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肩峰下滑液包-滑走障害に対する治療戦略-

皆さんこんにちは桑原です。

Instagram→@kei_6918

今日は肩峰下滑液包について基礎から臨床での介入をまとめていきたいと思います。

それではよろしくお願い致します。

1)肩峰下滑液包の臨床的意義

まず、基礎的な滑液包の機能から確認していきましょう。

滑液包は、動作中に軟部組織を保護するための関節外要素の1つであり、関節や軟部組織と骨の間の動作を円滑にする作用があります[1]

肩峰下滑液包の機能も復習しておきましょう↓

肩峰下滑液包(Subacromial bursa)は烏口肩峰アーチと腱板の間に介在し、肩関節運動に伴う棘上筋・棘下筋前縁の滑動を効率化しています[2]


機能はこんな感じです。

厚さは約0.75mmでインピンジメントなどの有症状で肥厚しても1.27mm程度[3]でとても薄い構造です。

SABは想像するよりずっと薄いですね。

エコーなどで動態を見るとするする動いてるのが観察出来ます。

すじこの膜が二重構造になって滑ってる感じです。

そしてこの肩峰下滑液包ですが

広義では、三角筋下滑液包烏口下滑液包も含めて「広義の肩峰下滑液包」と捉えます。

これは人体最大の滑液包と報告されています。

近隣の滑液包との関係ですが

肩峰下滑液包(狭義)と三角筋下滑液包は約80%で交通していると言われています。

これは肩峰下滑液包の内圧が上昇した際に、近隣の滑液包へ圧を逃し内圧の調整に機能していると考えられています。

ですので、ここの交通部の閉塞などがあると圧変化が起こらず、内圧が上昇し疼痛や可動域制限の原因になったりします。

そしてこの近隣の烏口下滑液包ですが

解剖した方から、肉眼では観察しにくいと聞いたことがあります。

内容量も極少量の滑液しか存在しない為MRIでの同定は難しいとされています[4]

烏口下滑液包は内圧の調整というより烏口腕筋-上腕二頭筋短頭の共同腱と肩甲下筋の摩擦の軽減の方が臨床的に意義がありそうな気がします。

こんな感じで近隣の滑液包とも協調的に機能していると考えられています。


2)肩峰下滑液包炎の病態・組織病変

続いて肩峰下滑液包炎の病態

そのとき滑液包で起こる組織病変を確認していきましょう。

まず滑液包ですが

滑液包は、異常な滑液貯留、滑膜肥厚、あるいは双方による腫脹が原因となる過程によって病態が引き起こされる[2]とされています。

またSABの組織病変については

肩関節痛のある被検者の肩峰下滑液包造影では肥厚やそれに伴う内容量の減少、上下壁を連結する索状物形成などが確認されています[5]

この様な変性が炎症後に起こるとSABの滑走性が低下し、可動域が著しく制限されます。

また、自由神経終末も豊富なので疼痛も強くでる印象です。

3)肩峰下滑液包の評価

病態を確認したら次は評価です。

肩峰下滑液包(肩峰下滑液包炎)の症状として肩関節外側部痛は臨床でよく経験します。またpainful arc signやNeer Howkins testでも疼痛が生じやすいです。

肩峰下滑液包は3つの末梢神経に支配される為(外側胸筋神経、肩甲上神経、腋窩神経)これらの知覚領域に症状が出るケースがあります。特に腋窩神経領域(肩関節外側)は多く経験します。

なので

肩関節外側に疼痛がありQLS・三角筋の圧痛所見がない場合かつ

Neer test、Howkins testが陽性であればSAB由来の可能性は高いと考えられます。

また、これらの所見に加えて、ドクターがSABにロカインなどの局所麻酔薬などを注射後、症状が改善されればSABが原因の可能性が高いと判断できます(機能的診断)

また、先ほど述べた3つの末梢神経もSABを支配し、SABで炎症を起こすとこれらの支配筋に防御性収縮が見られたりもします。

また、SABと腱板との癒着がみられると内転制限や内外旋制限も起こります。

下方の関節包の拘縮があると

→挙上時に骨頭に許容するスペース減少
→骨頭上方偏位の要因となる
→SABへの機械的ストレス

こういった感じで可動域制限も所見としてヒントになります。


4)肩峰下滑液包の滑走障害に対する介入

では肩峰下滑液包への介入をどうするかです。

ハイドリリース※では即時的な効果も見込めるかと思いますが、患者さんが希望しない場合や、徒手操作で改善可能なものは侵襲せずに済んだほうが良いです。

※ハイドロリリースとはエコーガイド下でSAB内に針先を進めて局所麻酔薬と生理食潜水を注入し組織間を液性に剥離するものです。

肩峰下でのSABの滑走性の改善を目的とした徒手操作を下記に載せていきます。

仰臥位で他動的に
肩関節内転+外旋+肩甲骨下方回旋
肩関節内転+内旋+肩甲骨下方回旋
肩甲骨下方回旋は骨頭を上方に突き上げることによって相対的に下方回旋させる

この操作で肩峰下から大結節を引き出しSABの滑走性を引き出していきます。
※解剖学的な位置関係と組織の特性から解釈したものです。

以下、前上方の伸長操作です。
外旋の操作を内旋に置き換えることで後上方の伸長操作(SABの骨頭運動軸より後方の滑走訓練)となります↓↓


今日は以上になります。

複合的な徒手操作は難しいので、骨頭運動軸を中心に捉えて上前方・後方を狙うイメージで行うと良いかと思います。エコーがある施設であれば是非、動態を確認しながら操作を練習してみてもらえたらと思います。

それではまた。

Reference

[1]Kumaki Tsukasa.Understanding and Treating Soft-tissue Injuries:Emerging Rehabilitation Concepts for Clinical Practice.MEDICAL VIEW.2021.416.

[2]Hayashi T, Asanuma A, et al. The Orthopaedic Therapeutic Exercise  Navigation Based on the joint Functional Anatomy-The Upper Extremity & Trunk, 2nd edition.medical view.2014.58.

[3]Tsai YH, Huang TJ, Hsu WH, Huang KC, Li YY, Peng KT, Hsu RW. Detection of subacromial bursa thickening by sonography in shoulder impingement syndrome. Chang Gung Med J. 2007 Mar-Apr;30(2):135-41. PMID: 17596002.

[4]泉純一, et al. MR arthrography における烏口下滑液包の画像所見とその臨床的意義. 日本医学放射線学会雑誌, 2002, 62.12: 690-694.

[5]安楽岩嗣. 肩峰下滑液包造影および肩峰下滑液包鏡視による有痛性肩関節疾患の病因, 病態の研究. 日本リウマチ・関節外科学会雑誌, 1990, 9.2: 211-226.

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