上肢下垂位での肩上方の痛み【明日から使える治療ルート5選】|2022.06.27配信
はじめに
「腕を下ろした状態で、肩上方に痛みを訴える対象者に何をすれば良いか分からない...」
「肩上方がなぜ痛くなるのか分からない」
肩関節は、複雑な構造になっているので、
解剖学的知識や運動学を用いて、しっかり介入しなければ、
痛みを改善させる事は難しいです。
また、知識なしに運動させると、痛みを増悪させてしまい、
対象者のとの信頼関係がズタズタになってしまう可能性も大いに考えられます。
この動画では、「痛みの理学療法の基本」から「肩関節の最低限必要な解剖学的知識」、
そして「上肢下垂位で肩上方に痛みの訴えがある症例の評価方法・治療案」まで解説していきます。
この動画を最後まで見る事で、今までとは一味違った治療が行えるようになるはずです。
また動画の最後の方では、分かりやすい臨床推論ルートも説明しているので、ご活用ください。
このチャンネルでは、
複雑で膨大なリハビリに関する知識を、整理して詳しく説明しているので、
「有益な情報を見逃したくない方」や「日々の臨床を楽しくしたい方」は、チャンネル登録しておく事をお勧めします。
では、本編に進みましょう〜
本編
疼痛への理学療法介入について
ここでは「痛み」に対して理学療法介入を行うときに、
ポイントとなる3つのステップについて説明していきます。
①力学的ストレスの特定
まずは「痛みのある部位にどんな力学的ストレスが生じているか?」を明確にしていきましょう。
言い換えるなら、「痛みを誘発する力学的ストレスは何があるか?」を特定するという事になります。
疼痛発生に関わる力学的ストレスは、全部で4つあるので、これは最初に押さえておきましょう。
1、圧縮ストレス
・組織に圧縮が加わったときに発生するストレス
・特に身体に関わる力を緩衝する組織は、このストレスが増強すると損傷や機能障害を生じることが多い
→関節面
→関節に介在する線維軟骨
→関節周囲の脂肪体
など、、
2、伸長ストレス
・組織に伸長が加わったときに発生するストレス
・張力を伝える組織は、このストレスが増強すると損傷や機能障害を生じることが多い
→靱帯
→腱
3、剪断ストレス
・組織を引き裂くようなストレス
・回旋運動が加わった組織に生じることが多い
4、摩擦ストレス
・腱や靭帯が走行を変えたり、幾層にも重なったりする組織に発生する摩擦によるストレス
・滑液包や腱鞘は、摩擦ストレスを緩衝する役割をもっている
・これらの組織に対する摩擦力が増加することで、損傷や機能障害が生じる
どのような動作で、どのような力学的ストレスが加わっているのかを考えられると良いですね。
②疼痛部位の特定
ここでは「どこが痛いか?」を確認していきましょう。
「痛みを生じさせている部位」を特定していきます。
痛みが出ている部位を特定できなければ、臨床推論は進みません。
解剖学的知識や触診の技術、各種テストを使って、痛みを生じさている部位を確認していきましょう。
「解剖学的知識」や「各種テスト」に関しては、「りはメモ」でも、発信していますし、もろもろの参考書でもたくさん情報があると思うので、それらを確認しましょう。
触診に関しては、ある程度の練習が必要になります。
各部位の触診のポイントを簡単に説明するので、今後の参考にしてください。
骨
・骨を正確に触診するには、周囲の軟部組織との鑑別が重要になる
・周囲組織の緊張を低下させて触診するのがポイント
・硬い感触のため、比較的触知は簡単
筋肉
・対象の筋肉の起始停止はもちろん、隣接する筋肉の起始停止の知識も必要
・筋と筋の間(筋隙)を確認できると、対象の筋肉の全体を触知できるようになる
・周囲の筋を緩めることで、対象の筋肉が触知しやすくなる
・固有の筋作用がある場合は、その運動を行なってもらい収縮時の硬度や違和感等を確かめるのも有効
靭帯
・靭帯線維の太さや柔らかさや深さが各靱帯によって様々であるため、明確な感触がつかめないケースもある
・ストレステストやエンドフィールで、靭帯の緊張を評価するのが有効
解剖学的知識を応用して、「どこが痛いか?」を特定していきましょう。
③疼痛発生要因の分析
ここでは「なぜ痛いか?」を考えていきます。
ステップ①と②で特定した「力学的ストレス」と「疼痛部位」の情報を参考に、
疼痛発生の原因を分析してきましょう。
それによって、治療の方針を定めたり、
理学療法介入によって治療可能かどうかを判断する事が可能になります。
「動作のバイオメカニクス」と「正常な関節運動のメカニズム」の知識をもとに、問題が発生した要因を分析できるといいですね。
動作のバイオメカニクス:動作時にどんな関節モーメントが働いているのか?どんな外力が生じているのか?などの知識
