今夜、この服でどんな酒を飲む?第6夜/高須浩平
僕の趣味は、服をながめながら酒を飲むこと。
10代の頃より集めてきたコレクションの中から一品をチョイスしてハンガーにかけ、それに合ったストーリーの酒で一杯やる。
何ともバカバカしい趣味ですが、これがけっこう楽しいのです。
全4回でおつきあいください。
さて、今夜は何をながめて酔おうかな♪
第6夜『DIOR HOMMEのスリムジャケットをながめながらヴーヴ・クリコを飲む』
「なぜ、高い服を着るようになったんですか?」
僕は決して裕福ではありません。
しかしファッションが好きで高価な服も着ます。
放送作家になってから仕事先で度々、冒頭のようなことを聞かれるので今回はそのお話をさせてください。
ラジオのハガキ職人がきっかけとなり、僕が投稿していた番組の演者さん・スタッフさんから声をかけて頂き、放送業界にかかわることになりました。
裏原宿のTシャツにヴィンテージデニム。
自分なりにオシャレな格好をしていたつもりですが、いかんせん見た目が超地味なんです。僕。
タレントさんもスタッフさんも皆キラキラしている中で僕など目立つことはありません。
いや、目立つつもりはありません。
ただ、「君ってみすぼらしいね」と言われたことがあるのです(笑)。
そんな時に当時出入りをしていたラジオ局のディレクターさんが声をかけてくれました。
たしか2000年のこと。
「あのさ、服にお金かけているのは分かるんだけど、地味な見た目の君に裏原宿は似合わないから、PRADAの黒い服だけを着たら?」
これまで“自分が着たい服を着る”ということしか考えていなかったので、これは頭の中に衝撃が走りました。
「自分に似合う服とはなんぞや?」
ディレクターさんの言葉がものすごく刺さり、忠実にPRADAの黒い服だけを着てみることにしました。
すると次第に周りの反応も変わっていき、
「なんかいい服着てるね!」
「最近オシャレになったんじゃない」
「それ、どこのブランド?」
などと言われるようになりました。
さらには服の話をきっかけに新しい仕事を頂いたりも。
あとで気付いたことなんですが、“ハイブランドの黒い服”というのは生地感もシルエットも完璧で、どんな人が着てもそれなりに似合うものだったんです。
「シンプルな黒い服でもこんなに奥深いのか……」
自分のファッションの目覚めはここなんだと感じています。
その後もディレクターさんのアドバイスに従いながら、黒い服を基調にワンポイントを加えたり、少しずつ冒険しては失敗を繰り返して今にいたります。
そしてこの頃、ファッション界に衝撃が走ります。
エディ・スリマン率いる『DIOR HOMME』が2002年にデビューしたことです。
ハイブランドに「ロック」「ストリート」の要素を持ち込み、ものすごくタイトなシルエットの服を発表。
ファッションの流れを変えた“カリスマ”エディはその後『SAINT LAURENT』、現在は『CELINE』で大活躍。
今では普通に見かける“めちゃめちゃ細いタイ”も彼がきっかけで流行りましたね。
1stコレクションを伊勢丹で発売した際には安い価格帯で7~8万円、高いもので数十万円するものしかないのにもかかわらず、開店前に大行列。
僕も並んでスーパースリムなブラックのパンツを3本買いました。
それにしても行列好きだな、僕(笑)。
そして自分のハイブランド熱が最高潮に達した2004年に買ったのがこちらのジャケットです。
ショップで見かけたときに一目惚れ。
現金を近くのATMで降ろして、どーんと買いました!
確か徹夜明けでその解放感だったような(笑)。
いっけんシンプルに見えるけど、超タイトでシルエットが最高。
元を取れるくらいに着込んだので色あせて形もくたびれていますが、コレクションの中で大切な一品です。
今度、黒く染めなおしてみようかな。
さて、この服をながめながら何を飲もうか?
選んだのは、『ヴーヴ・クリコ』。
エディがフランス人なので、そうなるとシャンパンしかないでしょう!
ちなみにそのディレクターさんがもうひとつ僕に教えてくれたこと。
「毎日安い酒を飲むくらいなら、1週間に1回でいいから高い酒を飲みなさい」
これも忘れられない一言で、泡に目覚めるきっかけにもなりました。
う~ん、酔いが回り、気分があがってきて、久しぶりにこのジャケットに袖を通したくなりましたね。
「うッ、タイト過ぎて入らない……」
40代半ばにもなると、若い時より身体がだらしなくなるものです。
お酒飲むと、すぐむくむし。
ダイエットしても入らなそうです(泣)。
この服は鑑賞用に回そうっと。
次回は僕にとって着こなすのが難しい『WACKO MARIA』の服で飲みます。
ぜひいっしょに酔いましょう!
(つづく)