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【短編】 似顔絵のしおり

1 野間 悠香

 門脇かどわき真緒まおさん、の……ですか? 私から言える事は特にありませんけどぉ……強いて言うなら、門脇さんの傍には誰かいた・・・・というぐらいです。
 幽霊? いいえ、そんなんじゃ無いと思いますよ。もっと別の、何か。……いつから? って聞かれましても……正確には分かりませんけど、漠然とした記憶では、小学生の時にはいたと思います。

 あの人とは保育園の時からだから、一応は幼馴染みです……。たぶん、私と門脇さん、幼い時は仲良く遊んでた筈ですよ。覚えてないけど、アルバムとか見ると楽しそうに写る写真とかあるから。
 五年生ぐらいだったかな、門脇さん、誰もいない教室に一人でいる時、誰かと話をしてるようでした。ちょっと“不思議ちゃん感”出てた感じでしたよ。
 その事を他の子達に言うとイジメとか起きると思ってずっと黙ってはいました。だって、イジメって嫌じゃ無いですかぁ。

 中学は三年間通してクラスが別々で、廊下ですれ違うと挨拶をする程度でした。当時もイジメられてはなさそうでしたし、そんな話も聞かなかったかなぁ。うちの中学って先生が厳しいから、そういうのはすぐに生徒指導行きになるだろうし、門脇さんもそんな雰囲気じゃ無かったです。

 私から見て門脇さんですか? えー……なんだろ……あまり話さなかったからよく覚えてないけど……とにかく”ミステリアス”って感じかな。まぁ、こっちも話しかけようって気も無かったから、ミステリアスも何も無いんですがね。
 とにかく、頭良いし、運動出来るし、寡黙な才女って感じ。一部の男子からは人気あったとか。ほら、中学の男子ってテレビの影響とか受けやすくなかったですか? だからかなぁ、学園ドラマか何かで寡黙な美人転校生演じた女優と、他の女優のどっち派みたいなので、派生して門脇さんも派閥に巻き込まれたみたいな。あ、男子が勝手に盛り上がってただけですから門脇さんはガン無視だったはずですよ。

 えっと、話を戻しますね。
 高校が門脇さんと一緒だったのは偶然です。私より頭良い人だったから、もっと良い高校に行ける筈なのに……それで一緒のクラスに。

 私と門脇さん、好みも趣味も雰囲気も付き合う友達も全然違うから、あんまり話とかはしないままでしたよ。クラス一緒でも何も知らないままだったんです。けど、夏休みの美術課題で、複数のテーマからどれか一つ選んで描くってのがあって、夏休みに公園で、偶然スケッチブックに下書きしてる門脇さん見かけたんです。ちょっと気になったから勇気振り絞って話しかけた時、その絵を描いてました。

 課題の一つに『友達』とか『大切な人』とかあったから、それで描いたんです。女の子の絵を。
 訊いたら友達の顔って言ってたけど、あまりにも女子高生っぽくないなって思って、でも童顔ならどうかなぁとは思ったかな? どっちにしろ、クラスにはいないし、門脇さんの交友関係とか謎だし。
 いたのかもしれないけど、私的には小学生の時に門脇さんが見えない誰かと話してたのが突然思い出されたんです。

 言い訳に聞こえるかもだけど、門脇さんが誰もいないところで誰かと話しているってのは何人かから聞いてるから、他も当たってみてはどうかと……。あ、廣沢君と同じ大学なんですよね? だったら彼に訊いてみたらどうでしょう。男女分け隔てなく喋れる人でしたから。

2 廣沢 庄平

 ん? 門脇真緒? ……ああ、あの秀才美人ね、覚えてる覚えてる。高校ん時にクラス一緒だったし。で、なんかあった?

