩擦に負けずに皮膚をその場に留めようとします。
逆に深層を動かすように圧刺激を加えると、表層の皮膚・筋は緊張を緩めます。
おもしろいですよね。
脳卒中片麻痺患者や臥床期間の長い患者では、この要素が障害されているヒトも多いです。
それは、単純に表在感覚が鈍麻しているからというわけではありません。
皮膚がダルンダルンのデュルンデュルンです。
そのような状態にあれば、接触刺激に対する反応が生じないのは当然です。
👉もし、あなたの患者が上手く服を着られない場合背部をめくって背中の皮膚を動かして確認してみましょう。
「着るー着せられる」の協力関係
これは、「離れた部位をコントロールする」とも「皮膚との接触・通過」とも関係します。
ヒトは服を着る時、離れた部位をコントロールし、衣服の固定や摩擦をコントロールしています。
その結果受ける皮膚への摩擦刺激や圧力に対して、身体が衣服から受ける連続的な刺激を探索して「着せられに向かっていく」のです。
👉特に脳卒中片麻痺患者の場合は、こういった反応が乏しいことが多いため、服を着る時に操作している所、それに対する中枢部の反応、などを意識して観察すると答えが見えるかもしれません。
「脳卒中片麻痺の人の更衣動作でおさえておきたいエラーの特徴3つ」をYouTubeで先行して配信しています👉コチラ
それって本当に「着衣失行」?
維持期で働いていると、時々、サマリーに
「着衣失行を認め、更衣動作に重度介助を要します」
と書かれていることがありました。
リハビリでされていたことは「ただ服を着る手順を繰り返し練習した」でした。
いやいや、高次脳機能に問題があると思ったのならそこに関わらなきゃ良くならないでしょ。「服を着る手順の反復練習」とは、いったい何にアプローチしているのでしょうか?
既にお気づきかもしれませんが、上の要素一覧の中に、手順が含まれていません。
それは、服の形状や素材、更衣する空間の広がりなどによって常に変化するからです。
「ストレッチ性のないナイロン素材の時は袖が落ちるので肩までしっかり上げましょう」
「ユ〇クロのインナーは良く伸びるので引っ張って空間を作って反対の袖を通しましょう」
臨床でこんな風に指導することなんてまずないですよね。
全ての服ごとに練習しなければならない無限地獄です。
しかし、手順を教え込むということは、本質的にこれらと何ら変わりないのです。
一体患者は各要素の中のどこでエラーが生じているのか?を捉えることが、まず最初にやるべき評価です。
「着衣失行」と名前を付けてしまうと、問題の本質を見えなくします。着衣失行というただの結果を表す言葉で障害を決めてしまうのではなく、これまでに紹介したプロセス・要素から、患者の障害の本質を見極めるべきです。
実際に、そうして関わった患者は「着衣失行」とレッテルを貼られていても、ちゃんと服を着られるようになります。
どうか、言葉に囚われず、現象を突き詰めていきましょう。
いかがでしたか?
前回の「PT・OTのための更衣動作3つプロセス」と合わせて、更衣とは本来どんな活動なのか?を紹介いたしました。
普段患者の更衣動作を見る時に、自分が評価・治療していたプロセスや要素はどこかに偏っていなかったか?見落としはなかったか?を振り返るためのツールとして、この2つの記事を活用していただければ幸いです。
みんなが思うままに服を着られて、人として社会的な選択ができることを望むとともに、この記事の結びと致します。
ご質問・ご意見等ございましたらコメントください。
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