正常な関節運動のメカニズム:運動時の静的安定化機構はどうか?動的安定化機構はどうか?などの知識
おさらいすると、
疼痛に対して、理学療法介入を行うときは、
①力学的ストレスを特定する
②疼痛部位を特定する
③疼痛発生要因を分析する
肩の機能解剖基礎
肩上方の痛みについての説明に入る前に、
最低限必要な、肩の機能解剖の知識をお伝えします。
肩関節の知識がない方は、ここはベースとなる知識なので、是非確認してください。
また知っている方は、復習のつもりで流し聞きするのもありですが、その辺はお任せします。
では、説明に進みましょう〜
関節の構造について
肩は、「肩甲上腕関節・胸鎖関節・肩鎖関節」の3つの解剖学的関節と、
「第2肩関節・肩甲胸郭関節・C-Cメカニズム」という3つの機能的関節から構成される事がポイントになります。
これらの構造が互いに関連する事によって、広い可動範囲を、安定して動くことが可能になっています。
一方で、どれかの構造が破綻すると、途端に可動域制限や不安定性が生じやすくもなっています。
肩の安定化機構について
静的安定化機構と動的安定化機構について説明していきましょう。
まずは、静的安定化機構について
静的安定化機構は、「関節構造・関節包・靭帯」などにより安定を図る仕組みです。
関節の構造として関わるのは、骨形態と関節唇になりますね。
骨形態
骨形態は、肩甲骨の関節窩の深さがポイントになります。
関節窩の深さは個体差があると言われているのですが、
浅い場合は、安定性が低下します。
関節唇
関節唇は、関節窩の深さを補強するよな線維軟骨組織で、
この組織によって、関節の安定が強固になります。
関節包と靭帯に関しては、
関節包と前面の関節包靭帯が、関節の安定性に寄与するとされています。
また、肢位によって安定性に寄与する組織が変わるのもポイントになりますね。
上肢下垂位では、上関節上腕靭帯が、
上肢挙上位では、下関節上腕靭帯が緊張し、安定化に貢献します。
ちなみに、
肩関節の肢位について、
下垂位を 1st position
90°外転位を 2nd position
90°屈曲位を 3rd position
と呼ぶ事が多いので、覚えておきましょう。
次は、動的安定化機構について
動的安定化機構は、主に「筋肉」により、安定化を図る仕組みを指します。
ポイントになるのは、「回旋筋腱板」「IST muscles」になりますね。
回旋筋腱板
「棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋」から構成される筋腱板を指します。
これらの筋肉は肩甲上腕関節に近い位置に存在し、
関節窩に上腕骨頭を引きつける事で、関節の安定化を図ります。
IST muscles
肩甲胸郭関節の運動に関与する筋の総称になります。
僧帽筋、菱形筋、前鋸筋、小胸筋とかが当てはまりますね。
肩関節運動時の基盤となる肩甲骨の安定性に関わります。
肩の運動について
肩の運動は、先ほど述べた「解剖学的関節」と「機能的関節」の協調的な運動によって行われます。
ここでは、特に重要になる3つのポイントを押さえておければOKです
肩甲上腕リズム
肩を挙上する際、肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節が2:1の割合で動くリズムの事を指します。
例えば、肩関節が90°外転したときは、
肩甲上腕関節で60°外転し、肩甲胸郭関節が30°上方回旋する事で、90°外転位になるという感じですね。
ひとまず肩関節の動きは、肩甲上腕関節だけでなく、肩甲胸郭関節も重要になると覚えておけば大丈夫です。
臼蓋上腕リズム
関節窩に対して起こる、上腕骨頭の一定の動きを示します。
具体的には、こんな感じになります。
0°〜90°の挙上
回旋
90°〜180°の挙上
下方+後方すべり
180°〜90°の下制
上方+前方すべり
90°〜0° の下制
回旋
外転
下方+前方すべり
内転
上方+後方すべり
下垂位での外旋
前方すべり
下垂位での内旋
後方すべり
鎖骨
肩関節の運動となると、肩甲上腕関節付近の関節をイメージしがちですが、
実は鎖骨も、肩関節の動きにかなり関わります。
後ほど、詳しく説明するのでなんとなく覚えておいてください。
基礎知識は、これでおしまいです、
簡単にまとめると、
・3つの解剖学的関節と、3つの機能的関節がある
・「静的安定機構」と「動的安定機構」が関節の安定に関わる
・「肩甲上腕リズム」「臼蓋上腕リズム」「鎖骨」などが肩関節の運動に関与する
上肢下垂時の肩上方の痛みについて
まず、上肢下垂時には「どんな力学的ストレスが生じているのか?」を確認していきましょう。
上肢下垂位に、肩上方に加わる力学的ストレスは、「伸長ストレス」になります。
Q.どのような力学ストレスがかかるか?