 …………幽霊……幽霊……あ~、幽霊・・は見えない筈だぞ。根拠っつー根拠になるか分かんねぇけど、俺の知り合いにガチで見える奴いてさぁ、門脇さんが見えてるかどうか検証したわけよ。
 ああ、別に廃墟に連れて行ったとかじゃねぇよ。ほら、学校って大体いるっつーだろ? だからいるところを門脇さんが通ったときの反応を観察してたんだよ。そしたら見えてねぇ感じだったから、見えてはねぇ筈だ。

 まぁ、あの人、ずっと前から謎だったし、幽霊見えてないけど誰かと話してたのは有名だったし。なんでも、夏休みの宿題で知らねぇ女の顔を描こうとしたとかなんとか。まあ、噂だから嘘か本当かは知らねぇし、知る気もねぇな。

 いや、それよりも、だ。あんたに訊きてぇんだけど、門脇さんの何が気に入ったんだ? 正直美人だけど、俺もコクって即答でフラれたけどよぉ。よくあの人と付き合えたよな。なんで落とせたんだ? つーか、付き合って楽しいか? あの雰囲気じゃ、飲み会とか行かなさそうだし、カラオケも行かなそうだし、デートしても晴れた日の海歩いて終了、みたいな? ”あっさり系”フル稼働みたいな雰囲気だろ。

 おい、目が怖ぇよ、別に悪い意味じゃねぇって。ってか、こうやってあの人の事調べてる時点で、あんたもあの人を信用してねぇ証拠じゃねぇの?

 ……………………いや、黙られても困るけどさぁ。何があったか深く訊く気はねぇけど、あんま深く考えねぇ方がいいぞ。女の考えてる事なんて、男がわかるわけねぇからよ。

 ――あ、悪ぃ、彼女から呼び出し。じゃあな。

3 三井 マリア

 ねぇ真緒どう思う? あいつ、『お前の誕生日六月六日で覚えやすかっただろ?』って言ってさぁ。あたしの誕生日は六月七日だってぇの! 覚えやすいも何も、六月六日だった事なんて一度もねぇわ! どうせ元カノの誕生日が残ってるんだろうなってすぐに気付いちゃった。だって、七月七日で、ゾロ目で七夕だったみたいだし。それ引きずってどうすんのよ、ほんとバカ。なにが、『俺、過去に縛られるの趣味じゃねぇから』よ。誕生日引きずってるわ、別れる前に買って貰った靴がまだ新しいから使ってるわで、いい加減にしろっての。

 けど、向こうも反省したみたいで、お菓子買ってくれたから、その点は良しとしましょう。あたしも大人だし、これ以上腹立てても仕方ないから。
 ……けど、だけどもよ。あのバカ庄平、寄りにもよって饅頭ってなんだ? 普通、二十歳過ぎの若い女に饅頭で謝罪ってなんだ? ちょっと可愛いスイーツ店で奢るぐらいがいいんじゃねぇの? しかも、寄りにもよって”こしあん”。あたしゃつぶあん派だってぇの! これも元カノの好みとか言ったらぶちのめしてやろうかってぇの。

 真緒も彼氏には気をつけた方が良いよ。ってか、庄平君から聞いたんだけど、真緒の彼氏、どうも真緒の事調べてるみたいよ。なんでも、幽霊が見えるかどうかについてみたいで。
 真緒ってそっち系じゃ無いでしょ。昼間だけど肝試しで「心霊スポットのトンネル行こう」とかって言ったの必死で拒んでたし、『最恐お化け屋敷』ってCMしてたお化け屋敷に行くのも嫌だったし。

 へ? そっちはもう決着ついたの? ねぇ教えてよ、何があったの? あたしも彼氏とのトラブル、赤裸々告白したんだしさぁ!

 へ? ……いや……いやいやいやいや、勝手に喋ってないよ。ほら、話題が重要じゃんよ。それで庄平君の話したら面白いし楽しいし。
 あ、でも、嫌な話ばかりじゃないからね。そこは誤解しないでよ。だって、ずっと喧嘩してたり、何でもかんでもイライラしてたら続かないし、いい話だっていっぱいあるんだから。
 この前だって、欲しいっておねだりしたアクセサリーとかアロマとか買ってくれたよ。……あ、でもパチモンだったわ。
 あ、でも前に流行りのスイーツ店に……あー、並ぶの面倒で近くのラーメン屋だったわ。

 え、ちょい待ち。あれ? 良い思い出少なくね? ……いや、それよりも、思い出せば思い出す程、なんかあたし……都合のいい女感出てんじゃね?

