ポストインダストリアル時代のデザインとリーダーシップ
武蔵野美術大学大学院造形構想研究科
CL特論II:オンライン授業6回目
2020/6/22
九州大学芸術工学研究院 教授 古賀徹先生
今回は、オンライン授業だからこそ実現した
九州大学芸術工学研究院教授の古賀徹先生でした!
古賀先生は哲学がご専門で、武蔵野美術大学出版局から
「デザインに哲学は必要か」という本も出版されてます。
近現代の欧米圏の思想を中心に研究を進め、現実の諸課題に即して思考を続ける一方で、デザインの基礎論の構築を試みていらっしゃいます。
◾️九州大学芸術工学部で未来構想デザインコースの立ち上げ
◾️いまも残る工業化時代のデザイン思考
ー近代デザインについての説明の仕方ー
・機械による大量複製を前提としたプロトタイプの制作
トヨタの例(カローラ)
・目的達成のための合理主義的機能主義
・生産性向上のための徹底した効率化
・コンセプト→スケッチ→モックアップ→社会実装
・PDCAサイクル(Plan, Do, Check, Action)による品質管理
・プラミッド型の垂直的組織とライン労働
・マーケティングによる精密な市場調査、ニーズ第一主義
ーこれだけではもはや新しいものが生み出せないー
性能はすごくよくなるが・・・どんどん枠にはめられていく
◾️デザインにおける有機性が忘却?
有機的 運動の原因が個物の内部にある
機械的 運動の原因が個物の外部にある
工業デザインにおいても、製品のプロトタイプを発案・構想するときに
有機性の論理が働く
工業化以前の時代のデザイン概念に立ち返る必要
ものごとを具体化する「構想」を二つの西洋語の系譜から見てみると
design < 見る側 disegno ≒ 作る側 invenzione (Ita. Vasari, 1968)
engineering 工学 < ingegnere (Ita), ingenium (Lat) . (Vico, 1720)
◾️身体性化されたディゼーニョ
さらに考慮すべきは彫像が高所に置かれ、下にはこれを遠くから眺めるため身を離すことができるほどの引きがなく、見る人がほとんどその足元にいなければならぬ場合、この種の像は一頭身から二頭身余計に高く作る必要がある。(遠くの物をでかく作れ!)
まさにそこにその物があるように見える。
とてつもないリアリティを感じる
実際はデフォルメされているのに
Vasari ヴァサーリ『芸術家列伝』研究会編『ヴァサーリの芸術論』
目による判断 giudicio dello occio
パース図面(建築)パース図面の理論
Michelangelo, Pieta Marble
◾️構想 Invention とは
ジョルジョ・ヴィザーリ (Giorgio Vesari, 1511-1574)
concette → invenzione → forma
概念 構想 形
手が訓練されているがゆえに、概念がカタチになる
◾️ディゼーニョもしくは構想の図式
外側に原因があって
機械論の流れ=観察
目
外的自然 ⇆ 身 体 ⇆ 内的自然(魂)
形式 手 概念
有機論の流れ=構想
◾️構想: engineering < ingegnere, ingenium
機械敵工学技術にある有機性
ジャンバッティスタ・ヴィーコ
(Giambattista Vico 1668-1744)
『学問の方法』
インジェーニョ ingegno
バラバラに分離しているもの一つに融合する知性
鋭敏な人々argumen
自分の足元にあるものを飛び越えて、遠く隔たった場所から自分を扱っていることがらに適した証拠を探し出してくる人々のこと。
構想力インゲニウムに富んでいることの証拠
◾️論拠 argementum とは何か
アリストテレスの三段論法
「ソクラテス(小名辞)1は死ぬ(大名辞)2のか?」
→ その両者を媒介しうる第三の名辞=論拠を発見する
ソクラテスは( )である。 【小命題】
( )はみな死ぬ。 【大命題】
したがって、ソクラテスは死ぬ。【中命題】
さて、正解は何でしょう?
◾️正解は 「人間」 (中名辞=論拠)
第三項 失われた鎖(ミッシング・リング)を発見する能力 ← 共通感覚
<論拠=議論>は「人間」の中からつねにあふれでてくる→聞き手と共振
敏感な人々argumen は、互いに遠く離れた異なった事物のあいだにそれらを結び付けてなんらかの類似関係を見つけ出す。
ヴィーコ
人間中心主義 Humanism としてのエンジニアリング
◾️二つの構想が交わるところ
invention 第三項内側から生み出し続ける身体性
ヴァザーリの身体性
engineering 身体を動かして、見方を変えて
ヴィーコの有機的論理学 思いもよらなかった解決操作を
見いだすイマジネーション
◾️創作者・指導者像も変化する
工業化時代 Criticaとしての指導者=ゴーン型、知性優位
ポストインダストリアル時代 Topicaとしての指導者=助力型、身体性優位
全体が活きるような第三項としての身体=
リーダーは、機嫌よくしておくのが仕事
◾️リーダーシップというよりは・・・クリエイティブ・フォロウィング
状況に生命を通わせる第三項をつねに提示し続ける身体性
手による結合 combination VS 機械的結合
ウィリアム・モリス (1834-1896) の言う designing
◾️課題
要素の全体を繋げて活かすような〈第三項=鍵〉を提示する工夫、デザインや行為の事例を考え、それを150字以上200字以内で説明して下さい。
(失敗例も可)
Formsで授業中に提出
Forms で集めた内容は、授業中にシェアしてもらえました。
私は、工業化時代のデザイン思考の中で車の例も出ていたこともあり、
車の「ハンドルのあそび」にしてみましたが、実体験で大学時代に創設した
運動部の初代主将で、卒業後も関わっていたのでは下の代が育たなくなると気づき、海外の仕事も入り忙しくなったこともあり、任せてみた方がうまくいき、体育会女子部として認められるように育った例も思い出してました。
Formsで提出する課題内には、授業に対する質問や感想の欄もあったからか
今回Zoomでの質問は少なかったですが、Forms上で紹介されていた中では
難しくは感じたけど探求したくなったというコメントが多かったです。
ビジョンは追うもの
足元に出てくるもの
根拠は自分の中からしか出てこない
まさに、武蔵美に新設された造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースで初年度に出されたたくさんの課題の数々を通し、手を動かしながらプロタイピングしてきたことがどうつながっていくのか、欧米圏の思想から紐解いていかれて、一期生はそういうことだったのかという実感につながり二期生にはオンラインでたくさん出されている課題のワケが伝わったのではと感じました。初年度に美大卒以外の学生向けに用意された美大ならではの授業があり、まさに美大ならではの学びにつながる機会で感謝しています。
古賀先生はコロナ禍で車に乗らなくなって、健康になったそうです!
九州からオンラインで夜の授業ありがとうございました!
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