✅ 伸長ストレス
上肢が下垂しているときには、肩上方には、常に上肢の重みにより伸長ストレスが加わっています。
特に、肩関節内転方向の運動では、
通常であれば、
肩甲上腕関節の上腕骨頭が、
「下方に下がり、上方に滑る」事で、肩上方への伸長ストレスを軽減させているのですが、
何らかの障害により、上方への滑りがなくなると、
肩上方への伸長ストレスを増加させてしまいます。
ストレスを確認できたら、次は「どこが痛いか?」を探していきましょう。
「上肢下垂時の伸長ストレスによる肩上方の痛み」に関係する部位は、「棘上筋・棘下筋」「肩甲上神経」が挙げられます。
Q.どこが痛いか?✅ 棘上筋・棘下筋
棘上筋・棘下筋の停止部は、上腕骨大結節稜で、肩上方となっているため、
これらの筋肉に伸長ストレスが加わる事で、痛みが誘発されます。
棘上筋や棘下筋が痛みの部位になっているかどうか、実際に評価していきましょう。
棘上筋・棘下筋の評価
①触診による評価
触診で棘上筋・棘下筋に痛みが出ているかどうか、筋緊張がどうか確認しましょう。
圧痛あったり、筋緊張が高い場合、痛みと関係している可能性を考える事ができます。
それぞれの起始停止は、こんな感じ。起始停止から走行をイメージして、触診を進めましょう。
【棘上筋】
起始:肩甲骨棘上窩
停止:上腕骨大結節稜の上小面
棘上筋の起始部は表層に僧帽筋中部線維が、
停止部は表層に三角筋が位置しているので、
体表から直接触れることは、難しくなっています。
そのため、起始部付近を触診するときは、肩甲骨を内転位にして、
僧帽筋中部の筋緊張をなるべく低下させて触診する、などの工夫が必要になるので覚えておきましょう。
【棘下筋】
起始:肩甲骨棘下窩
停止:上腕骨大結節稜の後小面
棘下筋の起始部は大部分が、表層にあるため比較的簡単に触診が可能です。
停止部は、三角筋深層に入り込むので触診は困難ですね。
覚えておきましょう。
②テストによる評価
棘上筋の疼痛誘発テスト
drop arm sign test
肢位:座位
評価手順:
①セラピストが、対象者の検査側肩関節を外転位まで多動的に移動させて保持する
②その状態を保持するように対象者に指示し、セラピストは手を離す
判定:外転位を保持できない、もしくは疼痛が生じた場合陽性
解釈:陽性の場合、棘上筋の損傷あるいは、筋力低下・張力低下が疑える
ポイント:
・三角筋の筋力が強いケースでは腕の下垂が生じない場合がある。
・感度が低い(0.14~0.35)ため、損傷していても陰性になる場合もある。
・特異度(0.78~0.88)は高いため、陽性の場合は棘上筋に異常がある可能性が高い
empty can test
肢位:座位
評価手順:
①検査側の上肢を「肩関節外転位・肘関節伸展位・前腕回内位」で保持させる
②セラピストは、前腕遠位部で肩関節内転方向に抵抗をかける
判定:外転位を保持できない、もしくは疼痛が生じた場合陽性
解釈:陽性の場合、棘上筋の損傷あるいは、筋力低下・張力低下が疑える
ポイント:
・三角筋の筋力が強いケースでは腕の下垂が生じない場合がある。
・感度は(0.32~0.89)ばらつきがるが、drop arm sign testよりは高い感度になっている
・前腕回内位にする事で、上腕二頭筋長頭腱による代償を押さえている
full can test
肢位:座位
評価手順:
①検査側の上肢を「肩関節外転位・肘関節伸展位・前腕回外位」で保持させる
②セラピストは、前腕遠位部で肩関節内転方向に抵抗をかける
判定:外転位を保持できない、もしくは疼痛が生じた場合陽性
