ショートショート弁当
出発までまだ時間があるから、お弁当でも買って食べようかな。
そう思い、駅の構内をうろうろしていると、
「名物ショートショート弁当」と書いたのぼりが目に止まる。小さなスタンドの中に女性が一人ぽつんと座っていた。
この駅にそんな名物弁当あったかな?と思いながらも、ショートショートが好きな自分はこの弁当に興味がわき、ひとつ買ってみることにした。弁当の包み紙にショートショートが書いてあるのかと思っていたら、裏側が原稿用紙になっている。不思議に思い、
これは?
と訊ねると、
この原稿用紙にショートショートを書いていただきます。お題は駅弁で。
え?
私が食べ終わるまでに
書き上げてくださいね。それではスタート。
そう言うと、女性は私の弁当を食べ始めた。
私は大慌てで、スタンドの隣りに置いてある
パイプ椅子に腰掛け、長机に向かってショートショートを書き始める。
モグモグ、もうすぐ食べ終わっちゃいますよ。
え!早いなぁ。
書き終えたら、作品を読み上げてください。
作品を書き上げた私は、早速、彼女の前で作品を読む。
うーん。全体の構成はいいけど、ありがちなお話しですね。残念ながらボツ!
えー!
それでは、もう一回チャレンジ!
結構自信あったんだけど、私はそう思いつつ、渋々代金を払い、もう一度、包み紙の裏にショートショートを書き、彼女の前で読み上げる。
お話しの展開がちょっと強引じゃないですか?
残念ながらボツ!
と、また彼女に言われてしまった。
私はまた弁当を買い、彼女はそれを食べ始める。それにしてもこの女、ホント採点がきびしいな。しかもよく食うよ。私はそう思いながら、弁当にかぶりつく女性を横目に、包み紙の裏にショートショートを書き続けた。
もう何本書いただろか?やっと彼女からオッケーがでた。腹を空かせ、素早く包みを開き、弁当を食べようとする私に彼女が
実はこのお弁当、味がいまひとつで、全然売れてなかったんです。だけど、この施策を始めてから、あなたみたいなショートショート好きのお客様のおかげで、最近、少しづつ売上を伸ばしているんです。本日はたくさんのお買い上げ、ありがとうございました。
そう言うと、深々と頭を下げた。
(了)