翼状肩甲(winging scapula)の機能解剖学
おはようございます桑原です。
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本日は翼状肩甲(winging scapula)についてまとめていきたいと思います。
こんな方におすすめです↓
1)翼状肩甲(winging scapula)とは
翼状肩甲とは立位で壁に手を当てて両腕で壁を押す様に指示した時に健側と比較して過度に下方回旋していたり、肩甲骨内側縁が浮き上がるような現象です。
長胸神経麻痺や副神経麻痺によって前鋸筋や僧帽筋の機能不全が起こることが原因になります。
この肩甲骨の状態が鳥が羽ばたく時に似ているため翼状肩甲と呼びます。
2)翼状肩甲と臨床
ところで皆さん臨床で翼状肩甲の症例を担当したことはあるでしょうか?施設にもよるかと思いますが、個人的にかなり少ない印象です。
学生時代、国家試験で翼状肩甲=長胸神経麻痺・副神経麻痺と鉄板問題でした。
もう少し経験するかと思っていたら今年で臨床5年目の僕ですが、未だ遭遇していません。
先輩PTの方々に聞いても片手で数えれる程度の方が多く、臨床でのギャプを感じています。
しかし、この翼状肩甲(長胸神経麻痺・副神経麻痺)のメカニズムをしっかり学ぶことで肩甲骨の動態イメージがより鮮明になるかと思います。それと今後、翼状肩甲の症例を担当した時にこの記事が役に立つかと思いますので、この機会に読んでいただけると嬉しいです。
3)長胸神経麻痺のメカニズム
長胸神経は鎖骨の下を通過後、腋窩の前方へと伸びて前鋸筋を支配します。
リュックを背負う時、肩紐がここに食い込むと圧迫ストレスとなりこのストレスが強いと神経障害が起こります。
この為、別名「リュックサック症候群」などと呼ばれます。
また乳がんの術後などにも起こることがある様です。
起始停止を再確認しましょう↓
前方から肩甲骨の内側縁を肋骨に引き付ける働きがあります。
特に下部線維は肋骨の傾斜もあり上方回旋・後傾に作用します。
反対に上部線維は下方回旋・前傾に作用します。
全体として肩甲骨外旋・外転・上方回旋に作用します。
そして前鋸筋の走行は矢状面上の走行なので、外転より屈曲に機能します。
この為、長胸神経麻痺の患者さんは屈曲は顕著に破綻しますが、外転時には僧帽筋を使い脊柱に肩甲骨を固定しながらシュラッグし、体幹を側屈させながら代償をします。
この屈曲は破綻しつつも外転は代償により可能なのが長胸神経麻痺の特徴であり重要なポイントです。
4)副神経麻痺のメカニズム
副神経は僧帽筋と胸鎖乳突筋を支配します。
そして副神経麻痺も臨床で経験することは少ないと思います。
麻痺に至るメカニズムですが頭頚部に発生した癌の摘出手術で起こることが大部分と言われています。
頚部リンパ節の郭清術の際に副神経を保存する場合もあれば切除することもあるそうです。
温存した場合でも術後一定期間神経症状が起こるケースがあります。
なので、副神経麻痺を担当する際は経緯や背景の理解がとても大切になります。
翼状肩甲時には胸鎖乳突筋より僧帽筋の方が関与しますので僧帽筋を中心にまとめます。
起始停止の確認です↓
僧帽筋
起始:後頭骨の上項線内側3分の1、外後頭隆起、項靭帯、C7〜Th12
停止:鎖骨外側3分の1、肩峰、肩甲棘
上部線維は肩甲骨挙上
中部線維は肩甲骨内転
下部線維は肩甲骨下制
に働きますが全体として肩甲を脊柱に固定(内転・外旋)させて上方回旋させます。
前鋸筋は肩甲骨を引き付ける機能ですが僧帽筋は押さえ付けるイメージです。
走行は前額面上の走行なので、長胸神経麻痺(前鋸筋)とは反対に外転は顕著に破綻しますが屈曲はそれなりに可能なのがポイントです。
5)長胸神経麻痺と副神経麻痺の違い
以上を踏まえて長胸神経麻痺と副神経麻痺の違いをまとめます。
臨床で経験することは少ないかもしれませんが、肩甲胸郭関節の介入時のヒントや今後、翼状肩甲の症例を担当する際にのこの記事が役に立てば幸いです。
桑原啓太