解釈:陽性の場合、棘上筋の損傷あるいは、筋力低下・張力低下が疑える
ポイント:
・三角筋の筋力が強いケースでは腕の下垂が生じない場合がある。
・上腕二頭筋長頭腱によって代償できる為、empty can testと比べて痛みを抑えられる
・陽性の場合、上腕二頭筋長頭腱炎との鑑別も必要になる
棘下筋の疼痛誘発テスト
external rotation sign test
肢位:座位
評価手順:
肩関節下垂位で肘関節屈曲位を開始肢位とし、そこから肩関節外旋運動を他動的に行う
再び開始肢位から、肩関節外旋運動を自動運動で行う
判定:自動運動時に、他動運動の可動域まで動かせなければ陽性
解釈:棘下筋の損傷あるいは、筋力低下・張力低下が疑える
ポイント:
・特異度が高い(1.00)為、陽性の場合は棘下筋の異常を疑って良い
・感度は若干低い(0.70)為、異常があっても陰性になる可能性がある
・肩外旋に作用する筋肉は小円筋もあるが、棘下筋の方が外旋への貢献度が高い
これらのテストによって、棘上筋や棘下筋の痛みや異常が認められた場合、
棘上筋や棘下筋が「なぜ痛いのか?」を分析して行きます。
「伸長ストレスにより、なぜ棘上筋や棘下筋に痛みが生じているか?」を考えていくという事ですね。
そして、「棘上筋や棘下筋に痛みを生じさせる要因」は、大きく4つ考える事ができます。
Q.なぜ痛いか?
✅ 小円筋・肩甲下筋の筋力低下
棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋は、回旋筋腱板として上腕骨頭を、肩甲骨窩に引き付けるように働いて、
上肢を動かすときは、回旋筋腱板が関節の安定性を確保しながら運動をおこなっています。
この回旋筋腱板のうち、小円筋や肩甲下筋の筋力が弱い状態で、上肢の運動を行なっていると、
それらの筋力低下を補うように(代償として)、棘上筋・棘下筋は働きを強めます。
この代償が長く続くと、棘上筋・棘下筋が徐々に損傷してき、
そこに上肢下垂での伸長ストレスが加わる事で、痛みが誘発されます。
回旋筋腱板が筋力低下している状態は、上腕骨頭を肩甲骨窩に引き寄せる力が弱まっている状態なので、
上腕骨頭を求心位に保つ力が弱くなり、
伸長ストレスが、さらに増加するという悪循環も生まれてしまっています。
ちなみに、肩関節可動域の最終可動域では、静的安定化機構でもある上・下関節上靭帯の緊張により安定性を補強していますが、
日常生活動作で、メインで使われている中間可動域では、
回旋筋腱板によって、安定性を確保しなければいけなくなります。
特に、挙上した上肢をゆっくり下ろす時には、
棘上筋・棘下筋に遠心性の負荷が加わり、棘上筋・棘下筋に対してより強い負荷が加わることになります。
✴️ 「小円筋・肩甲下筋の筋力低下」が原因かどうか判断するためには、 MMTを使って評価して行きましょう。
また、回旋筋腱板は肩甲胸郭関節が安定していないと十分に力を発揮できないので、
同時にIST musclesもMMTを使って評価しておきましょう。
MMTで3以上あるかどうか、左右計測し、痛みのない側と比較して弱いかどうか確認できるといいですね。
🩺 評価によって腱板構成筋の筋力低下が認められた時には、
弱化している筋肉のトレーニングを行っていきましょう。
トレーニング方法はたくさんあるのですが、
簡単なところだと、MMTの操作方法をそのまま活用して訓練するのがオススメです。
MMT2⇨MMT3⇨MMT4・5と、負荷を上げながら訓練を行いましょう。
簡単にまとめると、
問題:上肢下垂位での肩上方に痛みがある
Q.どんな力学的ストレスが加わっているか?
