「ビューティアトリエはもう美容室じゃない!」人材を育てる事業展開で「強くて温かい組織」をつくろう【第四話】
宇都宮市を中心に美容室やエステサロンを展開してきたビューティアトリエのグループ代表、郡司成江さんは「しあわせ創造企業」というビジョンを掲げ、近年、カルチャースクールやコミュニティースペース、スイーツ、農業、海外へと事業領域を拡大させています。
それを支えるのは、会社の屋台骨となる右腕人材をはじめ、社員たちの潜在力を生かす人材育成。「強くて温かい組織」づくりを目指す郡司さんの挑戦です。
社員が輝くから会社も輝く
「ビューティアトリエの一番商品は社員です」。2010年、46歳で社長に就任した郡司さんは、母親で創業者の田中千鶴さんから、この理念を受け継ぎ、「人財」の育成を経営の根幹に据えてきました。
他にも選択肢のある中から、ビューティアトリエの美容室を選んで来てくれるお客さんに、日々接するのは現場の社員たち。その社員たちが志高く、のびのびと働き、それぞれの人生を輝かせてこそ、会社も輝いていく。
社員それぞれの良さを伸ばし、生かせるような会社にしていくことが、経営者である自分の役割だと考えています。
時代に合わせて、社員たちの活躍の場をつくるには、先代から受け継いだ事業だけにとどまってはいられません。美容市場も高齢化で縮小していくのが避けられない中で、常に新しい領域に挑戦していかなくては、未来は見えてきません。
将来を見据えて、郡司さんがキーワードにしたのが、美容室やエステが提供する外面の美しさだけではなく、「健康」という体の内面の美しさと、「心の充実」という精神面の美しさを養う「三面美養」。そう掲げることで、将来に向けて会社が取り組むべき事業領域は、食や運動、カルチャースクール、コミュニティースペースの運営などと大きく広がりました。
「ビューティーアトリエはもう美容室じゃない」。郡司さんは自社の変革に乗り出しています。
「三面美養」は社員の健康から
お客さんに「三面美養」を提供する会社になるためには、まず社員たちが健康でなくてはいけない。その一端が表れているのが、ビューティアトリエ本店敷地内にあるカフェ。社員たちのお弁当をつくり、各店舗に届けるために誕生しました。
かつては、お客さんが差し入れてくれるお菓子で食事を済ませてしまう若い美容師が少なくありませんでした。しかし、それでは栄養バランスが崩れて、心身に悪影響を及ぼし、時には離職につながることもある。
そこで、各店舗に炊飯器と白米を配り、社員たちにきちんとご飯を食べさせないと店長が注意を受けるという仕組みを導入。それをさらに進めて、社員食堂代わりのカフェを設置し、一般の利用客にも開放しています。
農業との関わりを持ったのも考え方は同じ。社員たちが土に触れ、食べ物のありがたみを感じられるように、近隣の農地を借りた農業体験が始まりでしたが、野菜を育てることの面白さを知った社員たちが栽培量を増やし、時期によっては自社で運営するコミュニティースペースで、雑貨や各地の食料品などとともに販売するようになりました。
事業領域の拡大で社員のキャリアパスを広げる
2021年秋には、米粉のバウムクーヘン専門店「バウムハウス樹凜(じゅりん)」(栃木県大田原市)の事業を承継。畑違いの業界だったものの、米粉を使ったスイーツであれば「三面美養」の考え方にも合い、地元で愛されてきた商品を残すことができる。
そして、何より社員たちのキャリアパスを広げられると考えたからでした。
美容師としての腕を磨いていくという選択肢だけでなく、スイーツの製造販売を手伝ったり、マネジメントを学んだりすることで、社員たちがさまざまな気づきを得て、自分の可能性を広げていく。
そうした社員たちが社長の「右腕」となる人材として、今後も本業を支え、新規事業に乗り出していく力になる。そんな循環をつくっていこうとしています。
社員のための「未来デザイン図」
「私のファミリービジネス物語」の第一話で紹介したビューティアトリエの経営方針書「未来を創る魔法の書」には、郡司さんが自らの経験からつかみ取った経営手法のエッセンスが詰まっています。
例えば、長期事業構想は「社員の未来像」「組織の未来像」「事業の未来像」の三つから成り立っています。また、社員たちが1年後、どうなっていたいかを書き出し、そこに向かって日々をどう過ごしていくかを記す「未来デザイン図」のページが置かれています。
入社以降、どんな技能を身につければ、スタイリストから店長や会社幹部に、あるいは新規事業責任者になれるか、キャリアパスが明示されています。
会社のビジョンや経営方針書というと、会社の上層部が社内に浸透させようとするものの、現場が腹落ちできないまま、神棚にまつられてしまうケースが多くありますが、「魔法の書」は会社や経営者のためだけではなく、「社員一人一人のため」を意図して作られている。そのことが「魔法の書」の構成からも読み取れます。
後半には、「会社とは」「利益とは」と郡司さんが社員たちに問いかけるページが展開されます。そこでは、会社とは「人が幸せになるためにある」、利益とは「社員を守るため、会社存続のための費用。社員の創造性の総和であり、全社員で達成すべきもの」と説明されます。
強くて温かい組織の先にある「みんなの幸せ」
かつては郡司さんも「みんなで頑張って利益を出そう」と言いづらかったそうです。社員たちから「上司や社長の給料が上がるだけ」と思われないか心配だったからです。
しかし、一つ一つかみ砕いて語りかけることで、お互いの不安と不満が消えていく。そうした積み重ねが、郡司さんの実践する「強くて温かい組織」への道筋です。
最後に、郡司さんの著書「人財育成の教科書 理想のメンバーを育む」の一節を紹介します。
<終わり>
※次回からは、東京・八王子の「栄鋳造所」の4代目経営者、鈴木隆史さんのファミリービジネス物語をお届けします。
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