肩甲上腕リズム-臨床応用を考える-
皆さんこんにちは桑原です。
Instagram→@kei_6918
今日は肩甲上腕リズム(scapulo-humeral rhythm )についてまとめていきたいと思います。
上腕骨に対して肩甲骨の動きは2:1と学生時代習いましたが実際はどうなのか?
臨床ではどの様に落とし込んでいけばよいのか?
そういった部分をまとめていきます。
こんな方にこのnoteはおすすめです↓
1)肩甲上腕リズムとは
遡ること88年前の1934年にcodmanにより肩甲上腕リズムが報告されています[1]
上肢挙上に付随して肩甲骨が回旋する連動現象のことを肩甲上腕リズム(scapulo-humeral rhythm )と名付けました。
その後、1944年Inman[2]やFreeman[3]によってこのリズムの研究がされました。
Inman[2]は上腕骨の動きに対する肩甲骨の動きが 2:1という一定の割合いで動いていることを報告しました。
よくSNSの投稿で2:1の割合で動くことを肩甲上腕リズムと投稿している方が見受けられますがあれは間違いです。
「上肢挙上に付随して肩甲骨が回旋する連動現象」
これを肩甲上腕リズムとよびます。
2:1はその後、研究された内容です。
そして諸家により肩甲上腕リズムに関する研究・報告が成されてきましたが Inman が報告した 2:1が通説とされてきました。
しかし、近年ではこの一定して2:1という報告に対して否定的な報告も見られます[4]
挙上時の位相や外的負荷によって変化する報告[5]や上肢挙上スピード[4]、前腕回内外、疼痛[6]などといったパラメーターの変化によっても割合は変化するとされています。
これらの報告は、肩甲上腕リズムの比率が単純な直線的な2:1であるという歴史的な仮定が過度に単純化され、様々な動的条件下での肩甲上腕リズムを正確に表現していない可能性を示唆しています。
「2:1で動く」ここで認識が止まっている方は思考のアップデートが必要です。
2)解釈・質の高い評価へ
これらの報告から解釈としては
様々なパラメーターの影響によって肩甲上腕リズムは変化し、また割合も一定では無いことがわかります。
では、肩甲上腕リズムを臨床で応用する際、どう落とし込むかがポイントになります。
実際、僕は臨床ではGHかSTかを判別する際に
肩甲骨補助テスト(SAT:Scapular assistance test)などでスクリーニンングしてしまうことが多かった現状です。
※SATが気になる方はこちらの記事で詳しくまとめています。
もちろん屈曲や外転のROMも評価しますし、違和感を感じた時にはそのポイントを評価しますが、肩甲上腕リズムの観点からの解釈が浅かったと思っています。
臨床で肩甲上腕リズムを落とし込むとしたら、屈曲・外転ROM評価時の肩甲骨の位相ごとの動態を正確に認識し比較することで、問題点の抽出など質の高い評価に繋がると考えています。
3)肩甲上腕リズムを臨床でに落とし込む
評価としては左右差の確認からです。違和感を感じたら肩甲骨の上角・肩甲棘・下角あたりをランドマークとして左右差やフェーズごとに肩甲骨の動きを評価します。
例)肩関節外転時を肩甲上腕リズムの観点から紐解く
肩関節外転時の角度ごとの肩甲骨の動態を確認すると
60~90°あたりで肩甲骨下制・内転していることがわかります。
そして90~120°でGHに比較して肩甲骨が主に動き、その後2:1で動くとされています。
この動態でを見たときにぱっと思い浮かぶのは僧帽筋下部線維の作用です。
肩甲骨の下制・内転に働き120°あたりが一番出力が高いという報告もあります。
なので円背で胸椎が後弯している方は肩甲骨が外転・挙上方向に入りやすく僧帽筋下部線維は機能しづらいことも想像できます。
となると肩甲上腕リズムも崩れます。
60°〜120°あたりで痛みが出やすい方も多くいるのも頷けますね。
なのでアライメントやどの角度で症状がでるかも大切な指標になります。
介入は肩関節屈曲動作を介助しながら90°あたりから胸を張りながら胸椎伸展(肩甲骨内転+下制)を促して、僧帽筋下部のラインにそって指で収縮を学習させると反応が良い印象です。
例)shoulder shrug sign(肩すくめ徴候)を肩甲上腕リズムの観点から紐解く
肩甲上腕リズムの破綻している例としてよく挙げられるのは、shoulder shrug sign(肩すくめ徴候)が有名かと思います。あれは僧帽筋上部が過剰収縮し、僧帽筋下部が機能不全になり挙上時に肩をすぼめる様な姿勢になります。当然この様な状態でも肩甲骨の上方回旋が起こりにくいので肩甲上腕リズムは崩れやすくなります。
4)まとめ
References
[1] Codman, E. A. : The shoulder. T. Todd Co., Boston, 32 -64, 1934.
[2] Inman, V. T. et al. : Observation on the function of the shoulder joint. J. Bone Joint Surg., 26 : 1-30, 1944.
[3] Freeman, L. and Munro, R. : Abduction of the arm in the scapular plane ; Scapular and glenohumeral movement. J. Bone Joint Surg., 48- A : 1503- 1510, 1966.
[4] Sugamoto K, Harada T, Machida A, Inui H, Miyamoto T, Takeuchi E, Yoshikawa H, Ochi T. Scapulohumeral rhythm: relationship between motion velocity and rhythm. Clin Orthop Relat Res. 2002 Aug;(401):119-24. doi: 10.1097/00003086-200208000-00014. PMID: 12151888.
[5] McQuade KJ, Smidt GL. Dynamic scapulohumeral rhythm: the effects of external resistance during elevation of the arm in the scapular plane. J Orthop Sports Phys Ther. 1998 Feb;27(2):125-33. doi: 10.2519/jospt.1998.27.2.125. PMID: 9475136.
[6] Hallström E, Kärrholm J. Shoulder rhythm in patients with impingement and in controls: dynamic RSA during active and passive abduction. Acta Orthop. 2009 Aug;80(4):456-64. doi: 10.3109/17453670903153543. PMID: 19857179; PMCID: PMC2823181.