伸長ストレス
Q.どこが痛いか?
棘上筋・棘下筋
Q.なぜ痛いか?
小円筋・肩甲下筋の筋力が低下している
介入案:
小円筋・肩甲下筋の筋力増強訓練を行う
✅ IST musclesの筋力低下
上肢の運動を行うときは、回旋筋腱板だけでなく、IST musclesによっても安定性が確保されています。
これだけ強靭に安定化が必要なのは、肩甲帯が身体にくっつくように位置しているからですね。
筋肉による補強がないと、重力で下に落ちてしまいます。
回旋筋腱板が肩甲上腕関節の安定性を確保していたのに対して、
IST musclesは、肩甲胸郭関節の安定化を確保しています。
肩甲胸郭関節は、上肢の運動をする際の土台として機能するので、
この土台がしっかりしていないと、その負担が回旋筋腱板などに加わります。
この状態で、上肢の運動を繰り返す事で、徐々に、回旋筋腱板が損傷していき、
そこに上肢下垂位での伸長ストレスが加わる事で、痛みが誘発されます。
ちなみに、回旋筋腱板は、小円筋や肩甲下筋も含まれますが、
棘上筋や棘下筋は、日常生活でよく行う動作で(棚からモノを下ろす、鞄を下ろす等)で、日頃から使われやすいので、
回旋筋腱板の中でも、特に棘上筋や棘下筋が損傷されやすくなります。
また、「僧帽筋上部繊維や前鋸筋下部繊維」などの筋力が低下していて、肩甲骨の下方回旋が生じていると、
棘上筋や棘下筋の距離が短い位置になります。
棘上筋や棘下筋の距離が短い位置にあるということは、
筋の静止張力が低下するという事につながります。
これは、棘上筋や棘下筋の担っている腱板の機能を低下させるという事で、
腱板は上腕骨を肩甲窩に引き寄せる働きを、弱めてしまうことになります。
これは、肩上方への伸長ストレスを増加させる要因にもなるので、注意しておきましょう。
✴️ IST musclesの筋力低下が原因かどうかの判断は、それぞれの筋肉のMMTを活用して評価を進めましょう。
MMTで3以上あるかどうか、左右計測し、痛みのない側と比較して弱いかどうか確認できるといいですね。
🩺 評価によってIST musclesの筋力低下が認められた時には、
弱化している筋肉のトレーニングを行っていきましょう。
トレーニング方法はたくさんあるのですが、
先程と同様に、MMTの操作方法をそのまま活用して訓練するのがオススメです。
MMT2⇨MMT3⇨MMT4・5と、負荷を上げながら訓練を行いましょう。
簡単にまとめると、
問題:上肢下垂位での肩上方に痛みがある
Q.どんな力学的ストレスが加わっているか?
伸長ストレス
Q.どこが痛いか?
棘上筋・棘下筋
Q.なぜ痛いか?
IST musclesの筋力が低下している
介入案:
IST musclesの筋力増強訓練を行う
✅ 静的安定化機構の機能低下
静的安定化機構の機能低下つまり、骨形状や靭帯による、肩甲上腕関節の安定化が測れていない場合、
動的安定機構によって、代償しようとするため、回旋筋腱板である「棘上筋や棘下筋」の筋活動が高まります。
この状態が長く続く事で、「棘上筋や棘下筋」が損傷され、そこに上肢下垂位での伸長ストレスが加わる事で痛みが誘発されます。
✴️ 静的安定化機構の機能低下が原因かどうかは、次の3種類の評価を使って行いましょう。
「前方不安感テスト」と「リロケーションテスト」
肢位:座位or背臥位で、「肩関節90°外転位・肩関節内外旋中間位・肘関節屈曲90°」
検査手順は、
①セラピストは片方の手で対象者の前腕を把持し、もう肩方の手は対象者の肩関節前面に置く
②他動運動にて、最大外旋位まで動かす(前方不安感テスト)
➡︎判定:脱臼の恐怖感の訴えが聞かれれば陽性
③肩関節前面に位置している手で前方から後方に圧迫を加えながら、他動運動にて最大外旋位まで動かす(リロケーションテスト)
