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【短小説】ワイングラス



君は赤、俺は白……。


男は煙草に火を付けた

「ねぇ、大丈夫?」女は言った。

男の背中から手を回す女…汗ばんだ体に身を寄せ合う2人。

「ああ……、すまないがワイングラスを取ってくれないか…」

「……あら、めずらしいのね…あなたがワインを飲むなんて…」

「別にいいじゃないか…シャンパンなんて僕らには合わない…」

「こういう夜にはワインの方がいい…」

女はベッドサイドテーブルにワイングラスを置いた。

「あら、こういう夜って、どういうのを言うの?…私を抱いた夜ってこと…?」

「まさか…でも、それもあるかもしれないな…」

「一際煌めく夜ってことだよ」

「意味分かんない…結局、私を抱いた夜って事じゃない…」

「そんなストレートな言い方やめてくれ、煌めく夜が台無しだ」

男はワインボトルを手にとり、螺旋状にコルクを抜いた。

「煌めくね…、煌めいたのは夜だけ?」

「もちろん君もさ…」

「煌めく夜に煌めく君を抱い夜に乾杯だ…」

「何よそれ…」

「いいじゃないか…」

高層ビルの夜景が美しいホテルの最上階、裸の2人はワイングラスを軽く鳴らした。

「君の瞳に乾杯、なんてやめてよね」

「まさか、僕はハンフリー・ボガードじゃないよ」

「あたしだってイングリッド・バーグマンじゃないわ…」

「じゃ誰でもない2人に乾杯?」

「煌めく君に乾杯だ…」

「…………じゃそれで…」

2人はワイングラスを口元に運びワインを一気に飲み干したのだった。

幾度となく情事を繰り返してきた2人だった。

お互い禁断の関係だと分かっていた、だが感情は儚くも激しさを増していった…。

外には探偵が張り付いている。

きっと2人はこのまま破局を迎えるだろう…。

だが、そんな事は今の2人にはどうでも良かったのだ。

ただ、ワイングラスだけが2人の感情を揺さぶった。

2人は飲み干したワイングラスをテーブルに置き、再び激しく抱き合った…。





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