股関節の頚体角はなぜあるのか?
はじめに
「股関節の頚体角は成人で125°」
理学療法士なら国家試験レベルのこの知識。
みなさん、何で125°なのか考えたことありますか?
これ実はものすごく理にかなった角度なのです。
今日は股関節において、なくてはならない「頚体角」について。
頚体角は生まれたとき何度?
頚体角(angle of inclination)とは、
「前額面での大腿骨頸部と大腿骨体内側のなす角」のことです。
実はこれ、生まれたときは140~150°。
これがそのままならば、完全に外反股ですね。
ちなみに外反股とは、「頚体角125°以上のこと」をいいます。
これが、成長過程と共に歩行等によって大腿骨頸部へ負荷がかかり、
正常な成人では約125°へと減少します。
要するに、成長と共に荷重がかかり変化していくということです。
でもなぜ125°なのか…??
それよりも「大きい角度である=外反股」と
「小さい角度である=内反股」にわけて考えていきたいと思います。
外反股とは…
まずは「頚体角の大きい=外反股」について。
外反股(coxa valgadeformity)または外反変形は、
頚体角が125°を上回るため大腿骨頸部が寛骨臼の「より上方」へ向きます。
そのため、外反股における大腿骨への関節反力は、
頸部に対して平行となります。
関節反力が平行とは、
「大腿骨頸部により大きな圧縮応力を与えるが、剪断力はほとんど与えない」ということになります。
関節反力が平行なことにより、
→外反股における大腿骨頸部の海綿骨が、
正常なアライメントの大腿骨にみられる内外側を交差する線維束よりも、
頸部に対して平行に配列されるようになる(ウォルフの法則)のです。
ウォルフの法則とは…
⇒海綿骨は応力線に沿って集中する傾向があるため、異常な力を長時間受けると、
全般的な骨梁ネットワークのパターンが変化する傾向があるのです。
一般的に、海綿骨は応力線に沿って集中する傾向にあり、骨梁ネットワークを形成します(内側骨梁ネットワークや弓状骨梁ネットワーク等)。
しかし、外反股による異常な関節反力によって、骨梁ネットワークが変化するということです。
また外反股では、股関節中心と転子部間の垂直な距離が減少し、
そのモーメントアームの減少は股関節外転筋に不利な状態をもたらします。
股関節外転筋群は股関節を支えるよりも大きな収縮力を必要とされ、
その結果として関節反力が増大。
この関節反力は寛骨の外側へ変位し、より小さな関節面に集中します。
ということは結果として、外反股は骨頭にかかる応力と同様に関節反力を増大させるため、股関節の退行性変化(=変股症)の危険性を増加させることが考えられるということです。
内反股とは…
逆に今度は、正常よりも「頚体角の小さい=内反股」について。
内反股(coxa vara deformity)とは、
大腿骨の骨体と頸部のなす角度が減少したものです。
なす角度が減少した分、頸部への「曲げのモーメント」が増大されます。
「曲げのモーメント」とは…「荷重を支えるモーメント」のこと。
正常股関節において、直立位では正常な近位大腿骨における関節反力は
大腿骨頸部より鉛直に向いているため、
大腿骨の骨頭と頸部の間には「曲げのモーメント」が産生されます。
この曲げのモーメントは、大腿骨頸部の上方の張力と頸部の下方の圧縮力を
つくり出しています。
上方から下方へと広範囲に位置する大腿骨頸部は、
荷重を支える曲げのモーメントに抗することが可能であるといわれています。
増加した曲げのモーメントにより、大腿骨頸部内側への圧縮力と外側への張力が増加するため、内・外側の骨小柱の配列も増加します。
加えて、大転子と関節中心の距離が長くなり、
股関節外転のモーメントアームを実質的に長くします。
このことにより、股関節外転筋群が力学的に有利となり、
立脚期に必要とされる力は減少するため、関節反力は減少します。
これだけ聞くと内反股って力学的に有利だから良いじゃないかと思うかもしれませんが、
やはりデメリットもあります。
内反股では大腿骨を臼蓋にひきつける力が増加する傾向にあり、
臼蓋を摩耗させる可能性があると言われています。
また、外転筋力の増加は、拮抗筋の疲労をもたらす可能性もあるのです。
また大腿骨頸部の曲げモーメントの増加に伴って、
曲げモーメントの関節反力が増大することも考えられます。
その他、Carpinteroらは、内反股が大腿骨頸部の疲労骨折の危険因子であることを示唆しています。
これらを総合的にみると、やはり内反股にもリスクがあるということがわかります。
まとめ
結局のところ、頚体角125°の正常なアライメントは、体重負荷に伴う
股関節への負の要因を最小にしているということがわかります。
絶妙な匙加減で125°になっているんです。
人間の身体ってよくできてますね。
理にかなって125°になっているということを知ると、
ただただ「頚体角は125°」と覚えるのとは全く違った見方ができます。
また、レントゲンを診るときはこんなところにも注目する必要があるということがわかりますし、もし外反股や内反股の方を担当する機会があれば、力学的負担や考慮すべき動き等を考える必要があるので、注意して施術していきたいですね。