➡︎判定:圧迫を加えることで恐怖感が低下したら陽性
【解釈】
・陽性で肩関節静的安定化機構の機能低下が考えられる
・特に中・前下関節上靭帯の緊張低下が疑える
「ロードアンドシフトテスト」
肢位:背臥位で「肩関節30°〜90°外転位」or 座位肩関節中間位で脱力した肢位
検査手順は、
①一方の手で上腕骨頭を、もう一方の手で肩甲骨と鎖骨を把持する
②上腕骨頭を前方に押し出す
➡︎判定:不安感の訴えが聞かれれば陽性
nomal:上腕骨頭の直径の0〜25%移動し、自然に整復される
gradeⅠ:上腕骨頭の直径の25〜50%移動し、自然に整復される
gradeⅡ:上腕骨頭の直径の50%以上移動するが、自然に整復される
gradeⅢ:完全に脱臼し、自然に整復されない
🩺 評価によって静的安定化機構の機能低下が認められた時には、
理学療法で静的安定化機構を回復させるのは難しく、
理学療法士がアプローチできることは限られてしまいます。
ひとまず、肩甲下筋や小円筋の筋力増強訓練を行うのが望ましいでしょう、
静的安定化機構の機能低下を、補うには動的安定化機構での代償が必要になります。
つまり、回旋腱板を鍛えることになるのですが、
今回は、棘上筋・棘下筋による代償が起きている状態なので、
肩甲下筋や小円筋を鍛える事で、負荷の分散を狙うのが良いでしょう。
簡単にまとめると、
問題:上肢下垂位での肩上方に痛みがある
Q.どんな力学的ストレスが加わっているか?
伸長ストレス
Q.どこが痛いか?
棘上筋・棘下筋
Q.なぜ痛いか?
静的安定化機構の機能が低下している
介入案:
小円筋・肩甲下筋の筋力増強訓練を行う
✅ 肩上方の軟部組織の拘縮
肩上方の軟部組織の拘縮が生じている場合、上腕骨頭の上方変異が生じることがあります。
この場合、肩関節を挙上する際の、上腕骨頭の下方への滑りが阻害され、
上腕骨の大結節が、肩峰の下方を通過できなくなります。
すると上肢の運動時に、肩峰の下方に存在している棘上筋や棘下筋を挟み込んでしまい(肩峰下インピンジメント)、棘上筋や棘下筋が損傷されます。
この損傷に、上肢下垂時の伸長ストレスが加わることで痛みが増強します。
✴️ 肩関節の軟部組織の拘縮が原因かどうかは、次の評価を行いましょう。
肩関節内転制限の検査
肩関節上方軟部組織の拘縮は肩関節内転の運動で著名に現れます。
肩関節上方には、多くの軟部組織が存在するため、
どの軟部組織が原因になっているか特定するためにも、
検査肢位を変えて、肩関節内転の評価を行なって行きます。
肢位:背臥位or座位
検査手順は、
①一方の手で対象者の検査側の肩甲骨を上方回旋位に保持する
②もう一方の手で対象者の肩関節を内旋位に誘導し、その後内転方向に他動的に動かす
➡︎判定:検測と比較して可動域が狭ければ陽性、参考可動域以下であれば陽性
③「①」に戻って対象者の肩関節を外旋位に誘導し、その後内転方向に他動的に動かす
【解釈】
・内旋位で内転制限があれば、後上方の軟部組織の拘縮が疑える
→後上方関節包、棘上筋、棘下筋横走部など
・外旋位で内転制限があれば、前上方の軟部組織拘縮が疑える
→前上方関節包、鳥口上腕靭帯、上関節上腕靭帯、肩甲下筋上部筋束、大胸筋鎖骨部など
🩺 評価によって肩関節の軟部組織の拘縮が認められた時には、
各関節包や筋肉のストレッチを行いましょう、
先程のテストにて内旋位で内転制限があった場合には、
「後上方関節包、棘上筋、棘下筋横走部」のストレッチ
先程のテストにて外旋位で内転制限があった場合には、
「前上方関節包、鳥口上腕靭帯、上関節上腕靭帯、肩甲下筋上部筋束、大胸筋鎖骨部」のストレッチ
簡単にまとめると、
問題:上肢下垂位での肩上方に痛みがある
Q.どんな力学的ストレスが加わっているか?
伸長ストレス
Q.どこが痛いか?
棘上筋・棘下筋
Q.なぜ痛いか?
