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知ってほしい!ワンヘルス(One Health)|私たちと動物、環境のつながり

イントロダクション

ワンヘルスとは何かをご存知でしょうか?
私はワンヘルスガイドとして、このテーマを広めるために活動していますが、実はこのワンヘルスという言葉を知ったのは昨年のことです。

ワンヘルスを簡単に言えば、人と動物、生態系の健康をひとつ(One)とみなし、守っていこうとする考え方のこと。

これだけ聞いても何だそれ?と思うでしょう。かつての私もそうでした。

地球上の生態系保全のために、野生動物や家畜、人間、そして地球(自然環境)の健康をどのように関わり合っているのか。この考え方は、近頃までの私がそうだったように、多くの人にまだ知られていません。

そして、昨今よく聞かれるようになったアニマルウェルフェアも、実はこのワンヘルスと深く関っています。

ここでは、ワンヘルスとは何か簡単に皆さんにお伝えし、私たちの生活にどのように影響を与えているのかをご紹介したいと思います。


動物由来感染症の急増と環境変化

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、動物から人に感染する「動物由来感染症(人獣共通感染症)」の一つです。
WHOで確認されている⼈と動物の共通感染症はいま200種類以上あるといわれています。

ウイルス、細菌、寄⽣⾍など、動物に直にかまれたり触れたりすることで感染する「直接伝播」、蚊やダニなどが媒介となって感染する「間接伝播」のどちらかで、動物から私たち人間に感染します。

実は、過去100年間に、動物由来感染症は急激な増加を見せています。
SARS(重症急性呼吸器症候群)やエボラ出血熱など、新型コロナウイルス以前にも世界を震撼させた感染症もこうした「新興感染症」に含まれます。

この感染症の増加は、世界人口の増加や森林破壊など、さまざまな環境変化と一致しています。
野生動物から家畜や人に感染する動物由来感染症は、自然破壊と深い関わりを持っているのです。

大規模な開発によって森林が広く消失し、人が立ち入らなかった自然の奥地にまで人が侵入することで、感染症の病原体を持つ野生動物と接触しやすくなります。

これが新たな動物由来感染症の発生を引き起こし、アウトブレイク(集団発生)、エピデミック(流行)、パンデミック(世界的な流行)につながります。

気候変動と感染症

気候変動(地球温暖化)もまた、感染症の発生と拡大に影響を及ぼします。

温暖な気候は、病原体を媒介する生物(例えば蚊やダニ)の活動を活発にし、新たな感染症の発生を助長します。

気候変動がもたらす環境変化により、動物由来感染症のリスクが高まっています。

「ワンヘルス」の重要性

ワンヘルス(One Health)とは、動物、生態系の健康をひとつとみなし、
守っていこうとする考え方です。

地球の生態系を守るためには、野生動物、家畜、人間、そして地球の健康を維持することが重要です。

ワンヘルス(One Health)

《定義》
ワンヘルスとは、ヒト、動物、生態系の健康のバランスを持続的に保ち、最適化することを目的とした、統合的で統一的なアプローチである。

・ヒト、家畜および野生動物、植物、そしてより広範な環境 (生態系を含む) の健康は密接に関連しており、相互依存していることを認識している。

・このアプローチは、清潔な水、エネルギー、空気、安全で栄養価の高い食料、気候変動への対応、持続可能な開発への貢献など、総合的なニーズに取り組みながら、社会のさまざまなレベルにおける複数のセクター、分野、コミュニティを動員して、ウエルビーイングを育み、健康と生態系への脅威に取り組むために協力する。

引用:公益社団法人 日本WHO協会

ワンヘルスに期待される効果と試み

予防のコストは被害額の2%

自然環境や生物多様性の保全を通じた「ワンヘルス」がもたらす効果については、経済的な面でも注目されています。

新型コロナのパンデミックが世界経済にもたらした損失は莫大であり、IMF(国際通貨基金)が予測したところによれば、2020~2021年の合計で11兆ドル(約1,180兆円)の損失が見込まれています。

しかし、「ワンヘルス」の取り組みにかかるコストは、この被害額に比べてはるかに小さいのです。

自然環境の保全と経済効果

自然環境の破壊ではなく、保全を進めることで得られる生態系サービスを活用する方が、人の暮らしや健康を守り、経済効果も大きくなるという考え方が強調されています。

自然環境の保全は、単に環境を守るだけでなく、経済的な利益ももたらす重要な取り組みであることが理解されるべきです。


日本でどう「ワンヘルス」を実現する?

