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①あなたはエロ本屋で働いたことがありますか?わたしはあります-序章-
あなたは、好奇心だけで自分の進路を決めたことがあるだろうか?
わたしはある。物書きになりたいなら面白い体験をしなければならない、それぐらいの軽い気持ちで。新卒の女の子がアダルト系出版社に。
当時は就職氷河期で、周りの人たちが数十社受けたり、将来を見越してIT関連企業に就職したりする中、やる気もやりたいこともなく、わたしはのろのろと地元へ強制送還コースを邁進していた。
そんな時、同じクラスの子に「ひとみちゃん本好きなら、(飲み)友達の会社で事務の女の子探してるよ?ただしエロ本だけど」と言われ、いちもにもなく飛びついた。
わたしが通っていた大学のレベルで(今はFランっていうんだってね!)、わたしが知っている出版社に入ることは無理だった。
「出版社に入りたい」のだったらやりようはいくらでもあるだろうに、きっとそうでもなかったんだろうね。底辺でもいい、興味のあることに楽して関わりたい。
やりたいことはわからない、プライドだけは高い、東京に居たいだけの20代前半の女の子の前にふわっと提示された機会のヒモをつかんでしまった私に、「今の私」が声をかけられるなら、やめさせるだろうか。やめさせると思う。
世の中にはしなくていい経験がたくさんある。ということを知る、おろかな思い出を世の女子は反面教師としてきいてほしい。興味本位でもいい。
※わたしは営業部で働いていて、編集部で本を作っていたわけではないのでセクシーな話はほとんどないです。すべて仮名。ノンフィクションをベースにしたフィクション、かもしれない。何十年も前のおはなし。
始まり
アルバイト感覚でニコニコのおっさん達(会社に20代の女性が入るのは初めて)の面接を通過して、わたしは中小企業の営業事務として働き始めた。エロ本以外の本も扱ってるし、上役の人は「いつかはアダルトから脱却して普通の出版社になるから。」(大嘘)って言ってるし!ここに骨をうずめるわけではないからいいじゃん。
初めて可愛くないエロ本(ハード)を見た。
その会社がどんな本を扱っていたかというと、外注で趣味の本は扱いが確かに少量あったが、自社編集のエロ本は一般女性が想像するものではなかった。
エロ本というより、解剖学書に近かった。可愛い人も、スタイルのいい人も載っていない。笑顔もなく、ただただ普通の少女たちが暗い紙面の中で内臓を開くようにからだを置いていた。
過激さを売りにしているから(ブスを売りにしているとも言っていた)、そのへんにいそうな女性が選ばれていた。サブカルでもなんでもない。欲望だけが、ぽつん。面白なさ過ぎて、拒否反応さえなかった。
わたしの仕事
まず与えられた仕事は溜まりにたまった過去数年分の領収書の仕分け、電話取り、お茶くみ、雑務である。
この最初の3~6カ月間は楽しかった。生き生きと働いていたといっても過言ではない。
まず、生来の生真面目さからわたしは書類整理が好きであった。適当に輪ゴムでバッサバサに段ボールに積み込まれたレシート、領収書を年月ごとにわけ、学習ノートに規則正しく貼り付けていく。結果が目に見えて楽しい。
受電、恐怖
電話を受けるのはバイトで経験済みだったのでできたが、最後まで苦手、というか怖かった。一般人の、「修正なしの写真がどうしても欲しい」とかいう電話やおばさんから金切声で「そんな本を売るのはおやめなさい!!」という電話は驚くけれど怖くはなかった。てゆうかなんでおばさん、エロ本屋の電話番号知ってるの?
怖いのは取引先の人々だった。皆、私がいないもののように話していて、女性蔑視を電話で一番感じたかもしれない。まず、皆あいさつをしない。要件を一方的に伝えてきて通らなければ(電話相手が離席、希望のものの在庫なしなど)怒るか、一方的に切られた。
「○○だけど、社長いる?いないの?なんでいないの?」ガッチャン。
男性が対応した場合は別人のように感じよく会話が進められていたので、この理不尽はわたしのおなかにずっといた。かたまりは日々黒く、おおきくなっていった。周りはきづいてもいないので誰にも言えなかった。反論したりしたらスルースキルがないわたしの力量不足とさえ思われた。今初めて言ったかもしれない。というか書いていて電話が怖かったことを今初めて認めたかもしれない。そういう時代であり、底辺の人たちの集まりだった。もちろん、私含む。辞職した時の理由の一つでもあった。
目下女子は無視するぞ!気概メンズ
一度、決してあいさつしない銀行マンにこちらもあいさつしないでみたことがある。びっくりしていたので、こちらがびっくりした。それは想定してないのね。
来社した時も、来客カウンターに一番近い私にけっして目をあわせなかったので筋金入りである。わたしと目が合ったら死ぬ病気なんだね。わたしにもちろん気づいている。絶対に目を合わせないという気概さえかんじる。それって、すっごく疲れると思うんですけど。あいさつ、っていうか会話したほうが省エネだよ?
というわけで、気概メンズ文化にはほとほと疲弊した。気概レディースは一人もいなかったので、メンズ特有の文化かとおもわれる。。
ちなみに気概メンズは令和の時代にもかなり生存が確認されています。
いけない、気概に気をとられすぎちゃった。
お茶くみ、コーヒー作りは単に作業として好きだった。椅子から立って腰を伸ばせるし、OLコスプレの気持ちになれた。(私はOLにあこがれている。今もなお。)
商品の発送作業も工作好きだから好き。数千万円の手形を専用のタイプライターみたいな機械で作るなんて、子供のレジ遊びみたいで最高に楽しかった。
伝票整理なんておかしくておかしくて。ここでは記せないけど、本のタイトルが全体的にイカレテルから、それを大真面目に言ったり書いたりするのが面白かった。最初は。
でも、面白かったのは最初だけ。わたしはどんどんすりきれて、ずっと怒りを溜め込むただのからっぽの物体になるまでそう時間はかからなかった。
その②につづきます