4 門脇 真緒

 …………あったあった、このスケッチブック。懐かしい。高校時代、こんな絵ばっかり描いてたんだ。
 ……そう、これよ信也君が探していた私の見えない友達の絵。すごいでしょ。しっかり人間の顔してる。

 正直、彼女がどういった人かは知らないままよ。けど話が出来て、ひとりぼっちだったことは無かったかな。私が“会いたい”って想ったら現われてくれて、テストの時とはかある意味でカンニングしてた気分だった。だから、学力が高い高校に行けるって言われても自身が無かったから、身の丈に合う高校へ。

 高校の時、宿題でこの下書きをしたんだけど、さすがにこれを提出したら色々面倒かなぁって考えて、違う絵を描いて提出したのよ。
 けどさすがにこのまま何もしないでいたら、彼女が拗ねちゃうから、宿題とは別に彼女を描いたの。……たしか……この奥……あー、あったあった。まだ残ってた。

 画用紙に書いたから昔の絵と一緒に捨てたと思っちゃった。ん? ああ、右半分の余白は私と並んだ構図にしようとして空けたんだけど、この絵が完成した後、あの子をどれだけ会いたいって念じても現われてくれなくなっちゃったの。

 さっきから彼女彼女って言ってるけど本当は名前もあったよ。けど、消えたら一緒に名前まで消えちゃって、どこかに書いとけば良かったって思っても、やっぱり後悔って先に立たないなぁ。まぁ、この絵だけでも残ったから良かったのでしょう。

 彼女は幽霊じゃ無いのは、結構前から知ってたの。
 テレビで見えてる人達が言ってる印象と全然違うし、実際に見えてるって人達の前を通り過ぎても効果無かったし、というより、カンニング中に彼女が近づいても無反応だったし。
 あとから何かの番組で“イマジナリーフレンド”って、空想上の友達の事ね。第三者には見えない存在。それを私が作り出したのか、それとも別の存在か、結局は分からずじまいで別れちゃった。

 ちょっと不思議な、何か惹きつけるような変わった目をしてたような子だった。けど、引っ込み思案だった私が、無事に学生時代を終えることが出来たのは紛れもなく彼女のおかげ。
 感謝したいから、もう一度会いたいわ。……同窓会みたいに会えたら良いんだけどね。

 ……というわけで、以上、これが門脇真緒の秘密です。

5 崎嶋 信也

 崎嶋しおり。それが彼女の名前だ。真緒と付き合う以前、夢の中で現われて自己紹介と真緒の事をよろしくと言ってきた女だ。そして、五歳の時に病気で死んだ俺の妹と同じ名前でもある。

 彼女の真緒がしおりと遊び、育ったというならそうだと思うが、五歳の妹が幽霊となって真緒に憑いたんなら、五歳のままだろう。
 けど、絵の女はもっと年上。そして真緒がその事に触れてなかったから、元々大人びた女性だったか、一緒に成長していたのかもしれない。どちらにしろ証明も出来ないし、幽霊でもなさそうなのは確かだ。なら、どうして俺と同じ名字、妹と同じ名前なのだろう。

 出身が関係しているのかもしれない。そう思って調べると、確かに俺と真緒は同じ町で生まれ育っていた。俺はしおりが死んで引っ越したが、だからといって真緒と接点があるわけでも無い。あったとしても互いに覚えてないのだから、どうとも言えない。

 結局、探偵でもない俺が出来る調査なんてたかがしれている。結果として分からずじまいに終わってしまった。
 けど、いつかは解明しなければならないのかもしれない。あの絵を見てから、時々真緒の傍にしおりが現われる。
 何をするでもなく、笑顔を俺に向け、何事も無く消えていく。害は無いだろうけど、もし、何か意味のある行動だというなら、しおりの存在を解明してあげたい。

 ……ただ……どう足掻いても今の俺にはどうすることも出来ないのだが。

 突然、この企画を拝見して参加いたしました。
 清世さんの絵も素敵で、出来る事ならテーマ三作品とも小説を書きたいと思いましたが、企画に気付いたのが遅く、一作品だけですが参加いたします。
 このような機会と巡り会えたことを喜ばしく思います。ありがとうございました。

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