小児の理学療法で運動よりも優先して考えたいこと
私は普段、訪問看護ステーションに勤務しております。
多くは成人・高齢者に対して理学療法を提供しておりますが、小児の方に関わらせていただく機会もあります。
今回は、小児に対して理学療法を行う際に私自身が気を付けていること、成人を対象にした場合と大きく異なることについて書いていきたいと思います。
先に結論を言ってしまうと、小児に対しての理学療法では小さな「できた」を積み重ねて「やってみたい」を引き出すことが大切だと考えています。
今回の記事を読むと、
✅️小児と成人に対する理学療法の違いがわかる
✅️小児における小さな「できた」の積み重ねの重要性がわかる
✅️運動や動作にばかり目を向けてしまう理学療法から脱却できる
小児を対象とした理学療法の難しさ
理学療法士をしていて、小児を対象とした理学療法を行う機会は全体として見たときに少ないのではないかと思います。
病気やケガからの回復を図ることを『リハビリテーション』と言うのに対し、小児の場合は『ハビリテーション』と言ったりもします。
リハビリテーションはRe+habilitationであり、「Re=もう一度」ハビリテーションを行うということです。
ハビリテーションは、発達していくこと自体や、発達を促す治療的な関わりのことを指します。
つまり、ハビリテーションの一部として行われる理学療法は、先天性の疾患を持つ方や、後天的に幼児期に障害を負った方に対して、その発達を促すために行われるものと考えられます。
このような小児を対象とした理学療法では、成人に対する理学療法とは大きくことなることがあります。
その一つ、最も大きなものが、一度もできたことがないことの獲得を目指すというものです。
成人の場合、一度獲得した動作や活動ができなくなり、その再獲得を目指します。
そのため、再獲得すべき動作や活動がイメージしやすく、一度経験しているからこそ動作方法の変更や修正も可能となります。
一方、特に先天的な疾患を持つ方の場合であれば、一度も経験したことのない動作の獲得を目指すことになります。
これはご本人にとってとても難しいことではないでしょうか。
それまでやったこともなく、どうやるのかもわからないことをやるように促されるのですから。
「できない」が積み重なると「やってみよう」がなくなる
子育てをしていて実感するのですが、子どもは「やってみよう」の塊です。
誰が何を言ったり促したりするでもなく、自分で勝手に試行錯誤して、毎日毎日「やってみよう」を繰り返します。
その中で失敗を繰り返しながら、昨日まではできなかったことが、今日できるようになっていたりします。
これが子どもの成長もしくは発達だと考えています。
では、先天的な疾患を持っている方であったり、小児期、特に小さなときに障害を負ってしまった方は、どのような経験をしているのでしょうか。
恐らく、初めの頃は「やってみよう」があるのではないかと思います。(これはただの想像ですが)
しかし、様々な疾患が邪魔をして、「やってみよう」が「できない」の連続になってしまうことが容易に想像できます。
それは外から見ると何もしていないように見えるくらいの小さな「やってみよう」かもしれませんが、本人にとっては大きな挫折のはずです。
先天性の疾患を負った方は、産まれた瞬間からこの挫折を繰り返すことになります。
もちろん、「やってみよう」が「できた」となる経験もあるとは思います。
ただ、「できた」と「できない」の割合として「できない」が多くなってくると、「できた」に固執してしまうのではないでしょうか。
大人だってそうです。挑戦して失敗ばかり繰り返すと、鋼の精神力を持っていなければ「何をしたって無駄だ」となってしまいます。
こういう状態を『自己効力感の低下』とか『学習性無力感』と呼んだりするのだと思います。
つまり、理学療法士の関わりを必要とするような小児の方は、「できない」を積み重ねた結果「やってみよう」がなくなってしまった状態だと考えられるのです。
小さな「できた」を積み重ねる理学療法
小児に対する理学療法を行っていると、親御さんとのコミュニケーションが大切になります。
そんな中でよく言われるのが、「できること、良いところに気付いてもらってありがとうございます」という言葉です。
さらに、「できないことばかりが目に付いてしまいます」と続きます。
自分の子どもというのは、自分から非常に近い存在です。
自分に対してもそうですが、自分から近い存在に対しては、できることよりもできないことに目が向いてしまいがちですよね。
恐らく、子どもさん本人もそれを敏感に感じ取っているのではないでしょうか。
そうなると、自分のできる範囲の世界に閉じこもってしまい、新しい挑戦なんかしたくなくなりますよね。
「できない」の経験ばかりが強化され、「やってみよう」どころか「やりたくない」になっていく悪循環です。
そんな中で理学療法士が関わる価値はどこにあるのでしょうか。
冒頭でも書いたように、小さな「できた」を積み重ねて「やってみたい」を引き出すことだと考えています。
小さな「できた」とは、本当に小さなことです。
例えば、
向かい合う大人(理学療法士)と目が合ったこと。
随意・不随意に関わらず、何かに手が触れたこと。
おもちゃに手を伸ばせたこと。
見ているおもちゃと掴んだおもちゃが一致したこと。
意味を成す言葉じゃなくても、何か発声できたこと。
これくらい閾値を下げると、褒めるべき「できた」はたくさんあります。
理学療法としての感覚からすると抽象的なことを言っているようにも思いますが、このような「できた」の積み重ねこそが次の「やってみよう」に繋がるのではないかと考えます。
そして、これこそが理学療法士が関わる中で最も意味のある関わりなのではないかと思うのです。
まとめ
今回は、子育てとはちょっと違う内容でしたが、子どもの発達という意味で小児に対する理学療法について書いてきました。
先天性の疾患や幼児期に負った障害によって、「できない」を積み重ねてしまうと、「やってみよう」がなくなってしまいます。
その結果、自分の「できる」だけで作り出せる世界に閉じこもってしまうことになると考えられます。
理学療法士が関わる中では、普通の感覚では気付けないような小さな「できた」に気付いて大袈裟なくらい褒めてあげる、本人にとっても「できた」だと思えないような小さなことを「できた」経験に変えてあげるということを繰り返すべきだと考えています。
小児に対する理学療法では、運動や動作の獲得よりも、このような根本的な部分への関わりが大切なのではないでしょうか。