法制度の現状と課題

現在、日本には「ワンヘルス」の実現を明確に定めた法制度は存在しません。

感染症や畜産、自然保護に関する法制度はありますが、これらは厚生労働省、農林水産省、環境省といった異なる省庁によって所管されており、連携が部分的にとどまっています。

また、海外からペットとして輸入される野生動物の規制や流通の把握にも課題があり、こうした野生生物取引が感染症の拡大要因となる可能性があります。

省庁間の連携と民間の協力

「ワンヘルス」を実現するには、教育、物流、人の動きなど多岐にわたる分野での協力が必要です。
これには、より多くの省庁や民間の協力、関与が不可欠です。日本獣医師会と日本医師会は、2012年に「ワンヘルス」の理念のもと連携を表明し、2016年には第2回世界獣医師会で「福岡宣言」を採択しました。この時点では主に人と動物に焦点が当てられていましたが、新型コロナのパンデミックを受け、地球環境や生物多様性の健康も重要視されています。

福岡での取り組み

福岡県では、ワンヘルスガイドを通じて、地域住民の健康を促進しています。

具体的な取り組みとしては、以下の6つの柱があります。

  1. 人と動物の共通感染症対策:医療と獣医療が連携し、発生予防とまん延防止を行います。

  2. 薬剤耐性菌対策:2016年から拡大防止のため、普及啓発などのアクションを実施しています。

  3. 環境保護:良い環境と多様な生物のすみ分けを保つことが重要です。

  4. 人と動物との共生社会づくり:愛玩動物とのより良い関係を築き、定期検診などの衛生管理を行います。

  5. 健康づくり:家族や愛玩動物、環境とのつながりを大切にしています。

  6. 環境と人と動物のより良き関係づくり:安全・安心な食と食育の推進が不可欠です。


生物多様性の保全の重要性

現在の日本では、「ワンヘルス」を実現するために生物多様性の保全が鍵となります。

新型コロナウイルスのような感染症が世界の自然破壊と深く関係していること、そしてその破壊につながる開発に日本が輸入・消費する大量のモノや資源の生産が影響していることを、日本社会が広く認識することが重要です。

分野を超えた連携と協力

環境保全、保健、衛生、畜産、教育、経済など、様々な分野で連携と協力が必要です。

ワンヘルスを実現するためには、各分野の壁を越えた協力が不可欠です。

                             場所:鈴木牧場(北海道広尾町)


私たちが一人でもできる一歩は何か

ワンヘルスを実現するために私達一人一人ができる事はたくさんあります。

例えば、日常生活の中で以下のような小さな一歩を踏み出す事ができます。

地元で生産された食品を選ぶ
地産地消を実践することで、地域の農業と生態系を守ることができます。

環境に配慮した製品を使う
エコフレンドリーな商品を選び、持続可能な消費を心がけましょう。

適正なペットの飼育
ペットの健康管理をしっかり行い、適切な環境で育てることが重要です。

自然環境の保護活動に参加する
地域の環境保全活動に積極的に参加し、自然を守る取組を支援しましょう。

薬の適正使用
医師の指示に従って薬を使い、薬剤耐性菌の増加を防ぎましょう。


終わりに

「ワンヘルス」は、ヒト、動物、そして環境が密接に関連していることを教えてくれます。この考え方を理解し、私たちの生活に取り入れることで、未来の健康と安全をよりよくすることにつながります。次のパンデミックに備えて、今できることを実践していきましょう。

また、社会全体で協力し、次の世代にも健康で持続可能な未来を引き継ぐために、何ができるかを考え続けることが重要です。これは私たち全員が取り組むべき課題だと思います。

私たちが健康に暮らしていくためには、地球に暮らす動物や生き物、地球自身も健康である必要があります。ワンヘルスとは、そのことをシンプルに考えて行動する考え方のことです。

皆さんがこの記事を読んで、「ワンヘルスってそういうことだったのか」と理解し、日常生活で小さな一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しいです。



福岡県のワンヘルスの森(四王寺県民の森)
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