肩関節の軟部組織の拘縮がある
介入案:
各関節包や筋肉のストレッチを行う
Q.どこが痛いか?✅ 肩甲上神経
肩甲上神経は、肩上方の知覚を支配するとされているので、
肩甲上神経に力学的ストレスが加わると、肩関節上方に関連痛を生じさせる可能性があります。
では早速、肩甲上神経が痛みに関連しているか調べていこうと思うのですが、
実は、肩甲上神経由来の痛みに関する、明らかな評価バッテリーはありません。
また、神経の関連痛になるため、痛みの部位も「この辺りかも...」と、明確に示すことが困難なケースも多いです。
そのため、肩甲上神経に由来する痛みを疑う場合は、
一番初めには疑わず、その他の要因でもない場合に考慮するのがいいです。
とは言っても、評価する方法を知りたい!という方もいると思うので、
その場合は、疼痛再現テストを行なってみましょう。
次の項で詳しく説明しますが、肩甲上神経は肩甲骨に固定されるように位置しています。
そのため、肩甲骨が動くと、肩甲上神経も一緒に移動します。
この解剖学的構造から、肩甲骨外転or肩甲骨下制の運動で、肩甲上神経に伸長ストレスを加えられる事が分かります。
この特徴を利用して、
肩甲骨を他動的に最大外転位にした時に痛みが再現されるかどうか?
肩甲骨を他動的に最大下制位にした時に痛みが再現されるかどうか?
確認してみましょう。
明確に示すことが難しい痛みが再現される場合、肩甲上神経が関与している可能性を考える事ができます。
では肩甲上神経が「なぜ痛いのか?なぜ痛みを誘発しているのか?」を分析して行きましょう。
肩甲上神経による痛みに関係している要因は、「IST muscleの筋力低下」が考えられます。
まずは、肩甲骨と肩甲上神経の解剖学的構造から説明して行きましょう。
肩甲上神経は、腕神経叢の上神経幹から分岐し「肩甲切痕部」で肩甲骨の腹側から背側に回り込みます。
その後、棘上窩を外側に向かって走行し、「棘窩切痕部」で走行を変え、
棘下筋へと分枝します。
このように、肩甲上神経は肩甲骨に絡むように配置されており、肩甲骨に固定されているとも言える構造になっています。
肩甲骨は、肩関節運動の基盤とも言え、
肩関節が動く時には、肩甲骨も位置を変えます。
特に肩関節水平内転を行うときは、肩甲骨は外転方向に移動し、
棘窩切痕部で、伸長ストレスが加わります。
また肩甲切痕部には、肩甲横靭帯が存在するため、
肩甲骨が下制した時も、肩甲上神経に伸長ストレスが加わります。
次にIST muscleがどう関係するか?という事なのですが、
IST muscleは肩甲胸郭関節の安定にかかわる筋肉として、肩甲骨のアライメントにも関わります。
ここで、肩甲骨を適切な位置の保持できず、外転位や下制位のアライメントになっていると、
肩甲下神経に伸長ストレスが加わり、関連痛を誘発させる事になります。
✴️ IST musclesの筋力低下が原因かどうかの判断は、それぞれの筋肉のMMTを活用して評価を進めましょう。
MMTで3以上あるかどうか、左右計測し、痛みのない側と比較して弱いかどうか確認できるといいですね。
🩺 評価によってIST musclesの筋力低下が認められた時には、
弱化している筋肉のトレーニングを行っていきましょう。
MMTの操作方法をそのまま活用して訓練するのが良いですね。
MMT2⇨MMT3⇨MMT4・5と、負荷を上げながら訓練を行いましょう。
簡単にまとめると、
問題:上肢下垂位での肩上方に痛みがある
Q.どんな力学的ストレスが加わっているか?
伸長ストレス
Q.どこが痛いか?
肩甲上神経
Q.なぜ痛いか?
IST musclesの筋力が低下している
介入案:
IST musclesの筋力増強訓練を行う
おわりに
動画を最後まで見てくださりありがとうございます。
今日説明した内容は、明日からにでもすぐに使えるはずです。
また、知識を使って介入を行い、結果を出せる事で、
仕事も臨床もどんどん楽しくなっていくはずです。
勉強は、最初のうちは楽しくないかもしれませんが、
結果を出していくにつれて、その楽しさに気づける瞬間はきっときます。
りはメモでは、今後もあなたの役に立つ情報を発信していくので、
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