犬吠埼灯台
ホテルの窓いっぱいに広がる満点の星空。そこに浮かぶように真っ白な灯台が立っていた。
あの灯台、明治時代からあの場所で、夜の海を照らし続けてるんだって。ずっと昔からよ。凄くない?
ねえ、あの灯台のように、永遠にあなたの愛で私を照らし続けてくれる?
彼は勿論だよと答えるように、私をそっとだきしめ、そしてその姿を、まるでスポットライトのように、灯台が照らしていた。
その晩私は夢を見た。
あの大きな灯台が私に話しかけてきたのだ。
あのさ灯台の仕事って、本当は暗い海を照らして、安全に船を導くことなんだ。カップルの恋の演出のためにライトを光らせるのは僕の仕事じゃないんだよね。
私は恥ずかしくなって下を向いた。
実は僕、地球から遠く離れた星へ行く事にしたんだ。そこには僕を必要としている船がたくさんいるんだよ。その星にはね、昔の地球みたいにエキゾチックな港町があって、たくさんの市がならんでるんだ。いろいろな星からたくさんの人々がやってきて、凄く賑やかなんだ。
僕はその町の突端に立ち、灯台本来の仕事をする。それでね、
今度は灯台が白い身体を真っ赤にして下を向いて、
君も一緒に来て欲しい。君に一目惚れしちゃったんだ。僕と結婚してください。
灯台からの突然のプロポーズに私は戸惑った。私には未来を誓った彼氏がいる。しかし、宇宙の果てにあるエキゾチックな星は魅力的だ。でも、やはり愛する彼を見捨てるわけにはいかないし‥。だけど灯台の気持ちを無碍には出来ない。そんな葛藤にさいなまれているうちに、ハッと目が覚めたのだった。
夢の中でも、灯台のプロポーズに心が揺らいでしまった。私は永遠の愛を約束してくれた彼に対して申し訳ない気持ちで一杯にながら、隣りで寝ている彼に目をやると、
彼は居なかった。
すると突然、大きな地響きが。慌てて窓辺に駆け寄ると、灯台がゴーゴー音を立てながら小刻みに揺れている。そして展望デッキには彼の姿があり、晴れやかな笑顔で手を振っている。私は咄嗟に、灯台にプロポーズされたんだなと思った。
(了)