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『 みかん 』
「また食い散らかして!」
テーブルの上で
半身に剥かれたまま小さくなっていたみかんが
「何遍言うたらわかるの! ほんまに。」
ほいっ、ほいっ、と
嬉しそうに嫁の口に飛び込んでいく
食卓に乗った意味をもらったかのように
忙しく吐き出される言葉と食べカスの山の横で
首を取られないように
むかし鬼と呼ばれたその人は
丸い背中を向けて
見知らぬ土地の天気予報から目を離さない
「また聞こえへんフリして、腹立つ!」
何十年も戦い続けてきた
二人の口から吐き出されたみかんカスは
やがて丸い
黄色い巣の中に収まって一つになった
炬燵の端で
新しい人が
新しいみかんを剥き始める
温い(ぬくい)冬の昼下がり
2020年 11月 18日 創作