貨物列車
伯母のうちの帰り、大きな夕日が赤々と見える電車のホーム。
私と従姉妹は、真っ赤ないちごが山盛りに入った大きなレジ袋をそれぞれに下げ、自宅に向かう上り列車を待っていた。
私達は同い年で同性。しかも誕生日が一か月しか違わないからか、お互いが相手に対して激しいライバル心を燃やしていた。
昼間もいちご畑で、どちらがきれいないちごをたくさん摘めるか争い、そして今、真っ赤に熟れた大きないちごがぎっしり入ている重たいレジ袋を下げ、二人とも大変な思いを強いられている。
あー、重たい。いちご、ちょっと摘みすぎたよね?
と、私が言うと、従姉妹は
私は仲良しのお友達がたくさんいるから、これじゃ足りないわ。
と、自慢気に言ってきた。それをきいた私も負けじと、
摘みすぎかと思ったけど、やっぱり私も足りない気がしてきた。明日習い事
だから、そこの先生やお友達にプレゼントするの。
と、得意気に言う。同い年の従姉妹はまだ習い事に通わせてもらってないので、悔しそうな目で私を睨んだ。
ぷわーん!大きな汽笛の音と共に、貨物列車がホームに入って来た。
従姉妹が早口で、
私はもう100まで数えられるから、
あの電車がいくつ繋がっているか、
数えられるよ。
と言うが早いが
いち、に、さん
と数え始めた。
私も負けじと、いち、に、と数を数える。
ガタンガタン。貨物列車の貨車は、永遠に続くかのごとく、次々と私達の目の前を通過する。しかも物凄いスピード。
貨車を追ってる目も疲れてきたし、声を出して数を数えているので、口も疲れたし、喉もカラカラだ。
最後の貨車が通り過ぎ、私達は声を揃えて、
52
56
え?
絶対52だよ。
私、この前、箱にみかんがいくつ入ってるか、数えられたんだよ。だから私が絶対合ってる。
と、私が言えば
違う56だよ。
私は来月からそろばん行くから、
ママから九九教えてもらってるんだよ。ゆみちゃん九九知ってる?
と、従姉妹も譲らない。
ぷわーん。
また汽笛がなったので、音の聞こえる方に振り向くと、遠くから機関車が近づいて来るのが見えた。
私達は互いに顔を見合わせた。従姉妹の目は、闘志を露わにしている。
次の列車で、もう一度勝負。
2人は気合充分。次の勝負で勝つのは絶対自分。一台足りとも見逃さないぞ!お互い、ホームから落ちそうなくらい前のめりになっていた。
ぷわん!
短いけど、とても大きな汽笛の音が響いた。私達は驚いて目を閉じて耳を塞いだ。しかし私は、貨車を一両でも見逃すまいと目を開けた。そして目の前に見えて来たのは、
たった一両の機関車の後ろ姿だった。
私達二人は、その後ろ姿を見送り、顔を見合わせてゲラゲラ笑った。
(了)